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第8回「素人が種苗法改正を考えるためのたったひとつの原則」【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

昨年、種苗法の改正にあたり、賛成派と反対派に分かれて大騒動が起こりました。2021年4月1日に改正種苗法が一部施行されたものの、世間は関心を失ったように静寂です。間宮さんは、負のイメージのまま固定化する「悪い風化」になってしまわないようにと改めて種苗法をめぐる議論を振り返ります。


2021年4月1日、改正種苗法が一部施行された。

登録品種の権利を持っている育成者権者(新品種の作者)が、輸出先国や、国内の栽培地域を限定することができるようになった。

施行は二段階に分かれている。昨年、芸能人まで巻き込んで騒動になった「自家増殖の許諾制」部分については1年後、2022年4月の施行が予定されている。

たまたま施行の直前に、知人から依頼をもらい、種苗法改正について小さな講演をする機会があった。

どんな切り口で話そうかと考えた結果、育種家としても有名な竹下大学さんの著書『日本の品種はすごい うまい植物をめぐる物語』を引用し、ルーサー・バーバンクを紹介するところからスタートした。

賛成や反対に焦点を当てるのではなく、種苗法の本質をまず共有したいと思ったからだ。

品種開発への正当な対価を得られなかったフレンチフライ用じゃがいもの生みの親

1849年、アメリカに生まれたバーバンクは、同書中で「人類の繁栄を目的として大掛かりな植物の品種改良に取り組んだ、歴史上初の人物」として描かれている。フレンチフライ向け加工用じゃがいも「ラセット・バーバンク」のルーツである「バーバンクポテト」をはじめ、800〜1,000品種を開発するなど多大な功績を残し、エジソン、フォードと並ぶ三大発明家と称された。

それにも関わらず、当時は農産物が知的財産権の対象になるという考え方が存在しない時代だったことから、品種開発への正当な対価を得られることなく、生涯にわたり貧困を強いられた。

バーバンクの没後4年、1930年にアメリカの特許法が改正され、植物の品種改良方法や新品種の保護が認められたが、その法案を当時推進したのはエジソンだったという。

日本の種苗法と、その下敷きになっているUPOV条約(植物の新品種の保護に関する国際条約)のルーツには、このように新品種の開発者の権利を適正に評価し、保護しようという歴史的な背景がある。

種苗法改正議論で失われた膨大な時間

誤解のないように言うと、偉人の献身的なエピソードを盾に、精神論的に「だから種苗法は素晴らしい」「改正は正しかった」という話をしたいわけではない。

ただ、なぜか種苗法改正の議論は、そのほとんどが「タネが危ない」という明後日の方を向いた話から始まってしまう。改正の真の狙いは、グローバル企業が在来種を奪って日本の農業を支配することにある、というような声を上げて改正に反対する人々がいる。

意図的にかどうかわからないが、彼らは「新品種の保護」という種苗法の根本的な理念を無視している。在来種が守られてほしいのは僕も同じだが、その話は「新品種の保護」が目的の種苗法とは何も関係がない。

そして残念なことに、改正が施行された今も、SNS等にはピントのずれた反対論が燻っている。間違った前提からは、間違った議論しか生まれない。SNS上の動員合戦を通じて先鋭化された陰謀論や攻撃で多くの人が傷つき、メディアや野党までが無責任に便乗した結果、建設的・本質的な議論が深められたかもしれない貴重な時間が膨大に失われた。

種苗法改正騒ぎにおける二つの風化

あれほど社会的コストを浪費したにも関わらず、メディアをはじめ多くの人々は施行の際はごく静かで、あの騒ぎはなんだったのかと思うほど、既にほとんど関心を失っているように見える。

種苗法改正が、巷で恐れられているような内容ではなかったということを、大多数の人が理解し、安心した上で、あの騒動が忘れ去られていくのであれば、いいのかもしれない。無事に施行されたのだから、これで一件落着とする見方もある。

本当にそうだろうか。五十嵐泰正さんの著書『原発事故と「食」 市場・コミュニケーション・差別』では、福島第一原発事故や放射線リスクへの関心の薄れ方について「よい風化」と「悪い風化」に分けて捉えている。

そして様々なアンケート調査を照合しながら、「悪い風化」について「普段から意識して避けるわけではないにせよ、福島県産品に対するなんとなく悪いイメージがうっすらと固定化されているという人は、相当分厚く存在するのではないだろうか」と分析する。

種苗法改正についても、なんとなく「反対を押し切って、数の力で採決されてしまった」くらいの認識のまま「悪い風化」をしていくのだとすれば、なんの教訓も得られないまま、またいつか同じような騒ぎが繰り返されることになる。

米大統領選や新型コロナウイルスをめぐり、SNSと陰謀論という最悪の掛け合わせが社会にどれほど深刻なダメージをもたらすのか、あらためて広く知られるところとなった。切実な社会課題として認知されたことで、研究や議論は活性化し、蓄積されていくだろう。

種苗法改正騒ぎも、現象としては多くの共通項がみられる。領域を問わずあらゆる陰謀論やデマを鎮めるための、汎用性の高い処方箋が求められている。ことはもはや農業分野だけの問題ではない。

種苗法改正に関する知人へのメッセージ

今振り返れば僕自身、種苗法になんの知識も関心もなかった。むしろ「改正されると恐ろしいことが起きる」という陰謀論こそが種苗法を知る入り口だった。

自分なりに勉強した今もなお、種苗や知的財産権について専門的な知識を得られたとは到底いえない。それでも声を上げ続けたのは、大切な友人たちにまで陰謀論の影響が及びはじめるのを目の当たりにしたからだ。

昨秋、種苗法改正の国会審議が始まる頃、カフェ時代のある常連のお客さんと、何年かぶりにメッセージのやりとりがあった。カフェを辞めた時にとても残念がってくれて、退職後にランチをしたこともあったが、僕が街を離れたこともあり、しばらく遠のいていた。

聞けば、種苗法改正のニュースに不安を感じているが、色々な意見があって混乱している、とのこと。カフェでずっと在来種や伝統野菜のことに取り組んでいた間宮さんが、どう思っているのか聞きたい、と。

彼女を不安にさせていたのは、まさしく「グローバル企業によって在来種が奪われ、日本の農業が衰退する」という主張だった。

赤の他人なら「そんなことはあり得ないので、手間を惜しんで人に聞く前に一次情報から勉強してください」と突き放して終わる話かもしれない。でも、誰しも生活のなかでそれだけの時間とエネルギーを、種苗法に費やせるとは限らない。まして相手は、穏やかで心優しい知人だ。

しばらく悩んで、僕はこんな風に返事をした。論理や主張ではなく、コミュニケーションの在り方、相手への信頼の提示そのものが、不安をときほぐすささやかな処方箋になることを願って、最後にそのメッセージを紹介したい。

Aさん、遅くなってすみません。
どうお返事するのが良いか、ずっと考えていました。
まず、このことで僕を思い出して意見を頼ってくださり、ありがとうございます。とても嬉しいです。ただ、もしかしたらAさんを戸惑わせてしまうかもしれませんが、僕自身は種苗法改正については「おおむね賛成」です。「おおむね」と書いたのは、もう少しブラッシュアップしたり、細部を詰めたり、議論を深めた方がいいんじゃないかと思う部分は確かにあるから、です。なので、国会ではしっかり時間をかけて審議すれば良いとは思いますが、基本的には賛成です。(ちなみに周りの有機農家さんでも、たねを守る活動をされている方でも、賛成している人はたくさんいます。というより、反対の農家さんになかなか出会えません。)ただ、なぜ賛成かということをお伝えするにあたって、文章で説明したり、解説記事のリンクや、わかりやすい動画を紹介するとか、いろんな方法を考えたのですが、どれも少し違うような気がしています。

なので、久々にカフェで会いませんか?

ひとえに僕の力不足なんですが、現に不安を感じているAさんに、いくらテキストや動画を送っても、それを和らげることができるイメージが持てないので、もしご迷惑でなかったら。マスクしながらになりますが、カフェで直接お話しできたら、と。

もっとも時間と手間のかかる方法で申し訳ないのですが、でも、

拡散希望!とか、

このままでは大変なことになります!とか、

そういう乱暴なコミュニケーションを、僕はやっぱり、僕の大事な人たちには使いたくない気がします。なんとなく「あなたの知性を信頼してません」って言われてるように思うからです。

ローコストで、刺激だけが強い、ジャンクフードみたいで。

動員するコマとしか思われてない感じ。

 

お会いして話す前にひとつだけ、僕の基本的な考え方を、参考までにお伝えしておきますね。

この問題を知ったとき、専門家でも農業者でもない僕が「これだけは踏み外さない」と決めた原則は「まず当事者の話を聞く」ということです。

なので、この場合は農家さん、育種家さん、種苗会社、実際に法案を作成している農水省の方などですね。

それ以外は(自分も含めて)全て「外野の声」だと思うようにしました。

ジャーナリスト、大学教授、活動家、元大臣、自然栽培講師・・などの「専門家」の意見は、この「当事者の声」と照らし合わせて判断します。

あまりに当事者の声と矛盾している、或いは明らかに参照していない・無視しているとわかるものは、いくら拡散されていても、鵜呑みにはしません。

たとえば「農業経営者」という雑誌のアンケートで、改正に反対と回答したのは24%ですが、その大多数が、条文や改正案を読んでおらず、反対派のジャーナリスト等からの情報を受けて判断していることも、アンケート結果から浮かび上がっています。

 

とはいえ、混乱しますよね。
では、どちらを信用すれば良いのか。

人種差別や、
性的マイノリティの問題、
いじめや自殺、

ほかの社会問題に置き換えてみたときに、最も優先的に耳を傾けなければいけないのは、やはり「当事者の声」だと僕は思うのです。

不当な目にあったり、苦しんだり、改善してほしいと思っている当事者が、どう考え、何を望んでいるのか、本人に聞くということです。

本人以外の方が、本人たちとかけ離れたことを言っていたら、それがどんなに大きな声でも、不安になるような内容であったとしても、まず立ち止まって、本人を探して、どうですか?と聞いてみる。

これは専門知識がなくても、誰にでもある程度はできる方法なので、おすすめです。というか、僕も「素人」として同じようにしていますので。

それでは、お返事お待ちしています。

またカフェで会えること、楽しみにしていますね。

参考文献

日本の品種はすごい うまい植物をめぐる物語(中公新書)竹下大学(著)
原発事故と「食」 市場・コミュニケーション・差別(中公新書)五十嵐泰正(著)

筆者

間宮俊賢

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