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6次産業化で農産物に付加価値をつけてみた:73杯目【渕上桂樹のバーカウンター】
「6次産業化」という言葉を聞いたことがありますか? 農林漁業(1次産業)が、加工(2次産業)や流通・販売(3次産業)までを一体的に行い、付加価値を高めて経営しようという取り組みのことです。1×2×3=6ということで、6次産業化(6次化)と呼ばれています。よくあるのが、農家が自分の果物でジャムやドライフルーツを作って販売する例です。私も似た取り組みをしているのですが、今日はその時に考えたことを述べたいと思います。
B品で6次化したい外部の人
「6次化」は農業の世界では一時期とても注目されました。最近、農家の間では以前ほど「6次化を目指したい」という声を聞かなくなったように思いますが、農業の課題に興味を持った人がそこに可能性を見出すことは今でもあるようです。私もこれまで何人かに「6次化ってありますよね? あれに興味があります」と持ち掛けられたことがあります。ある人は「地元の廃棄されるイチゴを集めてお菓子を作れば農家は助かるし、ブランド化にもなるのでは?」と農家を紹介してほしいと相談してきました。たしかに、十分使えるのに捨てられるイチゴがあって、農家が困っているなら、それをお菓子にして売ることで廃棄も減って農家の収入にもなる。一石二鳥のように思えます。実際、このアイデアを持ち込む人は多いです。
ただ、実際は少し複雑で、加工用として使うイチゴは今でもちゃんと市場や業者が買い取ってくれますし、それでも廃棄されるような品質のイチゴとなるとお菓子作りに使えるレベルかどうか疑わしくもあります。廃棄に回すイチゴが一定量得られるかは定かではないので、安定性も期待できません。農家側から見ても廃棄のイチゴに手間をかけるわけにもいかず、本来の仕事に集中したいという気持ちになってしまいます。そんな状態では、「イチゴのお菓子でブランド化」を目指すのは難しいのです。
実際にその人は「農家に話を持ち掛けたけど、みんな反応がわるかった。良い話だと思うけど、農家は新しい取り組みに消極的なのかな?」と話していましたが、農家側としてはこれらの理由で乗っかりにくいと思っていた可能性はあります。
6次化は儲からないという農家
一方、現場の事情に詳しい農家の中には「6次化なんて儲からない。現場を知らないから言ってるんだ」という人もいます。厳しい言い方ですが、実際にやってみると本当に難しいので、言いたいことはよくわかります。
自ら手掛けた6次化は希少なベルガモット
実は私も、自分たちの農園のベルガモットを使って商品開発や販売に取り組んでいます。お茶を開発したり、クラフトビールを製造してもらったり、ジンジャーエールを作ってお店やマルシェで販売したり、取り組みはいろいろです。先日は商店街のマルシェでジンジャーエールを販売してきました。
私ももちろん「これで付加価値を付けて儲けるぞ」と単純に思ったわけではありません。6次化は、加工、仕込み、資材、販売、モノによっては流通や営業など、引き受ける仕事が一気に増えるのです。加工なら加工の業者がいて、販売には販売の業者がいますが、6次化とはそれらの仕事を同時に始めて、その世界で勝負するようなものなのです。ただ、「難しい」からといって「やる意味がない」ということでもありません。私の場合はベルガモットだから意味があったと思います。
私たちの農園で栽培するベルガモットは、まだそれほど知られておらず、これから生産量が増えるにあたって認知と需要を喚起したいという狙いがありました。ベルガモットはそもそも知らない・使い方がわからないという人が多く、JAなどに卸してスーパーに並んだとしても「今日はベルガモットが安いから買おう」とはなかなかなりません。そうなれば嬉しいのですが、今は飲食店や加工業者とつながる入口を増やしたいと思ったのです。こう考えると、6次化に向く・向かない、必要性がある・ない農産物や農園があると思います。たとえば、キャベツ農家がお好み焼きの屋台を開いて「どうです? キャベツって美味しいでしょう?」と宣伝する必要性はあまりないと思います。
実際にお店やマルシェでジンジャーエールなどを売ってみると、初めて出会う香りを完成品で体験してもらえます。そして、ホテルや飲食店やその他の業者ともつながり、実際に採用されたこともありました。私がやった6次化は、農産物と消費者の間にかかる橋にもなったと思います。
「6次化=高単価」ではないアプローチ
もちろん、本来目指していたように、農産物を加工してより高く売ることに成功し、農家の利益を増やすことができるなら、それはとても良いことだと思います。実際にそれを目的に6次化に取り組む農家もいますし、成功事例もあります。私のやり方が、それより優れているとか、現実的だということではありません。それぞれの農産物や農園に、それぞれの戦略に沿った売り方があり、手法は無数にあるということです。
私はマルシェの出店の際、ジンジャーエールと一緒に原材料のベルガモットそのものも販売しました。ベルガモットも値下げせず、農産物としてきちんと値段をつけて売りました。すると、お客さんからは「そんなに貴重なものを使っているジンジャーエールなのね。だったら安いわ」と言っていただきました。6次化が、元の農産物の価値を守る方向にも動いた瞬間だと思います。
多くの人が言うように、6次化は万能でも、誰でも簡単に儲かるすごいアイデアでもないと思います。利益を出すのは難しいですし、挑戦している人や成功している人に対しては心から尊敬します。
ただ、一つの商品から直接いくら利益が出たかだけで、6次化の価値をすべて測ることもできないと思うのです。「付加価値をつける」とは、単に値札の数字を大きくすることではありません。知られていない農産物を知ってもらう。味や香りを体験してもらう。その向こうにある畑や、生産する人のことまで想像してもらう。農産物や生産現場と消費者の間に橋を架けることもまた、農産物に価値を加えることなのだと、私は思います。
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |



