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第23回 オーガニック食品はアトピー性皮膚炎を改善する?【オーガニック問題研究会マンスリーレポート】
「オーガニックビレッジ」交付金など、公的な予算で有機農業を推進する自治体が増えてきたなかで、地域内での分断・ハレーションを避けるため、慣行農業批判などの極端な思想をなるべく表に出さないよう、表面的には「あくまで環境のため」の取り組みであることを強調する市民団体やイベントも目立つようになってきました。
しかし時には、抑制している本音が漏れ出てしまうケースもあるようです。「オーガニック学校給食フォーラム実行委員会」が企画する特別講演会『オーガニック食材によるアトピー性皮膚炎改善―その症例報告・臨床試験―』はその典型といえるでしょう。
20年前の小規模なモニター調査が「極めて画期的な研究」?
「オーガニックでアトピーがよくなる」という主張自体は特段目新しいものではなく、これまでも自然食品や民間療法のコミュニティなどを発信源として、執拗に反復されてきた俗説です。ここでイベントの目玉として引用されている中井さち子氏によるモニター調査自体も、開始されたのは平成18年で、実に20年近く前の情報ということになります。
その後にこれを補強するような研究や論文が積み重ねられた形跡もみられず、なぜ彼らが20年前の小規模なモニター調査を唐突に「極めて画期的な研究」「オーガニック食材の摂取が人間の健康に及ぼす効果を客観的に示した貴重なエビデンス」と絶賛し始めたのか、その理由はわかりません。
しかし20年前と現在でひとつ大きく異なるのは、有機農業そのものが置かれた社会環境です。かつては草の根の市民運動から始まり、よくも悪くも(科学的な誤りを含めて)自由な主義主張が許された、ある意味で牧歌的な時代とは違い、「みどり戦略」以降、国策として有機農業の推進が掲げられるなか「オーガニック学校給食フォーラム実行委員会」も、そこに名を連ねる実行委員や協力団体も、以前とは比較にならないほど官公庁や自治体との接点が増え、政治的影響力を強めています。
好むと好まざるとに関わらず高い公共性を求めた以上、厳しい批判的視線も受け入れて頂く必要があります。
岡田茂吉師の思想を裏づけたい、という想い
具体的に、何が問題なのか見ていきましょう。まず前提として確認しておきたいのは、調査研究としての独立性の乏しさです。イベントページで引用されている自然農法国際研究開発センターの機関誌『自然農法 71号』【寄稿】健康づくり!自然農法産の元気なお米や野菜から~アトピー性皮膚炎に学ぶ~(中井さち子)を確認すると、著者の中井氏自身が同センターの理事(現在は評議員)であり、記事中でも岡田茂吉氏(自然農法の創始者で世界救世教の教祖)の名前に繰り返し言及し、「『医食(薬)同源』を身上とされる岡田茂吉師の思想が、より一層裏づけられた」と感慨深く綴られています。
ほかにも各所の記述からは中井氏の岡田氏への確かな敬愛が滲んでおり、それはそれで尊重したいところですが、構図としては要するに「自然農法の関係者が自然農法の優位性を調査し、自然農法の機関誌で発表している」という状況です。さらに言えば、イベント主催団体の「実行委員会」にも当の自然農法国際研究開発センターが名を連ねており、中立的な第三者の視点はどこにも見当たりません。
自然食摂取率50%以下だとアトピーがリバウンド?
これを踏まえた上で、調査結果自体のおかしさも指摘していきます。
まず科学的に信頼性の高い調査結果を導くために通常は必要とされるランダム化、盲検、対照群の設置といった手法が、ここでは一切確認できません。調査対象となるモニター自体も少数である上に(記事中で15名だったり19名だったり、なぜか人数が食い違っている)、家族や本人が調査目的を承知した上でなお意欲をもって参加を決めている以上、相当程度に自然農法への関心や期待が高いと考えるのが妥当でしょう。
関心や期待が高いということは、アトピー症状の改善が仮に食材以外の要因によるものであったとしても「これは自然な食材の力に違いない」と信じるバイアスが働きやすいということです。そう考えたくなる心情は理解しますが、通常は第三者にとっては説得力をもちません。
実際、記事中では症状の改善が提供食材の効果によるものと事実上断定されていますが、前述の通り対照群が設置されていないことや、生活上の他の要素についても条件が揃えられていないことなどを考えると、フェアに見た場合、提供食材の効果と強く主張できるだけの根拠はこれといって見当たりません。
アトピー性皮膚炎は、その症状自体も年齢や季節の影響、周期的な増悪と寛解のタイミングなど、様々な要因によって左右されます。とりわけ小児のアトピーは、個人差はあっても成長とともに寛解することが一般的です。そのことだけ考えても、食材の効果を切り出して測ることは容易ではないはずです。
改善の根拠とされている総IgEの変化についても、さらに少数の長期継続モニター8名だけを対象としており、しかもそのうち、自然食摂取率60%以上だった4名は改善しているが、50%以下だった4名に関してはリバウンド(悪化)したと書かれています。ですが、症状の改善を実感できている人は意欲も摂取も長続きし、実感できない人は意欲も摂取も落ちていくのは普通のことではないでしょうか。
(大体、その理屈を採用すると、学校給食に中途半端にオーガニック食材を取り入れることはかえって危険ではないだろうか、と思ってしまいます。)
また、これは一見わかりづらいものの、食事療法や健康食品ビジネス常套句として使われる「うまくいったらオーガニックのおかげ、失敗したら本人のせい」といった論法と同型です。思うような結果が出なかった時には、本連載第20回でも書いたように「始めるのが遅かった」「やり方が間違っていた」「もっと徹底すべきだった」「それで治った人もいる」など、いかようにもオーガニックの威厳を守るための後出しロジックが用意されているのです。
「体温が上がった」というエピソードも、今日のオーガニック給食運動では度々「オーガニックの健康効果を証明した」成果としてうたわれることがあります。今回の記事では「体温が平均値で0.1℃上昇。代謝能力が向上していることになり」と書かれていますが、室温や測定のタイミング、時間帯などの測定条件も不明瞭な上に、対象は少人数、0.1℃の違いとあっては、誤差の域を出ません。そもそも平熱が36.2℃から36.3℃に上がることが健康に寄与するという根拠さえ、よくわかりません。
最大の問題は「オーガニック学校給食フォーラム実行委員会」のガバナンス
岡田茂吉氏の描いた理想を懸命に叶えたいと願う中井氏の姿勢と筆致にはどこか憎めないものがありますが、「もともとそういう性格の調査」を20年後にもなって持ち上げて引用しているイベント主催者の方が、ここではやはり問題の本質のように感じます。
筆者は何も、オーガニック食品に未来永劫、一切の健康効果が証明されないとまで断言するつもりはありません。だとしても、この程度の薄弱な根拠を「画期的」な「エビデンス」とまで誇大にアナウンスしてしまう迂闊さ、不誠実さ、さらに周りの誰もそれを止められない「実行委員会」のガバナンスは、十分に批判に値します。
学校給食というきわめて公共性の強い領域に介入しようとしていながら、まだそんな次元の話を平気で言っちゃうのか、という素朴な驚きは否めません。
このような誤情報を保護者が鵜呑みにして、適切な医療へのアクセスを阻害され、より強い症状に苦しむ子供を生み出しているかもしれないという現実的なリスクに思い至らないのであれば、深刻な想像力の欠如です。もっと「子供たち」のことを本気で心配してほしいと切に願います。
筆者熊宮渉(ライター/オーガニック問題研究会) |



