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第22回 オーガニックビレッジに財務省のメス 有機農業推進への逆風ニュースまとめ【オーガニック問題研究会マンスリーレポート】
農水省は有機農業推進が目標に向かって順調に進んでいることを強調していますが、その実態はどうでしょうか?
例えば、有機農業の耕地面積については、2030年度の中間目標(6.3万ha)を達成できるペースで増加しているとして一見ポジティブに報道されていますが、本連載でもこれまで何度か指摘してきたように、近年急増した面積の大部分は北海道の牧草地が占めており、半ば強引に水増しされたような印象を受けるものになっています。
実は今年に入り、有機農業にとっては逆風となるようなニュースも相次いでいます。
国内有機食品の市場規模が伸び悩み局面
1月には、株式会社矢野経済研究所の発表した統計データとして、国内有機食品の市場規模が伸び悩んでいることが報道されました。
円安、インフレによる物価高が大きな要因と推測されており、農水省が4月に発表した調査結果(「週に一回以上有機食品を利用する人の割合」が前回調査と比べて大きく落ち込んでいる)とも矛盾しない傾向と言えるでしょう。
有機農業に関する直近の政策審議会でも、出席委員からは「農水省の発表している数字ほどには、有機食品の市場規模が右肩上がりに増加している実感がない」と率直な所感が述べられています。
先の見えない物価高や生活不安が背景にある以上、有機食品市場の伸び悩みだけをことさら強調して取り上げるのはフェアではありませんが、もともとコロナ禍の一時的な巣篭もり需要・健康志向によって市場が過剰にブーストされていた分、より落差が目立つ側面はあるのかもしれません。
逆に言えば、国際情勢をはじめとする現在の物価高の根本原因がある程度解消されない限り、有機食品市場においても大きな風向きの変化は期待しにくいでしょう。オーガニック給食運動などのオピニオンリーダーのなかには、いまに種や肥料が輸入できなくなる、食料自給率の低い日本が世界で最初に飢えるなどとして「だから今こそ有機推進を」とあたかも現在の国際情勢を好材料とみなして喜んでいるかのような発言も散見されますが、有機食品だけがその荒波から自由でいられると考えているのであれば、都合の良い幻想に過ぎません。
有機農業転換推進事業の廃止と、環境直払いの5年制限
さらに6月には、財務省が農水省の「有機農業転換推進事業」を見直すよう求めたことが報道され、鈴木農相(当時)が記者会見で対応に言及するなどして話題となりました。
報道では主に、「有機農業転換推進事業」を活用した水稲の収量が大幅に落ちている点が財務省によって問題視されたという文脈で報じられ、農相の応答も収量の問題にフォーカスされていたため、一部の有機農業関係者からは「有機転換後に一時的に収量が落ちるのは珍しいことではない」として財務省の無理解を批判する声も上がりました。
しかし財務省が公表した「令和8年度 予算執行調査」の内容を見てみると、収量よりもむしろ先に指摘されているのは、事業自体のずさんな側面でした。
具体的には、補助金を利用した生産者が実際にどのくらいの面積でどの程度の有機転換をおこなったか等の数値について、項目によっては3割以上が生産者の自己申告頼みで、客観的な確認がおこなわれていなかったことや、また、そもそも半数以上の生産者から単収(単位面積あたりの収穫量)の報告がなく、支援の妥当性が評価できないことなどが挙げられました。
これを受け、同事業は2027年度から廃止されることが決まっていますが、農水省は廃止の理由を新たな「環境保全型農業直接支払制度(環境直払い)」の内容と重複するためと説明しています。
ところが、この環境直払いに関しても従来は無期限で支援を受けられたものが、来年度以降は(同一圃場での同一の取り組みに対しては)最長5年までの支援と限定する方針が示され、多くの反発の声が上がる事態となっています。このままいけば、環境直払いの無期限継続を前提に考えていた有機農業者にとっては大きな痛手となります。
広がるオーガニックビレッジに財務省のメスが入った
そして8月に入ると、日本農業新聞ではいわゆるオーガニックビレッジについての財務省からの厳しい指摘が報道されました。
農水省は「オーガニックビレッジ宣言をおこなった自治体」の数について、「2025年までに100市町村、2030年までに200市町村創出」という目標を大幅に前倒しで達成しつつあるとして、順風満帆ぶりを強調してきましたが、今回はその内実にメスが入った格好になります。
オーガニックビレッジ宣言をおこなうにあたっては、自治体が5年間の「有機農業実施計画」を公表する必要があります。今回の調査で浮き彫りになったのは、少なくない自治体の「実施計画」のなんとも粗末な内幕です。
例えば成果目標の設定においては「有機農業の取り組み面積」の増加率が10%以下と低く設定されている事例が多数あり、そのなかには驚くべきことに、増加率を0%以下とする目標も11件あったということです。
また、ある自治体では「地域ぐるみで有機農業に取り組む」として増加率30%目標を掲げながら、その内訳は3ha→4haとわずか1haの増加のみという、半ばブラックジョークのような事例も指摘されています。
さらにはこうした成果目標の達成状況についても、全体の17%にあたる54件の目標について「達成する見込みがない」と回答されるなど、元々低い目標すら達成見込みがない自治体が複数存在することが示唆されています。財務省はこれらの調査結果を受け、目標とする面積の規模に下限を設けることなど見直しを要求しました。
本連載でも度々指摘してきたオーガニックビレッジの問題点を踏まえれば、財務省の指摘は腑に落ちるものです。絵に描いた餅のような、何の具体性も感じられない総花的な実施計画でも、最大3,000万円もの使途の自由な交付金を得られたこと自体が、異常だったのだと思います。
それに加えて「オーガニックビレッジ宣言」という華やかな政治的パフォーマンスに利用できるとあっては、自治体首長にとってもさぞ魅力的だったことでしょう。
のちに悪質なハラスメント疑惑が報じられるような首長や、反ワクチン陰謀論を掲げるような首長であっても、オーガニック給食の実施などを通じて一部の市民団体や運動家からは「子どもたちのために立ち上がった、カッコいいトップたち」と熱狂的な支持を集め、彼らの「市民運動」を交付金つきで支援することさえも、有機農業推進という御旗のもと大手を振っておこなえたのです。
オーガニックビレッジのメッキが剥がれ、何の実績も残せないまま交付金を浪費した自治体が累々と積み上がるなか、いったい誰が潤いを手にしたのでしょうか。
参考
有機4万ヘクタール、1割超増 基本計画の進捗判明 目標達成ペースに(日本農業新聞)
市場規模 伸び縮小 国内オーガニック食品(日本農業新聞)
オーガニック・自然派食品市場に関する調査を実施(株式会社矢野経済研究所)
令和8年度食料・農業・農村政策審議会果樹・有機部会(第4回有機関係)(農林水産省)
令和8年度 予算執行調査の結果を公表します(財務省)
有機転換支援見直しを 米の収量減、問題視 財務省(日本農業新聞)
有機農業の収量向上「避けて通れず」 財務省指摘受け農相(日本農業新聞)
規模拡大促す仕組みに 来年度予算で改善要求 オーガニックビレッジで財務省(日本農業新聞)
筆者熊宮渉(ライター/オーガニック問題研究会) |



