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グリホサートが体内でグリシンに置き換わることが、多くの病気の原因という主張は本当か?

コラム・マンガ

グリホサートが多くの病気の原因という主張は本当か

除草剤ラウンドアップ(主成分グリホサート)は、世界の規制機関によってその安全性が証明されていますが、一部の研究者がその毒性を主張しています。なかでも米国のセネフ博士とサムセル博士は、グリホサートを摂取することで、体内でグリシンに置き換わり引き起こされる病気の例として、糖尿病、肥満、喘息、慢性閉そく性肺疾患、肺水腫、副腎機能不全、甲状腺機能低下、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、プリオン病、紅斑性狼瘡、ミトコンドリア病、非ホジキンリンパ腫、神経管閉鎖不全、不妊、高血圧、緑内障、骨粗しょう症、脂肪肝、じん不全などを列挙しています。

両氏がそう主張する根拠として使われているのは、以下の三段論法です。

命題①:グリホサートは、グリシンというアミノ酸と構造が大変よく似ている。
命題②:人の身体を作っているタンパク質は多数のアミノ酸から成り、このアミノ酸には多くのグリシンが含まれている。
結論:グリホサートを摂取して体内に消化吸収されると、代謝されて別のグリシン類縁体となる。代謝物であるこのグリシン類縁体もグリシンと構造がよく似ているため、体内でタンパク質が合成される際、グリシンの代わりに誤ってタンパク質に組み込まれる可能性がある。誤って合成されたこのタンパク質は本来と異なる構造をしているため、必要な機能を生み出せなくなったり、身体に悪影響を与えたりする。この誤って合成されたタンパク質が徐々に体内で蓄積されることにより、多くの病気が引き起こされると考えられる。

この三段論法は科学的に正しいのでしょうか?

主張の根拠は科学的に正しいとされないものばかり

結論から言うと、この三段論法は間違いです。まず、グリホサートが体内でのタンパク質の合成過程において、構造がよく似た(しかし明らかに別の物質である)グリシンに置き換わって体内に取り込まれる現象は、実験室という人工的な合成条件下でのみ観察されている現象です。自然界の生物の体内で観察されたという研究事例は存在しません。さらに彼らがグリホサートがグリシンに置き換わるという“科学的主張”の根拠として、論文化されていない研究成果に依拠していることも大問題です。科学の正しさには下記のような段階があり、論文化されていない未発表の研究成果は、他の研究者の査読や議論に耐えられるものではないと判断され、科学的に正しいと認められていないからです。

科学の正しさには段階がある
第1段階:仮説を実験で証明し、それを研究成果としてまとめる。
第2段階:これを論文として投稿する。科学者の査読を受けて認められれば、科学誌に掲載される。
第3段階:科学誌を読んだ多くの科学者が、その内容を検証し、多くの科学者の同意が得られて初めて「科学的に認められた」と主張できる。
セネフ博士とサムセル博士が根拠とした「論文化されていない研究成果」は第1段階です。これは議論の課題にもなりません。またセネフ博士とサムセル博士の論文も、第3段階で他の科学者によって否定されたので、正しい説とは言えません。

検証された論文で科学的には否定されている

今後の研究により、グリホサートの代謝物がタンパク質に取り込まれる現象が、生きている人間の体内で起きる可能性が科学的に認められたとしても、それが人体でグリシンと直接競合する可能性を考える必要があります。いくら構造が似ているといっても、間違ってグリホサートが吸収されたり、タンパク質の合成に組み込まれたりすることが現実の人体でそう簡単に起こるとは考えにくいからです。人間の身体は本来、グリシンを取り込むようにできているので、グリホサートを取り込むことは構造的に非効率です。

こうした点を踏まえ、グリホサートがタンパク質中のグリシンに置き換わらないことを科学的に証明した実験があります。大腸菌を高濃度(1 g/L)のグリホサートを含む溶液で培養しても、大腸菌が体内で合成するタンパク質にグリホサートは取り込まれていませんでした。

グリホサートがグリシンに代わってタンパク質に取り込まれるという科学的な証拠は存在しないばかりか、逆にそのようなことは起こらない、という実験結果をまとめて検証された論文が存在するのです。したがって、セネフ博士とサムセル博士の主張は間違いであり、科学的には否定されていることになります。

参考

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