会員募集 ご寄付 お問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています

「放射能汚染水」発言による大手企業会長辞任を機に、風評加害に責任が伴う社会に近づけるか?:42杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

オーガニック食材宅配大手「オイシックス・ラ・大地株式会社」の藤田和芳会長による風評加害発言が炎上し、ネットニュースで報じられ、ついには会長を辞任する出来事がありました。今回のコラムでは、この出来事で思ったことを綴りたいと思います。

根拠なく不安煽る投稿

問題となった加害発言とは、藤田氏が2月12日にXに投稿した「東京電力は、福島原発の放射能汚染水を海に流し始めた」という根拠なく不安を煽るものです。

SNS上では、「オイシックス解約します」「風評加害、許せん」「根拠に基づかない風評加害を喧伝する方が食材を扱うってヤバくないですか?」「オイシックスで扱う野菜にも必ずトリチウムが含まれているので、オイシックスは放射能汚染野菜を売っているってことですよね?」といった批判的な声が溢れました。

藤田氏はのちに投稿を削除しましたが、ネットニュースでも大きく報じられました。

オイシックス・ラ・大地はウェブサイト上で謝罪し、該当の発言は「不必要な不安を煽り、根拠のない風評被害に発展する可能性があるものとして、きわめて不適切で容認できるものではない」として、「本人に厳重注意を実施し、後日、懲罰委員会を開催し、処分について決定いたします」と表明しました。

そして、2月22日、同社は「当社会長の辞任および、代表取締役社長の報酬自主返納についてのお知らせ」として藤田会長の辞任を発表しました。

繰り返された発言

これが一連の顛末です。
どうでしょう?
初めて聞いた方は「たった一つの発言が大きな結末に!」と思うかもしれません。
でも、実はこれだけじゃないんです。
藤田会長は「放射能汚染水」発言以前からSNSで食の不安を煽る発言を繰り返してきた人なんです。
どんな不安かというと、ありとあらゆるネタです。

たとえば、除草剤で癌になる、発達障害の原因は農薬、水道水に有害物質が入っている、タネが外国企業に支配される、秋田県の新しいお米「あきたこまちR」は放射能で汚染されている、など。
もちろん、荒唐無稽なものばかりですが、放置するわけにもいかないので、農業のプロたちはそのたびに指摘し、風評被害を最小限に抑えようと努力してきました。

AGRI FACTでも何度かファクトチェックがされました。

しかし、藤田氏はいずれのケースも不気味なまでに無反応を貫き、ひたすら風評加害発言を繰り返してきたのです。
藤田氏は炎上事件よりずっと前から農業・食品関係者の中で「そういう人」として知られている存在だったのです。
実際、今回の辞任のニュースに対して「え? 今さら? じゃあ、今までの発言はどうなの?」という反応を多く見ました。

これまでの発言の行方

私も言いたいことや疑問はたくさんあります。
「処理水以外の風評加害発言はいいの?」「会社は会長を辞めさせるだけ? 出てしまった誤情報の訂正はどうするの?」「今までは『会長個人の発言なので』と野放しにしていたのに、ニュースで報じられた途端に懲罰委員会?
株価が下がっても『あれは個人の発言なんです』と言えばいいんじゃない?」など、挙げればきりがありません。

というか、オイシックスは「安全・安心」の文脈で「西日本の野菜を増やしています」をウリにしているんです。
これではまるで、東北の農産物をあたかも危険であるかのように煽る藤田氏の不安商法に同調しているようにしか見えないんですよ。
「個人の発言です」で批判をかわし、事が大きくなったら辞めさせるって便利すぎじゃないですか。
そう考えると、風評加害の責任を全部背負わされた藤田氏が気の毒でもあります。

こんな風に言いたいことはたくさんあるのですが、今回の出来事はオーガニックや食の安全、風評加害を語る上で大きな出来事だったと思います。

責任を取った(取らされた)ことには一定の価値

私が注目したいのは、オーガニック界が風評加害の責任を取ったことです。
これまで、「安全・安心」を売りにするオーガニック界隈は、いくらデタラメな風評でも野放し状態だったのです。

これはAGRI FACTで記事を連載中の間宮さんがずっと言っていたことです。

間宮さんはオーガニックを推す立場でありながら、オーガニック界のこうした問題点を指摘していました。
ですが、間宮さんのような存在はごく少数だった上、誤情報や風評加害の責任を取った人は(私の知る限り)いませんでした。
そういう意味では、今回の出来事は大きな意味があると思います。

もちろん、これで風評加害が終わるわけではありません。
無責任な情報発信がなくなることはないと思います。また、食の風評加害は処理水関連だけではありません。
農薬や肥料、遺伝子組換え作物など多岐にわたり、知られていない風評被害も多く存在しています。
ですが、これからは変わるかもしれません。
今回の出来事をきっかけに、今まで無責任に野放しにされてきた風評加害行為に責任が伴うようになることを期待したいと思います。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

 会員募集中! 会員募集中!

関連記事

記事検索

Facebook

ランキング(月間)

  1. 1

    (※終了しました)【特別セミナー】グリホサート評価を巡るIARC(国連・国際がん研究機関)の不正問題  ~ジャンク研究と科学的誤報への対処法~

  2. 2

    最終回 有機農業と排外主義②【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

  3. 3

    日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する

  4. 4

    VOL.22 マルチ食品の「ミネラル豚汁」が被災地にやって来た!【不思議食品・観察記】

  5. 5

    除草剤グリホサートに耐性のある植物の自然への影響は?【解説】

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP
CLOSE