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Vol.1 養鶏農家が「肥料高騰」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

農家の声

和歌山で養鶏農家を営む古田雄也です。2021年に30歳で看護師から創業35年の養鶏と飼料販売がメイン事業の有限会社御坊チキンに転職して養鶏農家になりました。養鶏に限らず畜産業には環境に良いというイメージがないかもしれません。特に養鶏業では鶏糞の処理が大きな課題の一つとなっており、今回は私の会社の取り組みを紹介します。

鶏のストレスを軽減する飼育法が特徴

年間生産数は36万羽ほどで、鶏舎は複数箇所に分かれています。養鶏の特長は一坪あたりの収容羽数が少なく、鶏のアニマルウェルフェアに配慮した、のびのびとストレスのかからない飼育方法です。

まず養鶏の流れを簡単に説明します。初めに雛を孵卵(ふらん)場から入雛(にゅうすう)し、約50日かけて飼育、出荷します。その後、鶏舎内の鶏糞除去、清掃、洗浄、消毒、入雛準備をするのが1サイクル。これを1鶏舎あたり年間4から5サイクル回します。

入雛準備では鶏舎内に大量のひき粉(おがくず)を敷き、その上で飼育していきます。鶏を飼育していると、ひき粉の上にどんどん鶏糞が蓄積していき、1サイクル約1万羽の出荷が終わると、数トン単位の鶏糞ができます。鶏糞をきれいに除去しないと、大腸菌など病原菌の温床になり、次のサイクルで飼育する鶏に悪影響が出るので、必ず綺麗にしなければなりません。当社では鶏糞倉庫で堆肥化し、産地の梅農家などに譲るなどして処理していますが、なかなか処理しきれる量でないのが経営上の課題です。

生産数を維持し、さらに増産していくためには、新規の農家と契約するか、鶏糞焼却炉を構えて運用する方法があります。しかし焼却炉を構えて運用していくには、原油高の高騰もあって、かなりのランニングコストがかかります。そのためできれば農家に有機肥料として活用してもらいたいというのが本音です。とはいえ、鶏糞独特の臭いや、農家の鶏糞に対する間違った認識から、なかなか新規の譲り先が見つからないのが現状です。

アニマルウェルフェアに配慮した飼育法が特徴

アニマルウェルフェアに配慮した飼育法が特徴

鶏糞の肥料活用促進で良質な消費生活維持に役立ちたい

一方、農業界全体に目を転じると、ロシアウクライナ戦争や、新型コロナ、円安などの影響で化学肥料が高騰。生産コストの増加による農作物価格の上昇が問題となり、国は化学肥料の使用量削減を提言しています。

そこで国産の有機肥料である鶏糞を化学肥料の代用として使用することで、養鶏農家と農家の課題が共に解決できるのではないかと私は思っているのです。

日本で使用されている化学肥料の原材料は、ほぼ海外からの輸入に依存しています。また世界的に見て日本は化学肥料の使用率が高く、世界平均の約倍量を使用*しています。

*AGRI FACT編集部註 諸外国と化学肥料の使用量を比べてみると、日本を100とした場合、イギリスは80、ドイツは61、フランスは53で、韓国が164になります。これは国によって土の性質が違うことが原因です。

今年に入り、ロシアウクライナ戦争や、中国の輸出規制、原油高の高騰などの悪条件が重なり、化学肥料の価格はおよそ前期の倍の値段となっています。原材料の一つ、塩化カリウムに関しては、去年の約5倍です。生産コストの増加は商品価格の高騰に直結し、農作物の価格も上がる一方です。

2022年の時点で日本の農耕地の内、有機農業に取り組む面積は全体の0.6%にとどまります。その要因としては、農業従事者の人手不足ではないかと私は個人的には思っています。人手不足の状態では、作業もなるべく効率化し、手間を少なくして成果を出さなければなりません。その点、化学肥料は有機肥料に比べると手間はかからず、即効性が高いので作物の質は担保されます。これまで日本の農作物が高品質で美味しくできていたのは化学肥料のおかげでもあります。

しかし今日のような商品価格の上昇は消費者の生活をたちまち圧迫します。平均所得がこの30年上がっていない上、様々な要因により物価や生活インフラそのものの価格が上昇しており、このままでは日本人が戦後に築き上げてきた良質な生活水準は維持できないのではないかと私は危惧しています。

国も2022年4月にみどりの食料システム法を制定し、化学農薬、化学肥料の使用量削減の目標を設定しました。また化学肥料の使用量を20%削減した農家に対しては、前年比で増額した分の肥料代の7割を補填する新制度を導入しました。

私は化学肥料の代替えとして、鶏糞の出番があると考えます。鶏糞堆肥は、牛糞や豚糞に比べ、窒素、リン酸、カリウムがバランスよく多く、含まれており、即効性が高いのが特徴です。特に野菜類や、果樹類に相性がよく基肥や追肥どちらにも使用できます。しかしデメリットもあり、アンモニアによる肥料焼けや、カルシウム過剰症などになるリスクがあるので、施用量に注意する必要があります。

消費者・養鶏・農家の三方よし

実際に私たちが鶏糞を提供している梅農家に鶏糞は重宝されており、梅の質も良くなったと評価されています。今年の収穫最盛期には梅拾いを手伝い、立派な梅の実を手にしては、間接的にでも支援できていることに強い感動を覚えました。

私は個人的には化学肥料、有機肥料のどちらにも有用性があると思っています。人材不足の中、肥料の全てを有機肥料にすることは現実的に難しいですし、日本の美味しい農作物の質が担保されなくなると思います。

ただ、国産肥料の鶏糞堆肥の使用を増やしていくことで、私たち養鶏農家もコストを削減できますし、農家もコストを削減できます。そうすることで、私たちが手塩にかけた商品が直接的間接的の違いはあるにせよ、より多くの消費者の食生活に寄与することになると私は考えているのです。

鶏糞堆肥を使用した和歌山特産の梅

鶏糞堆肥を使用した和歌山特産の梅

 

【農家の本音 〇〇(問題)を語る】記事一覧

筆者

古田雄也(養鶏農家)
看護師として大学病院、在宅医療を経験。
2021年に30歳で創業35年の養鶏と飼料販売がメインの御坊チキンに転職し、養鶏農家となる。現在は和歌山で安全で美味しい鶏を生産。食用鶏生産の実際を知り、食、命について深く感謝するようになる。消費者に養鶏農家のリアルを届けたいとの思いから執筆を開始。将来は農福連携による、地域の活性化を目指して活動中。Instagramアカウント:yuya_gobochicken

 

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