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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート18〉あきたこまちR 後編【ナス農家の直言】

農家の声

今回も前編に引き続き、「あきたこまちR」の誤解や偏見について書いていきます。コラム一回分ではとても収まりきれないほど、あきたこまちRに関するデマが飛び交っているからです!
ということで、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート18〉あきたこまちR後編」
をテーマに、あきたこまちRのデマをみなさんに紹介します!

1.(中)放射線育種は遺伝子組換えと一緒だろ!

一部の活動家のミスリードのせいで、多くの方が誤解されていますが、放射線育種は、遺伝子組換えとは似ているようで別物です。
下の図で、放射線育種と遺伝子組換えの違いを見てみましょう。

ゲノム編集~新しい育種技術~:農林水産技術会議 (maff.go.jp)

遺伝子組換えが外来の全く別の遺伝子を組み替えて「プラス」するのに対し、放射線育種は本来持っている遺伝子を壊して変異させる、つまり「マイナス」するもの。
二つを混同しないように、整理して考えるべきことなのです。

2.(左)放射線照射して遺伝子を破壊するなんて、自然の摂理に反している!

「そもそも放射線を当てて品種改良をするなんて、自然ではない!」
という意見もありますね。
知らない方はびっくりされるかもしれませんが……
私たちの日常でも、常に様々な放射線が降り注いでいます。

日常生活と放射線 - 放射線とは | 電気事業連合会 (fepc.or.jp)

そして、作物の遺伝子が破壊されて突然変異が起きることは常にあるのです。
放射線育種は、その自然の摂理を人工的にやっているということ。
放射線は重大な事故で発生するだけのものではなく、日常にあふれているものだという認識が必要です。

3.(右)重イオンビームを米に当てるなんて怖い!

「強力な重イオンビームは自然界ではあり得ない致死量の放射線だ!」
「ヒトに影響がないと断言できるのか!」

など、重イオンビームという言葉を聞くと、なんかよく分からないけど危険だと拒絶反応が生まれるのも分からなくはないです。
重イオンビーム(重粒子線)とは放射線の一種で、効率的に突然変異を誘発することが可能なものです。
重イオンビームが人体に当たると危険性が高い、これはその通りですが……。
照射されて何世代も経た植物が危険であるとは、科学者の方たちは考えていません。
人に照射して危険なレベルと植物への照射線量を単純に比較することは、科学的に意味がないんです。
さらに言うと、がん治療では全身に浴びると危険とされるレベルを超える放射線量を患部に照射して病気を治療しようとするものです。
ちなみに、イネの遺伝子は全て解読できていると言えるので、重イオンビームによる米の放射線育種は、特定の塩基配列を精度良く狙うことができます。

それでも精度100%で全て想定した形質の米ができるわけではなく、狙い通りではない形質の米も中には出てきます。
しかしそういう異常な米を排除して、交配を繰り返して求める性質を備えた株を選抜しているのです。
異常な毒性を持つ作物が作られる可能性は、消費者の私たちが心配なんかしなくてもいいレベルと言えます。

4.(一)交雑によって遺伝子汚染が広がる!

「あきたこまちRの遺伝子が他の米と混ざれば、遺伝子汚染になる!」
「生産者が意図しない他の品種からの受精によって、本来とは異なる性質を持つ作物が出来てしまう!」

という一見するともっともらしいこの主張にも、実は無理があります。
米は自家受粉(同じ株からの花粉がめしべに付くことで受粉する)のため、米農家は一般的な作付けでは交雑を気にすることはないそうです。
他家受粉(異なる株の花粉がめしべに付くことで受粉する)の作物なら、当然ながら交雑する可能性はありますが……。
当たり前ですが、交雑は今に始まったことではなく、遥か昔から他の作物でも常に起こっていることです。
さらに前提として、現状9割以上の農家が毎年種子を買って更新しているので、問題にはなりません。

参考

なんで今さら「遺伝子交雑は怖い!」と問題にするのか。
ここぞとばかりに、不安を煽りたいだけに見えてしまいます。

5.(三)あきたこまちRは自家採種できない!

「種苗法が2022年に改悪されたから、あきたこまちRは種取りできない!」

という課題は、簡単に解決できます。
そんなに嫌悪しているあきたこまちRを、栽培しなければいいだけ!
種取り自由な登録品種以外で自家播種すれば解決しますし、登録品種でも申請すれば許可が下りるものもあります。
改正種苗法や食料危機とかと結びつけるのは、あまりに論理が飛躍しすぎています。

6.(捕)カドミウム低吸収米を品種改良すればいいだろ!

「放射線育種米じゃなくても、カドミウムを吸収しにくい品種はあるから、その品種を改良すればいいだろ!」

という意見について。
たしかにインド在来種の米には、カドミウム低吸収のイネの野生種があり、そのカドミウム低吸収のイネの野生種とコシヒカリを繰り返し交配した品種が近年開発されました。
食味や形質がかけ離れたインド在来種(インディカ米)のカドミウム低吸収という性質を、もし日本の米(ジャポニカ米)に導入できたら、これはすごい発明です!
では同じようにあきたこまちで交配すれば、放射線育種をせずともカドミウム問題は解決するかというと……そう簡単ではないようです。

以下の点が、課題として残ります。

①カドミウムの低吸収性があるにしても、厳しくなるであろうカドミウムの基準(0.2ppm)に引っかかる可能性は否定できないこと。
②あきたこまちとインド在来種の交配するにしても、品種開発には、地道な交配出の品種開発は、栽培管理や種の選抜にかなりの労力がかかること。
(少なくとも10年以上、種子増殖に3年程度はかかる)秋田県の事情である「待ったなしのカドミウム対策」としては、まだ不十分なのです。

7.(二)従来のあきたこまちはもう作れなくなる!

これも勘違いされやすい点です。
たしかに秋田県から供給される種子は、全面的にあきたこまちRに切り替わりますが……、
どうしても従来のあきたこまちが作りたければ、秋田県以外の他県から取り寄せて栽培することは問題なくできます。
そして、従来のあきたこまちだと表示して販売することも可能です。
つまり従来のあきたこまちも、完全になくなるわけではないのです。

8.(遊)あきたこまちRは、海外のオーガニック基準にならない!

「EU有機原則ではORGANICにならない!」

これは間違いです。
EUのオーガニック基準では、作物への放射線照射は認められていませんが、交配を繰り返した放射線育種はオーガニックとして認められています。
そして日本も同様に、有機JAS認定は取れます。
つまり、あきたこまちRでも有機栽培はできるのです。

9.(投)安全性の審査が十分ではない!

「あきたこまちRをたった数年で世に出すなんて! 最低100年は検査しろ!」

というお馴染みの批判を、某政党は展開しています。
人為的に引き起こした突然変異による農作物の品種改良は、1950年代に実用化が始まってから、全世界では2,500種を超える突然変異品種が作られ農業に利用されてきたとも言われます。

つまり、放射線育種の作物が世に出てからすでに何十年も経っており、そして安全性に関する問題は報告されていません。
これ以上、何をどのように検査したらいいのか。
みなさんが毎日の食事で口にしている食材で、100年以上前の品種を一切改良せずそのまま食べている品種はありますか。ちなみに日本で最初にできたお米の品種(人工交配による改良品種第1号)は大正2年(1913年)の「陸羽(りくう)132号」です。
まずは自身が安全だと思うものと、毎日の食事内容を、検証可能な形で示してほしいですね。

まとめ

一部の活動家は、あきたこまちRへの対策として、怪しい民間療法を勧めています。
この怪しい民間療法を調べると、高額な商材や赤ちゃんの死亡事例などが出てきます。
はっきり言って論外です!
そして、こういう活動家が悪意を持って広めるデマを信じて、秋田県にメールや電話で抗議する人も相当数いるとのこと。
秋田県や秋田の米農家の風評被害を減らすためには、特定のあきたこまちR反対派の意見だけを鵜呑みにしないことです。
多角的な意見の一つとして、根拠に基づいたアグリファクトの記事は参考になるはずです。

前編はこちら

【ナス農家の直言】記事一覧

筆者

ナス男(ハイパーナスクリエイター「ただのナス農家」)

 

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