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第7回 ご都合主義の研究結果にEPAが反論 【IARCに食の安全を委ねてはいけない】

特集

IARC(国際がん研究機関)のハザード同定は問題が多い。とくにグリホサートのグループ2A分類をめぐっては評価担当者らの意図的な発がん性否定研究の排除、数々の利益相反が明らかになっている。2019年初めに米国で報道された発がん性を肯定する研究に関しても、疑惑のIARC関係者の関与が報告されている。規制機関のEPA(米国環境保護庁)はついにその研究を再解析し、反論した上で発がん性を改めて否定する見解を発表した。

除草剤に関する疑惑の報道

2019年2月、CNNは除草剤ラウンドアップの有効成分グリホサートに関して、”Common weed killer glyphosate increases cancer risk by 41%, study says” (グリホサートは発がんリスクを41%増加させるとの研究結果が出た)と報じた。

同じ時期に、ラウンドアップ裁判の原告に協力している反GMO団体USRTKの研究責任者であるキャリー・ギラム氏は、英ガーディアン紙の記事で、”Weedkiller ‘raises risk of non-Hodgkin lymphoma by 41%” (除草剤が「非ホジキンリンパ腫のリスクを41%上昇させる」)と警告した。多くのメディアや環境活動家グループも、この数字を無批判に報じた。

41%という統計の出所は、2019年2月に学術誌「Mutation Research」に掲載され、物議を醸したメタアナリシス(複数の研究結果を統合したより高い見地からの分析)研究である。グリホサートとがんに関する最新の疫学データを再解析したこの論文は、グリホサート系除草剤への曝露と非ホジキンリンパ腫(NHL)、つまりラウンドアップの使用が原因だとしてバイエル社を訴える数千人の原告たちのがんとの間に「説得力のある関連性」があることを示唆している。

この論文はむろん、多くの専門家から厳しい批判を浴びた。私も「新しいメタ研究の著者は意図的にデータを操作したのか、それとも単に分析に失敗したのか? 41%グリホサートによる、がん増加の主張が非難を浴びている」https://geneticliteracyproject.org/2019/02/18/41-glyphosate-cancer-increase-claim-under-fire-did-the-authors-of-new-meta-study-deliberately-manipulate-data-or-just-botch-their-analysis/ を参照)と題する記事をGLP「Genetic Literacy Project(遺伝子リテラシープロジェクト)」に寄稿し、ギラム氏の方法論と分析から得られた結論に異議を唱えた。

この批判は、先週、論文の主執筆者であるワシントン大学環境・職業健康科学部および生物統計学部のリアン・シェパード博士が米フォーブス誌で反論を試みるまで、回答がなかった。

シェパード氏はまず、EPA(米国環境保護庁)の科学諮問委員会2016のグリホサート評価に参加したことで、「政治的責任のある科学の深淵に引きずり込まれた」と読者に語った。さらに彼女は「科学的情報を抽出するEPAのアプローチが、証拠を難解にしているのを見てショックを受けた」と述べ、「EPAがグリホサートの動物発がん性試験を誤って解釈している」と非難した。この経験が、彼女と他の2人の科学諮問委員に、今回のメタ分析に着手させることになったようだ。

発がん性を肯定するメタ解析の欠点

シェパード氏がフォーブス誌で無視した重要な事実とその進展について、私が簡単に説明しよう。以下、このメタアナリシスを筆頭著者の名前を用いて、“Zhang論文”と呼ぶことにする。私はこの論文が出た直後に読み、当時寄稿していたForbes.com(2019年2月18日)に批評を投稿した。

序文を読んで、著者がグリホサートの発がん性論争における賛否の立場が同等であることを示唆していることに気づいた。しかし実際のところ、両者は同等ではない。10を超える国際的・国内的な規制機関がグリホサートの安全性を検証し、なかには何度(編集部註 40年にわたって800以上の試験が繰り返されてきた)も繰り返し検証した結果、発がん性の可能性は低く、ラベルに従って使用すれば安全であることが判明している。この検証に耐えた価値の重みが無視されている。

次に、54,000人の農家を対象としたAHS(農業健康調査/米国国立がん研究所など)による前向きコホート研究という疫学研究である。国立がん研究センターによる解析では、グリホサートへの曝露と、固形がんや非ホジキンリンパ腫(NHL)などのリンパ系がんを含む20以上の悪性腫瘍のいずれにも関連が認められなかったため、著者らは何か問題があるに違いないと感じているようであった。

AHSによる疫学研究はこのテーマを扱う研究において、規模・信頼性ともに圧倒的に質の高いものである。にもかかわらずZhangたちは、AHSよりはるかに劣るケースコントロール研究に対して、比較にならないほど懐疑的である。

メタ解析に含まれる他の5つの研究はケースコントロール研究であった。ケースコントロール研究はコホート研究とは異なり、想起バイアスの影響を受ける。また、AHSとは異なり、5つのケースコントロール研究は規模が小さく、グリホサートに曝露された被験者の割合もかなり低いものだった。さらに、曝露の定義が研究によって異なっていた。

私は、このような劣悪なケースコントロール研究と、はるかに優れたAHSを組み合わせることの価値を疑問視している。『リスク分析』誌に最近掲載された論文では、この懸念の正当性が確認された。

著者らは都合よく6つの研究結果を組み合わせることで、要約相対リスク推定値を1.41(95%信頼区間1.13-1.75)と高くした。これが、グリホサートに曝露された人は非ホジキンリンパ腫のリスクが41%増加することを示す根拠として論文の要旨に掲載され、ヒトの疫学研究を分析した結果、グリホサートと非ホジキンリンパ腫の間に「説得力のある関連性があることを示唆している」と結論づけた。

私は、もしZhangらがより適切な解析をしていれば、要約相対リスクはかなり減少し、統計的に有意ではなかっただろうと指摘した(この結論はEPAによって確認されている)。その場合、彼らの論文はほとんど注目されなかっただろう。

私のフォーブスの投稿は、上記のような指摘を含んでいた。しかし、投稿した翌日の2月19日に、何の警告も議論もなく削除された。

シェパード博士らが無視した都合の悪い事実

シェパード氏は、私の批評が「フォーブスの編集基準に達していない」ために削除されたと主張したが、笑止千万である。私は過去8年間に約80本のコラムをフォーブスに寄稿してきたが、一度も問題はなかった。オーガニック業界出身の反農薬、反遺伝子組み換え、反近代農業の活動家であるキャリー・ギラム氏(編集部註 さらにグリホサート評価委員会のブレア座長と交流があり、ラウンドアップ裁判の原告代理人リッツェンバーグ弁護士の訴訟広報にも協力している。IARCのブレア座長は、ラウンドアップ裁判に関連して恐喝罪で有罪判決が下ったリッツェンバーグ弁護士から金銭を受け取っていた)が編集部に抗議し、編集部は何の議論もないまま記事を削除し、私とフォーブスの関係を絶ったというのが真相なのである。

不思議なことに、シェパード氏はフォーブスが私のコラムを「撤回」したことに言及し、ギラム氏が使ったのと同じ無知な言葉を繰り返した。

改めて、シェパード博士が私の批判に対する反論投稿で言及しなかった重要な点について見てみよう。まず、引用したIARC(国際がん研究機関)は、動物の発がん性データなどに基づき、グリホサートを「ヒトに対しておそらく発がん性がある=グループ2A」に分類している。しかし、ロイターのケイト・ケランド記者による報道、国立がん研究所の元統計官による慎重な再評価により、IARCの動物実験評価には不正や詐欺さえあることが判明している。

参考

IARCが依拠する、げっ歯類研究の厳密かつ完全な統合は、グリホサートが動物発がん物質であるという結論を導くものではない。

さらに、シェパード氏と共著者たちは、安全な曝露量というものは存在せず、もっと低い曝露量でも害を受ける可能性があると主張した。これは、食品に残留するグリホサートに関する恐怖物語を復活させ、世界の規制機関が行ったリスク評価の知見すべてに反する。

しかし実のところ、1996年にラウンドアップ耐性農作物が登場して以来、グリホサートの農作物への散布は約15倍に増加した。この25年間で、NHLの発生率はどう推移したか。グリホサートの使用量が著しく増加した一方で、非ホジキンリンパ腫の発生率は横ばいであり、非ホジキンリンパ腫による死亡率は減少しているのだ。

EPAによるZhang論文の再解析

2020年1月、疑惑のIARC関係者らも関わる研究に対してEPA(米国環境保護庁)は、ついにグリホサートに関する研究の2017年レビューを更新する覚書を発表した。

Zhangメタ解析をEPAが再解析した結果、要約相対リスクは1.14(95%CI 0.87-1.50)であった。EPAはこの再解析により、グリホサート曝露とNHLの間に関連はないという2017年以前の判断を確認したと結論づけた。

EPA の再調査では、Zhang らによる実際のデータではほとんど裏付けのない仮定に基づいた意思決定の他の方法が示唆された。特にZhangらは、グリホサート系除草剤への曝露量が多いほど効果サイズが大きくなるという「先験的な仮説」を強調し、「高い」とは「強度/大きさが大きい、期間が長い、あるいはその2つの累積的組み合わせ」と定義していた。しかし、EPAは、「最大かつ最高品質の研究」であるAHSにおいて、以下のように指摘した。

「……この仮説は支持されていないように見える……Andreottiら(2018年)には、曝露量が多いほどオッズ比が高くなる傾向が読み取れないので、著者の述べた先験的な仮説を支持する証拠はほとんどない。」

Zhang論文の著者たちの判断は、自分たちの好む仮説を支持する証拠を見つけようとするあまり、曇ったものになってしまったようだ。

また、シェパード氏は、科学的な問題の議論について、「インターネット」での投稿・コメントはまともな対応に値しないと断じている。しかし、査読プロセスには重大な問題があり、Zhang論文の出版は、非常に疑わしい研究が科学雑誌に掲載される可能性があることを示している。

問題は、シェパード氏が私たちに信じ込ませようとしたように、SNS上で科学的な問題に取り組む、無規律で無知な人々がいることではない。有益な情報に基づいた批評は、それがどこから来るにせよ、価値がある。多くの優れた科学者が重要な論文の批判的評価をオンラインで書くことの価値を認めている。シェパード氏自身が科学的問題を議論するためにSNSを使っているにもかかわらず、そのダブルスタンダードに気づいていない。

実際、問題は常に、シェパード氏とその共著者たちが、グリホサート曝露によるリスクの存在を裏付けているかに見えるデータを支持することに熱心であることなのだ。シェパード氏は、自分とその共著者たちがメタ分析に使用したデータを故意に選んだという批判を否定した。明らかなのは、彼らは自分たちの仮説に固執し、データに何らかのシグナルがあるに違いないと確信していたため、自分たちの仮説に従って推定値を選択し、適合しないデータを無視したということである。

*この記事はACSH(全米科学健康評議会)アドバイザー、がん疫学者のGeoffrey Kabat氏、2020年2月27日公開https://www.acsh.org/news/2020/02/27/epa-refutes-study-claiming-glyphosate-boosts-cancer-risk-14600をAGRI FACT編集部が翻訳編集した。

〜第8回へ続く〜

 

【長期特集 IARCに食の安全を委ねてはいけない】記事一覧

筆者

AGRIFACT編集部

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