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第1回 改革か廃止か 時代遅れのIARC同定スキーム【IARCに食の安全を委ねてはいけない】

特集

ある化学物質の発がん可能性を単純な二者択一で評価するIARCのハザード同定スキームはもはや時代遅れとなっている。1970年代初頭に設定されて以来、基本的にスキームが変更されておらず、21世紀の規制科学レベルに達していないからだ。改革を行うか、さもなくば廃止か、世界の科学、規制、政治の各界が決断を迫られている。

過去50年の科学的研究と実践を無視した遺物

IARCのモノグラフプログラム(ハザード同定=化学物質が何であるかを決め所属を決定すること)は、21世紀の科学レベルに対応して改革するか、でなければ廃止されるべきものである。

世界保健機関(WHO)の下部組織IARC(国際がん研究機関)のモノグラフ(専門書)は、1970年代初頭にモノグラフが制定されて以来、基本的に変更されていない。いわば時代遅れのがん分類法である。この45年の間に、がんの原因に関する科学的な理解は深まり、意思決定者は実験動物に見られる影響を人間の健康を守るためにどのように利用すべきかについて、進化した認識を持つに至った。

参考

そして毒性学におけるブレークスルーは、世界保健機関化学物質安全性国際計画、米国環境保護庁(EPA)、英国発がん性委員会などによって取り入れられてきた。

これに対してIARCは、過去半世紀にわたる科学的研究がなかったかのように、その分類体系を適用し続け、数十年にわたって世界中で実践されてきたリスク評価の基本である「用量作用関係の原則(多量なら危険、微量なら安全)」を完全に無視した。IARCのモノグラフプログラムは、もはや設立時の機能を果たしていない歴史的な遺物なのである。

世界の公衆衛生にとって無価値な情報

IARCモノグラフ(「ヒトに対する発がん性リスクの評価に関するIARCモノグラフ」)プログラムは、いまだに数十年前の科学的見解を表している。科学はこの半世紀で劇的に進歩したが、IARCのがん分類システムは、科学的根拠に乏しく、現実的に混乱する結果をもたらしている。

いまや化学物質や食品の研究・規制機関、そして一般市民は、ベーコン(加工肉)とプルトニウムを同じグループ1(ヒトに対して発がん性がある)とするIARCの評価と戦わなければならなくなった。また、IARCは2016年にコーヒーを「グループ2B」(ヒトに対する発がん性が疑われる)から「グループ3」(ヒトに対する発がん性について分類できない)に引き下げたものの、コーヒーに含まれるカフェ酸はグループ2Bのまま維持した。その一方で、65度以上の熱い飲み物は「グループ2A」(ヒトに対しておそらく発がん性がある)とし、コーヒーは一般的に71度以上で提供される。

こうしたIARCの分類による相反する情報を見て、国民や政策立案者は一体どうしたらよいのか。

IARCのモノグラフプログラムの歴史の中で調査された約1,000種類の化学物質のうち、「おそらく発がん性はない」と分類された化学物質は1つしかない。ほとんどすべての化学物質について、発がん性があるという証拠があり、そのように扱われるべきか、あるいは「分類できない」(入手可能な証拠では結論を出すことができない)という結論を出すプロセスは、公衆衛生に携わる専門家にとってほぼ無価値な情報である。

IARCの古いスキームと21世紀毒性学のブレークスルー

IARCが採用している単純な「ハザード同定」スキームは、もともと1960年代と70年代にヒトの疫学研究データに基づいて開発され、80年代になって実験用げっ歯類の長期毒性試験の結果を含めるように進化してきたものだ。これらの試験では、動物に最大耐容量(ヒトに換算すると通常摂取・暴露する量をはるかに上回る)とそれより低い用量の試験物質を生涯にわたって毎日投与する。ある物質ががんを引き起こすのか、それとも引き起こさないのか、の単純な二者択一の問いに答えるために開発されたもので、動物の生涯にわたる腫瘍の発生率が増加したかどうかを主要な判断材料とする。

その結果、果物や野菜の自然な構成要素の一部である化学物質が、高容量を投与するこのような研究では発がん性を示した。それらの化学物質を含む食品には、リンゴ、ニンジン、セロリ、トマト、ナシ、ブドウ、コーヒーとレタス(カフェ酸)、ニンジン(アニリン)、パン(アセトアルデヒド)、ルッコラとマスタード(アリルイソチオシアナート)など多くの食品が含まれ、我々の現実の生活を混乱に陥れることになった。

ところが、がんの原因に関する科学的な理解が深まるにつれ、1990年代には、がん形成における多くの異なるメカニズム、つまり作用機序を評価するための枠組みが開発され始めた。これにより、実験動物(特にげっ歯類)とヒトでは、化学物質の影響に対する生理機能や反応が異なるため、ある投与量やある曝露経路でのみ作用する効果を区別することができるようになった。また、作用機序の知識は、動物実験で見られた有害作用の関連性を理解し、ヒトの健康への影響の可能性を評価するための手段にもなったのだ。

21世紀の初頭、これらの毒性学のブレークスルーは、WHOの国際化学物質安全性計画によって、ヒトに対する発がん作用の関連性を分析するためのフレームワークに組み込まれた。米国環境保護庁のがんリスク評価ガイドラインも同様の枠組みを含み、その後、英国の発がん性委員会の決定アプローチなどにも組み込まれ、大きく進歩した。

規制科学に逆行する力を持たせたままでよいのか

しかしIARCのプロセスはあくまでハザードベースなので、ある物質が発がん性を引き起こす可能性があれば、状況にかかわらず、発がん性の「ラベル」を貼ろうとする。その前提自体に欠陥があるのだ。そのため、がんを引き起こす可能性の高い量が何桁も違う化学物質を同じグループに入れるという、役に立たない、不条理とさえ言える仕組みが出来上がってしまった。

この「ハザードの同定」スキームは、新規あるいは未試験の化学物質に対してさらなる調査を行うという、本来の目的通りに使われるのであれば、一定の価値を持つかもしれない。だが、除草剤ラウンドアップの有効成分グリホサートをグループ2Aに分類した不幸な事例に見られるように、IARCはそのような限定的な役割に満足してはいない。現在では、より広範な知識を持つ科学的規制機関によって徹底的に評価され尽くした後に、その物質を審査することが多くなった。

今日、がんの発生に影響を及ぼす制御可能な最大の要因は、喫煙、肥満、教育不足、貧困といった生活習慣の問題と、肝炎ウイルス、ヒト乳頭腫ウイルスなどの感染症であることが分かっている。

IARCモノグラフプログラムは、かつては適切であったかもしれないが、もはや意図された目的を果たすことはなく、公衆衛生に基づく意思決定にも有用でない。現在のところ、IARCモノグラフプログラムは規制科学に逆行する力を持ち、公衆衛生を守るためにうまく機能しているシステムを不必要に混乱させる。さらに、政治的混乱や社会的不安を引き起こし、社会的利益をもたらさない。その時代遅れの分類法の結果は、健全でない科学を反映し、不必要な恐怖と不確実性を生み出し、公衆衛生規制システムの完全性を損ない、研究資金やその他の資源をより有益な努力から逸らしているのだ。

世界の科学、規制、政治の各界が、IARCモノグラフプログラムを継続する価値を評価し、組織の利益相反、科学的厳密性、証拠基準に関して提起された正当な疑問をオープンに検討すべき時が来ている。IARCのハザード同定が価値を持つためには、化学物質の発がんメカニズムや生物学の他の分野に関する知識の進歩を反映する改革が必要だ。もし、その改革ができないのであれば、歴史的遺物として葬り去られるべきであろう。

*この記事は、ACSH(全米科学健康評議会)スタッフ – 2017年4月20日公開 The IARC Credibility Gap And How To Close It をAGRI FACT編集部が翻訳編集した。

〜第2回へ続く〜

【長期特集 IARCに食の安全を委ねてはいけない】記事一覧

筆者

AGRI FACT編集部

 

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