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新しい戦い「認知戦の弾」になった農業トンデモ:59杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】
トンデモ情報の多くは、農業や農薬の基本的な知識がない素人に対し、「いかに不安を掻き立てるか」「いかに怒りの感情を煽るか」というために使われてきました。
たとえば、「農薬はこんなにも危険!」と主張する人物や団体は、基本的に食品安全委員会や農薬メーカー、または大学などの研究機関を相手に議論するのではなく、講演会や自主制作映画などでごく普通の一般人にアプローチし「危険である」と(間違って)認知させるやり方です。
話の中では大学の名前や教授の肩書が登場することもありますが、それはあたかもプロ同士で科学的に議論されているかのように「認知」させる仕掛けにすぎないのです。
情報戦とは違う「認知戦」なるもの
このようなやり方を、最近では「認知戦」と言います。
認知戦とは、他人を洗脳まではできないものの、もともと持っている偏見や思想を先鋭化させる大規模なソーシャルエンジニアリングのことです。
よく聞く「情報戦」との違いは、「情報戦」は相手の通信インフラや情報システムなどを攻撃したり防御したりするのに対し、「認知戦」は相手の認知、つまり頭に働きかけるのが特徴です。
情報戦の戦場がサイバー空間だとすると、認知戦の戦場は私たちの頭の中ということになります。
選挙介入やコロナワクチンなどにも触手が
最近では、ロシアがこの「認知戦」で日本の選挙に介入していたのではないかと問題になり、デジタル相が「我が国も対策を取る必要がある」と話したことがニュースになりました。
実は、選挙介入の疑いが大きく報じられる前から「認知戦」については防衛省などでその重要性・緊急性が指摘されてきました。
「認知戦」は誤情報で(主に相手国の)世論の動揺や分断を狙うものですが、これまでどのような話題が利用されてきたのでしょうか。
いくつか例を挙げたいと思います。
2021年にはロシアと中国が新型コロナウイルスワクチンの偽情報を流し、欧米の不信感を煽ったことが報じられました。
また、東京電力福島第一原子力発電所の処理水の放出にあたっては北朝鮮のスパイ組織の人物らが「偽情報で日韓の分断と対立の世論を煽った」として韓国の情報当局に逮捕されました。
ワクチンの不安を煽る誤情報、そして原発の不安を煽る誤情報は、農業や農薬の不安を煽る誤情報と発信元や発信する方法が不気味なほどに重なります。
先ほど述べたロシアの政治介入疑惑の渦中にある参政党も、繰り返し農業や農薬の不安を煽る誤情報を発信してきました。
農業での認知戦は社会分断が目的
こうした状況を見ると、農業の誤情報も「認知戦」の武器として活用されているのではないかと推測されます。
これまでの農業トンデモは、農薬落としを謳う怪しげな高額商品を売りたい業者や、オーガニック活動で影響力を拡大したい市民団体、尖った情報で目立ちたいインフルエンサーなどが発信していました。
つまり、主にビジネス拡大や政治的影響力を持つことが主な目的です。
ですが、農業の誤情報が「認知戦」の弾として使われているとすると、ビジネスでも影響力のためでもなく、社会の分断や混乱そのものが目的ということになります。
そして、仕掛けているのは変な商材を売る業者でもインフルエンサーでもなく、国家機関もしくはそれに並ぶ組織ということになります。
規模も、目的の悪質さも全く比較になりません。
もはやこれまでのように一般人や専門家が個人では勝負にならないのです。
国や自治体、メディアなどお互いに協力して、組織的な認知戦に対応する方法を考える必要があるのではないでしょうか。
【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |