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第29回 オーガニックカルトを社会課題化する(前編)【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

「宗教2世」が昨年来、話題になっている。

旧統一教会問題をめぐって多くの人に知られるようになった言葉だが、実際には少し前からNHK『ハートネットTV』で特集が組まれたり(※1)、宗教2世をテーマにしたウェブコミックが突然掲載を打ち切られニュースになる(※2)など、社会の関心を集めつつあった。

「社会調査機構チキラボ」が2022年9月におこなったアンケート調査の結果(※3)が現在、ウェブ上で無料公開されている。

回答した1,131人の当事者による膨大な声を拾っていけば、決して突然生まれた新しい問題ではないことがわかる。

そこに「宗教2世」という言葉が与えられたことによって、また不幸にも旧統一教会問題が大きな注目を集めた結果として、あらためて深刻な問題として「見える化」された。

このように問題を名づけることは、ともすれば安易なレッテル貼り、負の烙印(スティグマ)に転用されかねない点、また定義の範囲が恣意的に運用されかねない点など、危うさも孕んでいるが、社会に対して「ここに助けを必要としている人がいる」というメッセージを発信する上で大きな力にもなる。

負のレッテル

本連載では当初から、「農と食にまつわる疑似科学の健康被害や陰謀論による分断を、社会課題として可視化すること」を、ひとつのテーマに掲げてきた。

このところ、参政党やオーガニック給食運動といった社会的影響の大きいアイコンの台頭によって、ある意味では以前より見えやすくなったとも言えるが、本当に社会課題として論点化されるまでには、まだいくつもの階段をのぼる必要がある、と感じている。

ただ、それらのアイコンを話題にする際でも、カルトという言葉はあくまで特定のカルト団体や、具体的な事象を示唆する使い方に留めてきた。

活動の異端さや狂信を意味する「カルト」の使い方に、慎重さが求められることは論をまたない。

批判対象をおとしめて溜飲を下げるためのレッテルとして「カルト」を濫用すれば、相手からの激しい反発を招くばかりか、本来解決すべき課題からもかえって遠ざかってしまう。

宗教2世とオーガニックカルト

ところがそうしているうちに、社会の側の認識に変化を感じさせる出来事があった。

それが「社会調査機構チキラボ」代表で評論家の荻上チキ氏の発言である。
同氏がパーソナリティを務めるラジオ番組中、旧統一教会問題を受けて立法が進められた被害者救済法のあり方をめぐる議論のなかで、このような言葉があった。

「それは旧統一教会だけではなくて、やはり、今度はじゃあ、他のカルトをどうしようか。カルトというと、宗教系カルトだけではなくて、医療系のカルトとか、教育系のカルトとか、それこそ例えばオーガニック、医療を拒否させる、あの特定の何か妙な儀式、あるいはQアノンのような陰謀論を信じさせられる、いろんな類のものがあるので、議論のウイングというのは相当広くはあります」(※4)

また、同番組中の「宗教2世」特集を書籍化した同名書のなかでは『いわゆる「カルト宗教」にハマってしまう人たちが、「カルト宗教」を脱会した後でも、陰謀論やマルチ商法、オーガニックカルトなど様々なカルトを渡り歩く傾向にあることが専門家や当事者の方々、複数から指摘』されているという。(※5)

過去の連載(※6)でも述べた通り、オーガニック食品を愛好し過信する過程で起きる健康被害や治療機会の逸失などについてはこれまで、当事者の自己責任として社会から顧みられることなく、日陰に埋もれてきた面がある。

社会問題を横断的に観察する評論家の視点から、「オーガニックカルト」の存在、あるいは「オーガニックのカルト的側面」が、宗教2世問題と接続する形で明確に示された事実は重い。

「見える化」のメリット

もちろんこうした動きには、単なる告発にとどまらない前向きな効果も期待できる。
考えられるメリットとしては(一部繰り返しになるが)こんなことが挙げられる。

・当事者が声を上げやすくなる。自分の体験したことは被害と呼べるもので、自己責任として耐える必要はないということを、自身も社会の側も認識しやすくなる。
・他のカルト問題と、情報やノウハウの共有が進む。また、カルト問題の専門家による分析や支援が進む可能性がある。
・オーガニックの何が問題で、どこまでは問題がないのか、整理が進み、対処すべき問題点が可視化される。

特に3点目は、オーガニック食品等に関わる生産者や事業者にとっても、むしろメリットになり得るはずだ(健康不安を煽るタイプのマーケティングに依存していない限りは)。

オーガニックカルトとは何か

では、あらためて「オーガニックカルト」とは何だろうか。

カルトという言葉自体が、今日では必ずしも特定の宗教だけを指す意味では使われていない。
法律等による明確な線引きはないにせよ、荻上氏が指摘する通り、カルトの性質を持つ団体は様々な分野で存在している。

また、『昨今は、明確な「集団」でなくとも、あるいは権威あるリーダーや集団的なマインド・コントロールを伴わなくても、似たような異端信念を持つ人々が、全体として大きな「集合」となり、影響力を持つという現象も目立つ』という。(※7)

オーガニックの世界でも、カルト的な意味で影響力の大きい特定の団体や個人は存在するものの、では彼らだけが突出して異常な言動をおこない、オーガニックの意味を捻じ曲げているのかといえば、決してそうではない。

むしろ、そうしたインフルエンサーの言動自体が、以前からオーガニックの世界で広く認容されてきた(少なくとも、黙認されてきた)テンプレートや信念をそのまま受け継いでいるか、せいぜい、ある程度過激化させたものにすぎなかったりする。
そのことは参政党現象を取り上げた記事「オーガニック保守政党誕生の憂鬱」でも指摘した通りだ。(※8)

どこにでも潜むオーガニックカルト

さらに、彼らが発信している明らかに誤った情報や陰謀論、ミスリード等を、それ以外のオーガニックに親和的な事業者や生活者が特に疑うことなく、すんなり受け入れてしまっていることも珍しくない。

そのため、一見して何もおかしなところがないように思えるオーガニックのお店やサービスを利用した際にも、思いがけずカルト的な要素を含んだ商品や情報に遭遇する場合がある。

例えば近隣の自然食品店を利用しているだけで、極端な反医療・反ワクチン運動のチラシ(ワクチンを避けて自然食品で免疫力を高めるべきだとか、アトピーやアレルギーは農薬や添加物が原因だ、等)を目にするといったケースが典型的だ。

そう考えるとやはりオーガニックカルトとは、特定のカルト団体や個人を指し示すだけではなく、社会が自覚しきれていない「オーガニックのカルト的側面」をあぶりだす言葉としても定義づけられるかもしれない。

自然食品等に関心や好意を抱くプロセスで(事業者であれ生活者であれ)誰もが知らずに陥りがちな思考パターンや思い込み、ステレオタイプなイメージ、あるいは「そうであったらいいな」という期待。
そして、それらを満たしてくれる形で提供される商品や情報。

こうした隅々にアメーバのように遍在するものとしてオーガニックカルトを捉えると、何が見えてくるだろうか。

参考

※1 NHK ハートネットTV「“神様の子”と呼ばれて~宗教2世 迷いながら生きる~」2021年2月9日放送

※2 「ある宗教団体からクレームが…」漫画家・菊池真理子が明かす「宗教2世」連載が公開終了に追い込まれた“真相”

※3 『宗教2世』当事者1,131人への実態調査 社会調査機構チキラボ

※4  TBSラジオ「荻上チキ・Session」特集「ニュース座談会12月場所」江川紹子×木村草太×荻上チキ×南部広美 2022年12月23日放送(該当の発言は26分40秒頃から)

※5 『宗教2世』(太田出版)刊行記念 荻上チキ×松本俊彦トークイベント 「『宗教と依存』――カルトを渡り歩く人たち」代官山 蔦屋書店

※6 第3回 「自然派被害」は自己責任なのか(前編)

※7 なぜ、いま、「宗教2世」なのか? 荻上チキ編著『宗教2世』(太田出版)より

※8 第23回 オーガニック保守政党誕生の憂鬱

 

【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】記事一覧

筆者

間宮俊賢

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