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Vol.29 消えてはまた浮かぶ「飲尿療法」【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは「飲尿療法」です。老廃物の「尿」を飲むことでさまざまな健康効果を発揮すると謳われたそれは、医学的には完全に否定されているのだが、未だ根強いファンもいるという……。民間療法の飲尿で身体の変化を感じるという人たちを観察します。
飲尿療法ブームは提唱者のウソから始まった
90年代にちょっとしたブームになった「飲尿療法」。控えめに言っても狂っている民間療法ですが、これが最近また、周囲で話題になっていました。
古くはアントニオ猪木やさくらももこ。比較的最近では古舘伊知郎などが実践していることが報道されていましたが、最近の火元はどうやら、漫画家のまんきつ氏。あらゆる美容法に手を出したそのひとつに、飲尿もあるというインタビュー記事が出ていたのです。「デトックス」と称して色々なものを排泄しようとする方法は多々あれど、排泄物を再び取り込む美容法はなかなかレアでしょう。
巷では、拒否感の強いであろう尿療法。歴史上のヤラカシを、現代人の主観で笑う『アリエナイ医学事典Ⅱ』(三才ブックス/文・亜留間次郎 監修・薬理凶室)によると、最初の飲尿ブームは1969年頃のドイツ。当時は「中世にも高貴な人たちが飲尿療法を実践していたのだから、その効果は歴史が実証している!」なる話で盛り上がったようですが、実は後に、そのソースは提唱者がわざわざ作った偽書だったことがわかっています。なんて面白い……(いや迷惑、か)。要は、壮大な「ウソ」から始まったブームなのです。
にもかかわらず、その後さまざまな国で牽引者が現れ、尿療法が受け継がれてきました。同書では「医学的には完全に否定された無意味な行為」とぶった切られていますが、未だにバトンが渡され続けている尿療法(もうええでしょう!)。最近では中東でラクダの尿を商品にするという進化を遂げており、これは筆者もネット上で度々目にしている物件です。
あなたの知らない飲尿効果の世界
「ニッチな民間療法」と言うと、選挙で邪悪な存在感を放っていた参政党の支持者がお好きだというイメージがあります。が、私の狭い観測範囲では、そこに飲尿がいない! さすがのチーム・オレンジも、腰がひけるのでしょうか……? だったら、どんな人たちが実践していたのだろう。そんな興味から手にとってみたのが、2012年に開催された、某健康大会における参加者体験談をまとめた冊子です。その内容は、それはそれは濃いものでした。まるで朝一の尿のように……。
冊子によると、集計した60人の一日の飲尿量は101〜400mlが22%、401〜700mlが35%。ビール缶で350ml、500ml缶を想像すると、量のイメージが浮かびやすいですね。「おちょこ1杯」くらいを飲むやり方はよく聞きますが、想像以上に多かった。大会の主催をしているらしき健康会社による注釈的コメントで、「あくまで自己責任で行う健康法」と繰り返し書かれていますが、それでも超自由な報告書でありました。
まず、大分心配になるタイプの報告がこちらです(カッコ内は筆者のコメント)
- 缶詰が腐っていたのを知らずに食べて顔がしびれてきたが、尿を飲んだらすぐに治った(顔がしびれる前に嘔吐しないのが不思議だ)
- 飲尿でホルモンバランスがよくなり、止まっていた生理が再開。閉経した人でも生理が来るうようになる(不正出血では…?)
- 「淋病の人に飲んでもらったらよくなった経験がある」と聞いたので、自分が膀胱炎になったときも膿と血が入った尿を飲んだ(健康な尿ならある程度飲んでも好きにせいという感じらしいですが、感染症の尿はおやめになったほうが)
- 虫歯の痛みが尿のうがいでおさまり、しのぐことができた(結局抜歯になったそうですが、応急処置に役立ったのならなによりです)
- 講座を受けて大量に飲むようになったら、歩けないくらい足が痛くなり、松葉杖を使うようになり、医者に行っても何をやっても治らない。ビワの葉療法で治った(ダメじゃん⁉)
- 毎日1L飲んでいたらアトピーのような症状が出るようになった。量を減らしたらひどい痒みが引き、我慢できる程度になった(湿疹の報告はすごく多いですね)。
荒行のような凄まじさ。それでも体と向き合おう!という気合は感じます。
現代医療ではNGの「3た論法」満載
続いては、因果関係がさらに不明すぎるけど、ともかく本人は喜んでいるので微笑ましさを感じる変化の報告を抜粋して紹介。古い健康本によくあるタイプの報告で、個人的にはこの手の話が大好物です。
- 歯垢がつきにくくなった。
- 爪が割れにくくなった。
- 尿洗髪で髪が少し黒くなった。
- 水不足で手を洗えず爪の間が黒くなっていたが、尿で洗うことできれいになった(※海外在住の方。手を洗うのはよいことかと…!)
- 「氣」が出るようになったので、それを貯めて治療に使っている。
皆様とてもユニーク(嫌味ではなく、心から好ましく思っているポイントです)。特に岐阜県のFさ〜ん!「蔵出し一番搾りは最高の自然の薬」とかビールのCMみたいに表現するの、わずかに心が揺れるのでやめてください! 「飲めばわかる!」は、飲尿仲間の猪木を意識していらっしゃる?(ぼんばいえー)。「更年期障害とは無縁です」も、魅力的ですね。「小宇宙を感じられる水です」とまとめる方は、センス・オブ・ワンダーの持ち主なのでしょう。「口の中が公衆便所のようなニオイになっても平気でした」という方は、それ平気って思ってないのでは?という葛藤が見え、人間らしさに溢れています。
「正直まずい」と素直に報告している参加者には冊子の編集からのアドバイスがそえてありました。
「胎児は自分の尿を飲んでいるのだから、あなたは飲尿経験者です!」
だそうです。
極限のポジティブさは、飲尿の効果なのでしょうか。古事記などに登場する、口にすると現世に戻れなくなる「ヨモツヘグイ」のような、魔力があるのかと思わせる冊子でした(巷には尿量を試しつつ、やーめたと帰って来た人もいるようですが)。
「使った、治った、効いた」でOKとする「3た論法」は、現在の「根拠(エビデンス)に基づく医療」ではNGとされる考え方ですが、立民の原口一博氏が「標準治療のサポート」として水素吸入を宣伝していた※のが広く知られたように、この手の発信は永遠になくなりません。むしろ、権力が認めないことこそ真実である! と、口にされるものがなんと多いものか。
※コロナウイルス感染の後遺症が水素吸引で緩和した!なる主張をしていた
今回は「食品」というより「薬」としての尿でしたが、不思議さは、トップクラスの謎物件なのです。
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