寄付 問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています

第18回 「リスク」を無視したIARCの分類システム【IARCに食の安全を委ねてはいけない】

特集

国連の下部機関であるIARCは、根拠脆弱な観察的逸話に基づく環境保護対策に終止符を打つという崇高な目的の下に設立された。本来の使命は「有害物質を特定し、さらにリスク調査を行うこと」だが、リスク評価はしばしば行われず、有害性の主張だけが独り歩きしている。そのため今やIARCは、活動家の資金調達のための広報ツールと指摘される存在となった。

環境活動家の利益を生むシステム

IARC(国際がん研究機関)は、著書『沈黙の春』で知られるレイチェル・カーソンが「自宅の地下室にDDTを散布して死んだ人を知っている」と主張したり、「クランベリーはみんなを毒殺する」と主張したりするような、脆弱な根拠の観察的逸話に基づく環境保護対策に終止符を打つという崇高な目的の下に設立された。

しかし、近年のIARCは同じやり方に加担するようになった。彼らの使命は、ハザードの特定として知られる「がんの原因を特定すること」のみであり、各々の「発がん性物質が公衆衛生にどの程度のリスクをもたらすかについて提案すること」ではないのに、今やそればかりしている。加工肉のソーセージを食べることは喫煙(グループ1の発がん性物質)と同じくらい危険であるという奇妙な主張をしたとき、彼らは公衆からの信頼を失った。

その理由を私は、彼らが日常的に「リスク」という言葉を使うからだと指摘した。なぜ、このようなことになったのか? 「IARC:ディーゼル排気ガスと肺がん」に関して私は、2012年のディーゼル排気ガスの評価をもとに、IARCが意図的に偏った結論を出すことが確実なワーキンググループメンバーを選んでいると分析した。なぜなら、IARC作業部会の正式な議長であるクリストファー・ポワティエ博士が、環境防衛基金のコンサルタントという利益相反を申告する必要のない肩書きをもっていたからだ。

ポワティエ氏は、産業界のためのコンサルティング実績のある人は中立性を疑われるのでIARCのメンバーとして参加できないが、活動家グループでの仕事は利益相反に当たらないので開示することさえ免除され、産業界の資金提供だけが懸念される状況を作り出すことに成功した。IARCは参加科学者に対して、裁判所命令で強制されない限り、IARCの内部構造に関するいかなる要請にも応じないよう命じている。IARCは、すべての資料は自分たちの所有物であり、科学者はモノグラフの作成に関連したメモをすべて破棄するようにと言っている。

本来の使命を果たしていない

問題は、IARCの活動家がイデオロギー的な議題を推進するだけでなく、分類システムそのものにある。このシステムは訴訟や粗悪な政策のために作られたものであるが、一般市民や政策立案者に潜在的な害について本当に知らせることはできない。たとえば、カリフォルニア州の悪法として名高いプロポジション65の警告リストに自動的に掲載される方法の一つは、IARCによって発がん性が発見されることである。

これはIARC本来の使命ではない。IARCの本来の使命は「有害物質を特定し、さらにリスク調査を行うこと」だった。医化学の祖パラケルススの有名な言葉「全てのものは毒であり、その毒性は量で決まる」(意訳)を知っている人は多いだろう。しかし、リスク評価はしばしば行われず、有害性の主張だけが独り歩きしている。プロポジション65とカリフォルニア州について述べたように、IARCの危険性の主張で話は終わる。公衆衛生にとってより重要なリスク研究は忘れ去られ、たとえリスクが無視できるものであっても訴訟が提起されてしまう。

食品添加物のアスパルテームは、1日に7,000杯のダイエットソーダを飲むと有毒になるとされる。だが、IARCは現実のリスクを計算しない。その代わり、発がん可能性に必要な量が7桁(100万倍以上)も違う化学物質を同じカテゴリーに入れることがある。つまり、IARCにとっては、1が1,000,000と同じということだ。

現在IARCの分類は

グループ1:ヒトに対して発がん性がある
グループ2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある
グループ2B:ヒトに対して発がん性がある可能性がある
グループ3:ヒトに対する発がん性について分類できない

となっているが、Regulatory Toxicology and Pharmacologyの著者らが指摘するように、IARCによる肉の分類(グループ1)を参考にすれば、論理的には猛毒のマスタードガス(これもグループ1)の適度な摂取も問題ないはずである。しかし、IARCにとって1は1,000,000に等しいので、両者は同じでしかない。もちろん、リスクは同じではない。マスタードガスは微量でも人を殺すが、ソーセージは毎日食べても安全である。

私たちは前の世代よりも長生きしている。それは科学と医学のおかげだが、化学物質の潜在的リスクや本当に危険な行動を軽減したことにもよる。しかし、単純化したIARCの主張は最近、環境活動家や環境弁護士にとって富の源泉となり、一般市民にとってはほとんどメリットがない。彼らの発見は、動物実験、体外実験、イン・シリコ実験に基づいて発がん性を主張する偽りの科学の主張につながる。それらが望ましい結果をもたらさない場合、疫学的メタアナリシスで代用し、相関関係と因果関係を示唆する。

本来は、発がん原因を突き止め、真の研究を始めるために考案された単純な仕組みが、今では自動的に化学物質を禁止するようになっている。私たちは環境衛生の恐怖と真の健康への脅威を切り離すために、何が本当に危険なのかを知る必要がある。IARCは今や、活動家の資金調達のための広報ツールに過ぎないのだから。

 

*この記事は、ACSH(全米科学健康評議会)スタッフのハンク・キャンベル– 2016年11月2日https://www.acsh.org/news/2016/11/02/its-time-stop-using-simplistic-hazard-classifications-carcinogen-claims-10392 (発がん性の主張に単純化された危険有害性の分類を使うのはそろそろやめよう)をAGRIFACT編集部が翻訳編集した。

〜第19回に続く〜

 

【長期特集 IARCに食の安全を委ねてはいけない】記事一覧

筆者

AGRIFACT編集部

関連記事

検索

Facebook

ランキング(月間)

  1. 1

    他人事じゃない、秋田県のお米をターゲットにしたいじめ問題:49杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

  2. 2

    日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する

  3. 3

    VOL.22 マルチ食品の「ミネラル豚汁」が被災地にやって来た!【不思議食品・観察記】

  4. 4

    第50回 有機農業と排外主義①【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

  5. 5

    Vol.6 養鶏農家が「国産鶏肉と外国産鶏肉」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP
CLOSE