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第10回 みつばちを守れと叫ぶ人々は本当にみつばちを愛しているのか問題【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

「ネオニコチノイド系農薬の影響で世界中のミツバチが激減している」。記憶に新しいこの報道と前後し、間宮さんはカフェの裏手に日本みつばちが巣を作ったことをきっかけに、みつばちの世界に入っていきます。ネオニコを排除しようとする世間の運動の一方で、間宮さんはこの問題がそもそもみつばち自体に関心が寄せられたうえでのことなのか疑問を抱くのでした。


あるとき、カフェの裏手の小さな排水口跡に、日本みつばちが巣を作ったことがある。不思議に思って、みつばちに詳しい知人に連絡をしたらすぐに駆けつけてくれた。

店の裏には護岸工事が施された小川が流れており、その向こう岸に慣行農業の畑と、屋敷林の名残が広がっている。周辺には大きな公園や、畑地などもあることから、みつばちにとっては快適で巣作りに向いている環境なのかもしれない、ということになった。

みつばちの目線で街を見る

それが縁で、みつばちとの長い付き合いが始まった。

「東京はちみつクラブ」という小さな団体が主催して、玉川大学ミツバチ科学研究センターの中村純教授の指導のもと、カフェの裏に日本みつばちの巣箱を置いてみたり(これは失敗して、結局入居してもらえなかった)、その後、大学から持参した西洋みつばちの巣箱を設置して、店周辺の蜜源調査も本格的に行うことになった。

働きばちが集めてきた花粉を一部拝借し、周辺の植生と照らし合わせることで、彼女たちがいつどこを飛んで蜜や花粉を集めてきたのかをマッピングしたり、また周辺地域を歩き回って蜜源を調べる「ハニーウォーク」も実施した。自分が住んでいる街をみつばちの目線で捉え直すのは、とても新鮮で楽しい経験だった。(といいつつ、僕自身は場所を提供したくらいでほとんど何もしていないのだけど)

この活動から、2010年には「みつばち百花」というNPOが生まれた。この団体には引き続き、中村教授が理事として参加し、その活動内容や方針にはしっかりとした科学的な裏付けがあった。

アインシュタインの予言?

折しも当時は、「ネオニコチノイド系農薬の影響で世界中のミツバチが激減している」というストーリーが、確定的な事実のように報道され、僕自身も大した根拠もなく「みんなそう言っているのだから、たぶんそうなんだろう」と考えていた。

みつばちの大量死をおどろおどろしい演出で悲壮に描いた『ミツバチからのメッセージ』というドキュメンタリー映画も周囲で話題となり、そこかしこで自主上映会のお知らせが飛び交っていた。

言い訳がましいが、荒波のような忙しさの日々、通りすがる人々から「間宮くん、知ってる? いまミツバチが大変なことになってるんだよ!」とステレオで聞かされると、「そうなんですか! 大変ですね!」と返すしかなかった。あとで調べる余力も、情報を読み解く科学的素養もなく、ひとまずは言われるままに受け止めておくことしかできなかったのだ。

みるみるうちに、みつばちは農薬被害の象徴として悲劇的に祭り上げられ、「みつばちが絶滅すれば人類も4年後に絶滅する」とかいうアインシュタインの言葉(?)が、なぜか枕詞として、セットで語られることが多かった。(アインシュタインの言葉については、無印良品までも堂々と紹介していたが、どこにも出典がなく、結局、本人の発言だったかどうかは相当疑わしいみたいだ)

ネオ・ニコチン・ノイド

そういう物言いに、何かモヤっとしたものを感じる瞬間はあっても、「それは少し違うのでは?」という言葉にたどり着くための体力は残っていなかった。怖いもので、日々畳みかけられているうちに「これだけみんな言うのだから」と違和感ごとかき消されてしまうのだ。

ちなみに、ジャーナリストの手島奈緒さんは、ネオニコチノイド系農薬が開発当時は「クロロニコチニル系」と呼ばれていたことに触れ、『なぜ「ネオニコ」だけが糾弾されるのか。おそらくこのキャッチーな名前が一般人に覚えやすかったから』と語っている。

確かに、誰でも知っているニコチンという「毒」のイメージに「ネオ」「ノイド」というSFチックな修飾が加わると、いかにも冷徹でターミネーター的な悪役を連想させるし、「イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム(※EUで2013年から使用規制された個別の成分名)」よりもずっと覚えやすい。

冗談みたいだが、こういうわかりやすさからくる紋切り型なイメージはあながち馬鹿にできないのかもしれない。

自己満足の「共生」

そんななか、「みつばち百花」との出会いは、僕が抱いていた安易なみつばち像を次々と覆していったので、正直に言えば当初はだいぶ困惑した。

たとえば当時、都心のビル屋上でみつばちを飼うプロジェクトが話題になっていた。みつばちとの共生をうたい、採れた蜜を「ご当地はちみつ」として周辺のショップや飲食店で販売したり、地域の子供たちがみつばちと触れ合ったりと、いいことずくめのように思えたし、メディアに華やかに露出する様子は、いかにも輝いて見えた。

だが、「みつばち百花」はそんなキラキラのイメージを「人間の自己満足。みつばちがかわいそう」とバッサリ斬り捨てた。

本来ならみつばちは、できるだけ蜜源の豊富な環境に巣を作り、最小のエネルギーで効率よく蜜や花粉を集めたい。それをどう考えても蜜源が乏しい都市部の屋上に置かれ、ビル風にさらされながら長い距離を飛び回り、という過酷な環境下で生きていかなければならない。

なんらかの必要に迫られてのことならまだしも、あたかもエコでソーシャルな「共生」のように演出するのは、みつばちに対してあまりにもアンフェアで身勝手ではないか、と。

大事なのは、みつばちの目線で考えることだと教わった。

反対するより、花を植えよう

同様に、ネオニコチノイド系農薬とみつばちの関わりについても、大きく考え方が変化した。少なくとも、ネオニコだけを悪者にして、それさえ排除すればみつばちが守れるといった単純すぎる考え方からは、だいぶ距離を置くことができるようになった。

みつばちが農薬に曝露するのは、もちろん良いことではないし、減らしていかなければいけない。だがそもそも、なぜみつばちが農薬に曝露する機会が増えているのか。都市農村を問わず、社会全体で開発が進むことによって、密源植物そのものが減少すれば、みつばちはその分だけ農地に依存することになり、農薬と接触する回数も増えざるを得ない。

痛ましい交通事故が起きたからといってこの世からすぐに自動車をなくそう、というわけにはいかないように、明日からネオニコチノイド系農薬をなくすことはできない。

花粉源・蜜源植物を増やすことで、みつばちと人が共存できる環境を作っていこう、という「みつばち百花」のコンセプトは、ここから生まれた。

本当の関心は?

みつばちの目線に立って、できることから始めようという考え方は、それまで身近に接してきた環境運動のアプローチとは似て非なるもので、僕にとっては今に連なるひとつの指針になった。

ふと、ひとつの疑問が頭をもたげる。

みつばちを守れと訴える人々は、なぜもっと、みつばち減少の複合的な要因について触れたり、多角的なアプローチからの解決策を提案しないのだろう。

農薬に反対することと、それ以外の解決策を同時並行で実現していくことは、本来なにも矛盾しないはずなのに、ネオニコ反対を叫んでいた人が「みつばち百花」の活動に関心を示したことは、僕の知る限り、一度もなかった。

はたして彼らが本当に関心があったのは、みつばちなのだろうか?

※「みつばち百花」は、現在活動を縮小しているが、任意団体として継続しており、ウェブサイトではみつばちの減少要因の分析等も読むことができる。

筆者

間宮俊賢

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