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経営論で語るIPM−IPMの幅を広げる生物資材その開発と普及

食と農のウワサ

生物農薬について分かりやすく説明されている『天敵戦争への誘い』の著者で、アリスタライフサイエンスの和田哲夫氏。もともと農薬の専門家であった和田氏が考える生物資材やIPMについて、技術開発の現状や今後の展望について編集長が聞いた。
アリスタライフサイエンス(株)バイオソリューション部 部長
和田哲夫

web版『農業経営者』2005年7月1日 特集「経営論で語るIPM」から転載(一部再編集)
※記事にある情報は、掲載された2005年時点のものになります

「IPM=反農薬」ではない!

 まず、和田さんがお考えになっているIPM(総合的病害虫管理)とは何か、お話いただけませんか。

和田 国際的にIPMの定義は明文化されていますが、私なりに一言でいえば「使うことのできるすべての防除手段を使う」ことです。

 というと?

和田 私の場合、IPMの中でも害虫防除が専門ですが、たとえば、従来の化学農薬による化学的防除、虫よけネットなどの物理的防除、天敵昆虫や微生物などを使う生物的防除、種子を選択する耕種的防除、それらをすべて使うという考え方です。

日本でも、以前からIPM的なことは、一部でやってきているんですよ。たとえば、病害虫の発生予測なども、IPMのひとつだと思います。ただ、戦後に発明された化学農薬が、ここ50年以上、病害虫防除のメインになりすぎた。日本に限らず世界的にそうだったわけで、その反省に立って、アメリカのカリフォルニア州で1960年頃にIPMが始まりました。それが、ヨーロッパの施設園芸にも広がって、1980年代にはイギリス、オランダ、アメリカがIPMの中心になっていったんです。

 化学農薬でも解決できるのに、あえて生物農薬を使う意味はどこにあるのでしょうか。

和田 簡単にいえば、ひとつのものに偏るのはよくないということです。偏食しないで肉だけでなく野菜も食べようとか、薬ばかり飲まず、病気にならないように体力をつけようとか、そういう考え方に似ています。

ただ、化学農薬に頼ってきたひとが生物農薬を使うときには、頭の切り替えが必要です。農薬と同じ使い方をしたら、効かないんですよ。効果が出るまで1ヶ月くらいかかることもざらですから、発生初期から使わないと意味がないし、効き目が見えるまで若干の忍耐が必要です。

そのかわり、一度効果が出始めると、実に長い間効き目が持続します。3月に放した天敵が7月までいたという話もときどき聞くくらいです。

化学農薬のように害虫に耐性ができるということもありません。

 和田さんは、オランダで天敵防除を使ったIPMを見てショックを受けたそうですが。

和田 アメリカに駐在していたときに、天敵に将来性があるかどうか調査してくれと言われたのがきっかけです。私はそれまで、化学農薬一筋でしたから、「天敵なんて」と思っていたんですが、とにかく先進地といわれていたカナダ、イギリス、オランダ、カリフォルニア州の現場を1980年代に全部回ったんです。

なかでも当時、天敵農薬の製品完成度が高かったのがオランダでした。現場を見せてもらって、「もう10年近く天敵昆虫だけで害虫防除をしている」と農家が話すのを聞いて、ホントかいなと。化学農薬がなければ作物が栽培できないというのが、ひとつのドグマだったじゃないですか。それが覆されたんですからショックでしたね。そこで“農薬党”から転向したわけです(笑)。

 ただ、日本ではどうもIPMというのは化学農薬を否定する、有機農業と結びつけるイメージが強くありませんか。

和田 日本では「IPM=反農薬」というイメージが強いんですよ。これは誤解なんですけれどね。それで農薬業界は嫌気がさしている面もあるんです。実際、15年ほど前、日本の技術者たちがフィリピン、インドネシアなど発展途上国への農業技術援助でIPMをやろうという動きがあって、そのとき、土着の天敵を保護するためには有機りん剤など殺虫剤を使ったらいけないと、有機りん剤を輸入禁止にしたことがあるんです。これは、私から言わせると“古典的IPM”。

 古典的ですか。

和田 私たちは“モダンIPM”(笑)と、勝手に自称しています。生物防除ばかりやっているひとたちの中には、IPMも、まず生物的防除、物理的防除、耕種的防除とやって、それでもダメなら最後の方法が化学的防除だという主張もありますが、私からすれば、優先順位はどうでもいい。ただ、昔はIPMができるような生物農薬がなかったけれど、今は日本でも30種類くらいの生物資材が販売されるようになって、IPMの中に組み込めるようになっただけの話だと思っています。

生物農薬は経営面でもメリットがある

 現在、日本ではどれくらいIPMという考え方は広がっているのでしょうか。

和田 最初の生物農薬が登録されてから10年たったので、始まったばかりとは、もう言えなくなりましたね。私は海外で、すでに成功している現場を見ていたので、日本の施設栽培でもできるという自信がありました。あとは、各地の農協や普及所が理解してくれるかどうかでしたが、最初はなかなか理解が進まなかった。今も、月に何回も、JAや普及所主催の説明会に行って話しています。最近は取り組みが増えてきましたね。

私が今、主に技術指導で関わっているのは、カゴメさんの世羅農園(広島県)や、高知、宮崎各県の施設園芸産地ですね。福岡県でも、イチゴのあまおうでは、天敵農薬のシェアがかなり高くなっています。施設栽培で生物農薬がマジョリティになるのは、どれくらいのスピードで変わるかはわかりませんが、もう時間の問題だと思っています。

農水省も、IPMを今年から水稲でやろうという方向になっていますが、国が動かなくても、そのほうがトクだと思えばみんなやるでしょう。実際、IPMのほうがコスト的にも労力としても有利なんです。

 経営面で、農薬を使うよりもメリットがあると?

和田 農薬散布回数、農薬の値段、その散布に使う時間、それによる効果の持続など、さまざまな要素を総合的に考えると、どう考えてもIPMをやるほうが農家は有利なんです。薬剤のコストだけでなく、農薬散布の労働コストにも大きな差があります。生物農薬なら、ボトルの蓋を空けてハウスのまん中に置くか、カードを枝にぶら下げるだけですから。

 IPMは、薬剤や天敵の単品で話がすむわけではないので、コンサルティングという側面も強いと思います。自社製品だけでなく、他社の薬剤も含めて推奨するケースも出てくる。その意味では従来の農薬企業の発想を変えなければいけないでしょうね。

和田 確かにそうですね。今、コラボレート・プログラムというのを作っているんですよ。つまり、化学農薬も含めた、作物ごとの防除暦のようなものです。たとえば、殺虫剤のオルトランを散布して1カ月以上おけば天敵農薬も使えるし、リンゴならキャプタンと生物農薬のバイオセーフを組み合わせられる。そのプログラムには、他社の使いやすい薬剤も入れています。最近は他社のほうから、IPMでコラボレートしたいという問い合わせが急に多くなって、僕自身、驚いているんです。

 量販店や外食企業などから、IPMに対して営業的な協力体制の申し出などはありませんか?

和田 もちろんありますが、それは永遠の課題なんです。生物防除をやれば、野菜が高く売れるのではないかという幻想を持っているケースもあるけれど、それを目的にしてしまうと、まちがえてしまう。それと、私たちも、職業柄、プロモーションは得意ではないので、今までは雑誌広告くらいしか考えてきませんでした。

ただ、価格は上がらなくても、少なくとも、消費者がAとBのどちらの野菜を選ぶかというときの優先順位は上がるのではないかと思います。実際に、海外では、生物農薬をマーケティングに利用して成功した例はあるんです。1990年代のオランダがそうですが、当時、ヨーロッパの青果市場ではオランダとスペインの市場争いが激しくて、とくに 北ヨーロッパのマーケットはスペインに席巻された。そこで、オランダ政府と輸出商社は、ヨーロッパ各国のスーパーマーケットチェーンに対して、オランダでは9割以上のハウスで天敵による害虫防除が行われているとキャンペーンをはったんです。その結果、オランダ産のほうがスペイン産のトマトやパプリカより高くなり、天敵利用ができなければスペイン産は扱わないというスーパーも現れた。

 その意味では農業者にとって、販売面でもメリットにつながる可能性がありますよね。僕は、農産物ほど幻想性の高い商品はないと思っているんです。おばあちゃんが作れば、どういう作り方をしているか知らなくても安心感が高い。嘘やダマシはいけませんが、その幻想がお客さんの満足につながっている。それはそれでお客さんの満足に応えることです。その意味では、天敵農薬は武器になりますよね。

生物農薬を使いこなせれば 今まで見えなかったものが見える

 生物農薬がどんなものなのか、少し伺いたいのですが、たとえば害虫が少ないところでは天敵は使いやすいんですか。それともたくさんいたほうが効果が見えるのですか。

和田 個別の状況を聞かなければ、はっきり判断はできませんが、基本的に、害虫の密度が低ければ、天敵の効果も上がりやすくなります。害虫の密度が高くなれば、失敗する確率は高くなります。人間界の戦争でも、戦線が拡大すれば、あちこちに部隊を振り分けるのは難しいじゃないですか。しかも、害虫は兵隊とちがって自己増殖しますから、大軍になるほど兵力もどんどんアップしていく。だから僕は、戦線が拡大して相手の大軍が押し寄せる前に「害虫の発生初期から使い始めてください」とお経のように繰り返しています。ただ、この発生初期がなかなかわかりにくいという問題もあります。

 そこは、観察力の問題ですよね。鳥獣害の防除にたけている人も、鳥獣の生態をよくご存知です。その意味で、IPMを導入することで農業者の観察力も上がるでしょうね。和田さんが天敵の研究を始めて気づいたことはありますか?

和田 いろいろありますね。たとえば、僕は園芸が好きで風蘭やバラ、野菜などを育てているのですが、化学農薬をやっていた頃はアブラムシやヨトウムシなど、害虫しか目に入らなかったんです。それが、生物農薬の研究を始めてから、ある日、それまで葉の上のゴミにしか見えていなかったものが、アブラムシの天敵、アブラバチが作るマミー(アブラムシの体内に入ってアブラムシが角質化した状態)だったり、アブラムシを食べるショクガタマガエの幼虫だったりするのに気づいたんです。それまで目に見えなかったことが目に見えてくるんですよね。海外のキャベツ畑にいってもそれまで見えなかった生物たちの姿がいろいろと見えてきましたね。

 最後に、和田さんの勤めるアリスタライフサイエンスでは、現在、どれくらい生物農薬を開発なさっているのですか?

和田 天敵昆虫や微生物を合わせて20種類以上の天敵殺虫剤や殺菌剤を製品化しています。単なる農薬販売会社ではなく、安易に海外の昆虫を持ってこないで、国産で基礎的な製品を開発するパイオニア的な仕事を手がけているのがアリスタだと自負しているんですけれどね。今も、微生物殺虫剤や微生物殺菌剤などIPMの素材になるような新製品を5?6種類は開発中です。トマトの受粉に利用されているマルハナバチにおいても国産種のクロマルハナバチの生産に成功して今後大きく利用されそうな状況です。毎年、少しずつ新しいものが開発されていきますよ。
(まとめ:榊田みどり)

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