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第3回 残留農薬の規制は万全か【農薬について知ろう】
農作物の安全性の面から「残留農薬」を気にする人が増えています。最近では、小麦粉やパンなどの小麦製品から残留農薬が検出されたことが話題になりました。スーパーマーケットには化学合成農薬を使わない、いわゆる有機(オーガニック)栽培の野菜も並びます。ひょっとしたら農薬は必要ないとすら考える人もいるのかもしれません。そこで、農薬が気になる人の疑問を解決すべく、残留農薬を中心に、農薬の使用目的や安全性、検出法などについて、サイエンスライターの佐藤成美がシリーズで解説していきます。
残留農薬とは作物に含まれる農薬のこと
残留農薬とは、作物や食品に含まれる農薬のことです。使用した化学合成農薬は収穫するまでに分解されたり、雨で流されたりするので、そのまま農作物に残るわけではありません。それでも、ごく微量が作物や土壌などに残ることもあれば、農業排水とともに川や湖に流れ込んでいる可能性があります。
前回述べたように、農薬取締法では、残留農薬が人や環境に影響を与えないように使用基準が定められています。その使用法を守れば、収穫した作物が残留基準を超えることはありません。また、農薬を使わずに栽培したからといって、作物に農薬が残留していないとは限りません。近くの畑で使った化学合成農薬が飛んできたり、流れ込んできたりする可能性があるからです。このような農薬飛散をドリフトといいます。
そればかりではありません。農薬といっても、さまざまな種類の化学物質があり、その中には、家畜に使われる抗菌剤(抗生物質)、家庭で使う殺虫剤、ペットに使うダニ除けなどにも農薬と同じ、あるいは類似成分が含まれています。家庭用の殺虫剤などは農薬には分類されませんが、それらの農薬・農薬類似成分が食品や環境中に残留している可能性があります。
流通段階は食品衛生法で規制
農薬取締法により生産段階でどれだけ農薬の使用法を規制しても、農薬の成分が残留している可能性があり、その作物や食品が完全に安全とはいいきれません。そのリスクを排して安全性を担保するために、流通時の作物や食品については、食品衛生法によって農薬の残留基準が決められています。また、環境基本法によって環境中の残留農薬基準についても定められています。
食品衛生法第11条では、国内産、輸入品を問わず、農作物や食品への農薬(飼料添加物や動物用の医薬品も含む)の残留基準が定められており、その基準を超えていたら輸入や加工、使用、調理、保存が禁止されています。これがポジティブリスト制度です。残留基準とは、食品に残留する農薬などの限度の値を定め、これを超える食品は市場に流通しないように規制するためのものなのです。
残留農薬を管理するために、国内で流通する農作物については地方自治体の食品衛生監視員が抜き取り検査をしています。さらに、輸入農作物や食品については、港や空港にある検疫所で検査をしています。基準値を超えたものがみつかれば、廃棄されたり、回収されたりします。
ポジティブリスト制度で未登録農薬も規制
日本は多くの食品を輸入しています。発展途上国の中には、経済性や有効性の点から、すでに先進国では使用を禁止されている農薬を使用している場合があれば、各国の地域特性から害虫や雑草などの種類が日本と異なるため、日本の規制にない農薬が使われている場合もあります。
2002年に、ホウレンソウなど輸入農産物に基準値を超える農薬や日本で認められていない農薬が検出されるなど残留農薬が問題になりました。この問題により、農薬取締法が改正され、農薬の使用基準が遵守から義務へと強化されました。さらに食品衛生法が改正され、2006年にポジティブリスト制度が導入されました。
ポジティブリスト制度では、約800種類の農薬に暫定基準が設定され、登録がないなど残留基準がないものは、一律に0.01ppmという基準が採用されています。ppmは、濃度や割合を示す単位で100万分の1を表します。0.01ppmは、食品1㎏に0.1mgの微量の農薬が含まれることになります。
ポジティブリスト制度導入前は、283種の農薬などに残留基準が定められており、それ以外の基準のないものについての流通は規制されていませんでした。そのため、食品から残留基準が設定されていない農薬が検出されても販売を禁止できなかったのです。
制度導入後は、すべての農薬に残留基準が定められ、その基準値を超えた食品の販売などが原則禁止されました。国内のみならず外国で使用されている農薬や過去に使用された農薬などすべての農薬が規制対象になったわけです。そこで、暫定基準のリストにない農薬でも、0.1ppm以上検出されれば、販売は禁止されます。なお、暫定基準は定期的に見直しがなされています。
筆者佐藤成美(サイエンスライター) |