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第9回「地元産か有機か」のジレンマ【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

間宮さんがオーガニックカフェに勤めていたころの話です。地域の仲間から地場野菜を使ってくれないかと頼まれました。それは、有機農法ではなく、慣行農法のものでした。その際のジレンマとそれから慣行農法の地場野菜を実際に取り入れたことでの変化を振り返ります。


もし、オーガニックカフェを名乗る飲食店が慣行農法の地場野菜を使っていたら、どんな反応があるだろうか。

騙された、裏切られたと感じる人がいるかもしれない。
同業者なら、虚偽表示であり倫理的に許されないと考えるかもしれない。
あるいは大らかな人なら、フードマイレージが下がって環境負荷も下がるのでOK、と広い心で受け止めてくれるかもしれない。

その点、僕が店長を務めていた国分寺の店は、創業時のマニフェストとして「オーガニック」と並んで「地産地消のスローフード」も掲げており、理屈の上では両者は等価値とも言える。

とはいえ、周囲から「オーガニックカフェ」「自然食カフェ」と認識され、それをことさら否定もしてこなかった以上、「スローフードだから慣行野菜でもOK」というのは言い訳がましく、なかなか苦しいものがある。

名古屋大学教授の香坂玲氏によると、欧州では「地元産か有機か」どちらを選ぶかというジレンマを感じている消費者層が存在するという。
オーガニックとローカルの両方を求めつつ、どちらかのみ扱われているとき、その人が本当は何に重きを置いているのか、価値観やバイアスが浮き彫りになる。

地産地消ならなんでもいいのか

古い話で恐縮だが、2012年ごろ、地域の仲間から「地場野菜グルメキャンペーン」のようなものに誘われたことがあった。今ではあまり珍しくもないが、期間中に市内の参加店舗が一斉に地場野菜を使ったオリジナルメニューを提供するというものだ。何かの補助金を使ったぽっと出の企画というわけでもなく、むしろ以前から草の根で地域のマップ作りなどをしてきた人々の手によるもので、応援したい気持ちはあったのだが、結局断ってしまった。

国分寺は元々、東京でも多く農地を残しているエリアで、少し散歩するだけでいくつもの直売所を回ることができる、今思えばとても豊かな地域だ。にも関わらず、当時、店としては地域の農家と何も接点がなかった。

オーガニックを掲げていたことがハードルになって、こちらから接触する機会もなく、のちに聞いたところでは、やはり農家の側からも存在は知りながらも近寄りがたく感じていたという。

当時の僕はすでに「オーガニックか農薬か」という単純な二元論には違和感を持っていた。でも、だからこそ顔も知らない農家の野菜を「地産地消=いいこと」と頼まれるがままに取り入れるのは「無農薬=いいこと」という思考停止と本質的には何も変わらない、と考えた。それでは有機JASマークさえついていれば何でもいい、というのと同じ話になってしまう。

初めて出会った慣行農家

だがその後、変化が起きた。同じく地域の草の根グループが手弁当で集い、国分寺の地域通貨を作ろうということになり、僕も参加した。周辺の商店やカフェ、そのスタッフ、住民が夜な夜な集い、あれこれ妄想をふくらませて語り合い、食事を囲むうちに、お互いの人柄もわかり、すっかり打ち解けていった。そのなかには農家の方もいて、僕は恥ずかしながらそこで初めて、慣行農業と接点を持つことができた。

それまで一匹狼的な有機農家との付き合いがほとんどだった僕にとっては、聞くこと全てが新鮮だった。栽培方法や農薬についての考え方、農協のこと、また周辺がすぐ住宅や通学路に面している都市農業ならではの事情も含めて、いかに工夫して農薬以外の様々な防除をおこない、農薬・化学肥料自体も最小限の使用に抑えているか。

(AGRI FACTを読まれている方には説明するまでもないが、そもそも基準を守って農薬を適切に使用している限り、食べる人の健康に影響を及ぼすような害はまず考えられない)

そういう努力や試行錯誤の積み重ね、自分の子供に胸を張れる美味しく安全な野菜を作りたいという思い、それらを何一つ知ることもなく、単にオーガニックではないからというだけの理由で、すぐ近くの熱意ある農家を全く取引の選択肢から外していたことが、猛烈に恥ずかしくなった。

地場野菜グルメの成功

お互いの顔がしっかり見えた以上、「地場野菜グルメキャンペーン」を断る理由はもはやなかった。もちろん、飲んで仲良くなれば基準はうやむやでOKという話ではなく、オーガニックカフェとして目されている以上はお客様への説明責任がある。既存の取引先もある。いきなり全面的に、今日から地場野菜で、とはならない。

まずはキャンペーン中、スタッフが自分たちの言葉で「有機栽培ではないが、地場の新鮮な旬野菜であること」「顔の見えている農家が十分に安全に配慮して作っていること」を語れる範囲からになる。

お客様の反応が心配だったが、これまでも過剰に有機を売りにするような広報は抑制してきた積み重ねが幸いしたのか、素直に喜んで楽しんでくださる方ばかりだった。

店の変化

それを契機に、スタッフでの農場見学や軽いお手伝いもさせていただくなど、少しずつ交流を深めていった。定休日にパッと自転車で出かけていける距離の近さも魅力的だった。逆に農家さんが子供たちを連れて、家族で食事に来てくれることもあり、「お父さんの野菜だぞ」と誇らしげに話している様子は微笑ましく嬉しい光景だった。それもオーガニックだけを打ち出していたころでは考えられないことだった。

こちらが思う以上に農家の方は、自分の農産物が美味しく調理され、華やかに盛り付けられて提供されることに喜びを感じてくれる。そのことを若いスタッフと共有できたのも大きな経験だった。

その時期を前後して、地域通貨の仲間たちもカフェを気軽に利用してくれることがずいぶん増えた。オーガニックカフェである以前に、等身大の仲間として見てもらえるようになったことは店の空気にも影響を与え、店自体が地域にとけこむ契機となり、今に至る大きな流れを形作った。

二択ではなく歩み寄りを

そうやって地域のなかであたたかい関係性ができてくると、「オーガニックか否か」という価値観はだいぶ相対化され、様々な判断軸のひとつに過ぎないということが身に染みて理解できるようになった。

少しでも安全で環境に良いものを作り、子供たちに暮らしやすい地域を残したい。そういう同じ未来を描いている相手を、農薬を使っているからというだけでコミュニケーションを閉ざしてしまったら、その先には何も生まれない。上から目線のジャッジではなく、お互いが何を大切にしているかを知り、共感しあうことができれば、歩み寄りが生まれる。

「地産地消かオーガニックか?」「農薬使用か無農薬か?」と二者択一を迫るパワーゲームに参加する必要はない。不安につけこみ、恐怖を煽り、立て方を間違った問いへの答えを強く迫ってくる圧力からは、まず逃げよう。借り物の問いに乗った先に、どこまでいっても自分の言葉は見つからない。

(なお後日談として、地場野菜グルメキャンペーンから生まれた地産地消の流れは「こくベジプロジェクト」という国分寺市の事業と融合し、今では市内の数多くの飲食店で日常的に地場野菜を楽しめるようになっている)

筆者

間宮俊賢

 

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