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第6回 残留農薬基準はどうやって設定しているのか【農薬について知ろう】
農薬の安全性が気になる人の不安を解消すべく、残留農薬を中心に、農薬の使用目的や安全性、検出法などについて、サイエンスライターの佐藤成美がシリーズで解説していくこの連載。第6回では、残留農薬基準の設定方法を解説します。
残留基準を設定する
残留基準の設定は、日本人1人あたりの各食品の摂取量から推定される農薬摂取量がADIやARfDを超えないことを確認したうえで設定されるしくみになっています。食品安全員会が設定するADI(一日許容摂取量)やARfD(急性参照用量)は安全性の判断基準になっているというわけです。
長期摂取の影響を判断するためには、各食品からの農薬の摂取量を合計して、その値が、日本人の1日許容摂取量の80%を超えないことを確認します。ADIは体重1㎏あたりの1日許容摂取量で、日本人の平均体重は53.3㎏なのでADI×53.3が日本人の一日許容摂取量になります。短期摂取の影響を判断するためには、短期曝露評価登録がある作物からの農薬の摂取量がARfDを超えないことを確認します。こちらは作物ごとの評価です。
農薬の摂取量をどうやって調べるの?
厚生労働省では、市場に出回っている農作物や輸入農作物のモニタリング検査を行い、食品中の残留農薬を調査しています。そして、実際に農薬をどの程度摂取しているかを把握するため、国民健康栄養調査による食品摂取量にもとづき、マーケットバスケット方式で農薬1日摂取量調査を行っています。
マーケットバスケット方式では、スーパーマーケットなどで売られている食品を購入して、その中に含まれている農薬の量を測り、その結果に食品摂取量をかけて農薬の摂取量を推定するというものです。摂取量がわかれば、この摂取量に残留している農薬の量をかけあわせることで農薬の摂取量を推定することができるのです。
長期摂取(長期曝露)と短期摂取(短期曝露)では、異なる食品の摂取量を用いて評価します。長期摂取を考える場合は、残留試験結果による残留濃度の中央値に1日平均摂取量をかけます。短期摂取を考える場合は、残留濃度の最大値または残留基準値に1日最大摂取量をかけます。短期摂取は、最悪の事態を想定しているため、摂取量や残留濃度も最大の値を用います。
農薬、作物ごとに基準がある
残留農薬の基準の設定についてもう少し詳しく見てみましょう。まず、残留基準は使用法を守り、適正に農薬を使用した場合の残留試験の結果にもとづいて設定されています。しかし、農薬を同じように使用していても、品種や気候、栽培条件によって残留量がばらつきます。そこで、使用法を守っていれば、基準値を超えないように、基準値は実測値よりも幅を持たせて設定してあります。
また、農薬ごと、食品ごとに基準が設けられており、すべての農作物に基準が設けられているわけではありません。農薬の種類によって毒性や使用量は異なりますし、同じ農薬でも作物によって使用量が異なり、作物によってはその農薬が使用されないこともあるからです。基準が設けられていない作物は、一律基準(0.01ppm)を適用します。設定されている残留基準は、農薬が残留する食品を長期間に摂取しても、高濃度の農薬が残留した食品を短期間に大量摂取しても人の健康に悪影響を及ぼすおそれのないことを確認して設定されています。これは、一般的な食生活を送っていれば、まったく心配ないことを意味します。
農薬が適正な使用法にもとづいて使われていれば、残留基準をこえることはありません。ですからもし、作物から残留基準以上の農薬が検出されれば、その作物は正しく農薬が使用されていないことになります。
残留基準は年ごとに漸次見直しされていて、変更されることもあります。基準値が変更前より高くなっても低くなっても、いずれもADIの80%以内に収まることとARfDを超えないことが確認されています。基準が緩和されたのではないかと誤解されることがありますが、ADIやAFfDの範囲内で内訳が変わっただけの話なので、心配する必要はありません。
筆者佐藤成美(サイエンスライター) |