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Part2 商業生産の実現に向けて-日本で遺伝子組換え作物を栽培するにはどうすればよいか?-その3【遺伝子組換え作物の生産とその未来 】

特集

栽培を始めるにあたり考えなければいけないこと

①栽培する作物

最初に考えなければいけないのは、何を栽培するかである。上述のとおり、日本で認可を取っているGM作物と農薬登録のことを考えると、害虫抵抗性トウモロコシが一番の候補であろう。一口にトウモロコシといっても、飼料用のデントコーンと食用のスイートコーンがあり、どちらを栽培するかは、後述するように、栽培する場所によると考えられる。

種子をどう入手するかが次の問題である。GM作物の種子は開発企業の合意がないと入手できない。合意を取って輸入する必要があり、開発企との話し合いが求められる。

②栽培を行う地域の生産者や消費者へのメリット

次に考えなければいけないのは、栽培するGM作物が地元の生産者や消費者にとってメリットがあるのかということである。害虫抵抗性トウモロコシの場合、生産者にとっては、虫害の減少による収穫量の増加、殺虫剤散布を減らせることからコストの削減、かつ、散布者の殺虫剤への暴露の減少が考えられる。また、消費者にとってのメリットとしては、殺虫剤の使用をなくす、あるいは、減少できることにより、無農薬、減農薬の恩恵に預かれることであろう。実際、害虫抵抗性トウモロコシの圃場試験を見た消費者は、殺虫剤を散布したにも関わらず、虫に食われている従来のトウモロコシの隣に、殺虫剤を散布していないのにまったく害虫の被害のない害虫抵抗性トウモロコシを見て、すばらしい技術だと驚き、これなら受け入れられるといった意見も出ていた。このようなメリットは、飼料用のデントコーンでも十分見られるが、私たちが食べるスイートコーンではより顕著である。

過去の栽培の例を見ると、上記に加え、地域へのメリットを考える必要がある。地域へのメリットとは、例えば、畜産が行われているところでの害虫抵抗性デントコーンの栽培で、国産飼料の普及につなげていくとか、害虫抵抗性スイートコーンで無農薬スイートコーン生産地を形成していくとかが考えられる。あるいは、津波の被害を受けた地域で、害虫抵抗性デントコーンを栽培し、津波を受けた農地の復活と国産飼料の基地を作るといったことも考えられる。栽培を行うにあたって、地元の合意が必要であり、そのためにはGM作物の栽培がもたらす地元へのメリットを訴える必要がある。

③交雑・風評被害への対応

交雑防止に関して、農林水産省関係の国立研究開発法人(研究機関)では、GMトウモロコシの場合、従来のトウモロコシとの交雑防止のため、600mの隔離距離を取ることとしている。先ほどの北海道の条例では、これより厳しく1200mの隔離距離を取るよう規定している。同様に条例や指針などを持っている県では、トウモロコの隔離距離を600m、あるいは1200mとしている。要は、周辺にトウモロコシが栽培されていない地域、例えば、中山間地や離島などが候補地として考えられる。こうした距離での交雑防止以外に、近隣のトウモロコシの開花時期とずれるような時期に栽培するといった、時期的な交雑防止も考えられる。

風評被害は大変難しい問題であるが、先ほど述べたように、周辺でトウモロコシが栽培されていない地域であれば、交雑に関する風評被害の可能性は大幅に減らせると考えられる。ここでも。栽培が地元にもたらすメリットが決め手となるであろう。

④栽培計画の策定

以上のことを考慮して栽培計画を立てるのだが、これにはチームを組む必要があると考える。

まずは生産者。GM作物を栽培したいという強い要望が出てこなければ栽培はできない。バイオ作物懇話会は、会員の生産者が数百人と聞くが、皆さんがGM作物で生産性の向上を目指すという強い思いを持っていた。その強い思いこそが、2001年から3年間でカ所以上の試験栽培を生産者の圃場で行うことができた大きな要 因であった。しかしながら、代表の長友勝利さんが事故で亡くなり、リーダーを失って活動は休止となってしまった。この事例を見ても、生産者の強い要望がまず必要ということが分かる。地元の生産者の強い要望が、地元の他の生産者、消費者、行政、そしてさらに政治に伝わることによって、道が開けてくると考えられる。逆に言うと、地元生産者の強い要望なくして栽培への道は開けないということである。GM作物のメリットを見てみたいという強い要望を持った生産者グループを作ることがまずは必要である。

また、GM作物の栽培に理解を示す消費者を見つけ出し、チームに入ってもらうことも外せない。消費者の目線で栽培計画の策定に関わってもらうことも大事である。栽培を支援してくれる消費者が消費者の目線でいろいろと考えを出すことが、実現可能な計画作りに欠かせず、こうした消費者の言葉で栽培の必要性を訴えてもらうことも地元の理解を得るうえで重要である。

さらに、農業技術者・研究者をチームに取り込んでいくことである。技術的な観点から栽培計画作りの支援が期待できる。

もう一つ大事なのは、GM作物の栽培に理解を示すメディアの方々にチームに入ってもらうことである。この方々に栽培計画策定の話し合いに参加してもらい、計画進捗状況や栽培するGM作物の特徴やメリットなどの情報を広く地元の生産者や消費者に発信してもらう。そうすることで、栽培計画は透明性を持ち、信頼性が高まり、地元の理解に直結し、栽培の実現の可能性が高まると考えられる。

 

※『農業経営者』2022年11月号特集「日本でいよいよ始まるか! 遺伝子組換え作物の生産とその未来Part2 商業生産の実現に向けて」を転載

【遺伝子組換え作物の生産とその未来 】記事一覧

筆者

山根精一郎(株式会社アグリシーズ代表取締役社長)
1947年生まれ、東京都出身。東京大学理学部生物学科植物課程卒業、東京大学大学院農学部植物病理学博士課程修了。76年に日本モンサント(株)に入社し、その後、遺伝子組み換え技術の第一人者として第一線で活躍。02年に同社の代表取締役社長に就任。17年3月に同社を退職し、同年4月に(株)アグリシーズを設立。

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