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Vol.32 ローラ就農報道で世間を騒がす雑穀食事術「つぶつぶ」【不思議食品・観察記】

コラム・マンガ

科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、自己啓発セミナーや資格ビジネスも行う食事術「つぶつぶ」。雑穀を使った和製ヴィーガンとも言える食事術にネットの注目が集まったのは、タレント・ローラ氏の発信がきっかけでした。

2018年に、牛込柳町にあった「未来食つぶつぶカフェ」(現在は閉店)にて筆者撮影。「バナナ入りヒエクリームティラミス」(702円)と「玄米コーヒー」(594円)。かなりのお嬢様であるひとまわり年下の友人が「藁(わら)の味!」と力強く感想を語っていたが、彼女は藁を食べたことないと思う。

「未来食つぶつぶ」の正体

「食から日本人として目覚める」

農業デマ発信でおなじみの、オレンジ新興政党のキャッチだと言われても、違和感のない言葉です(須藤元気氏がコンタミした国民民主党もいずれそうなりそう)。でもこれ、発信元はオレンジ政党ではなく、「日本人のためのビーガン」を謡う「未来食つぶつぶ」による呼びかけです。ただし、つぶつぶ創設者の大谷ゆみこ氏(自称「つぶつぶグランマゆみこ」)は、2022年から参政党のアドバイザーとして参画しているので、参政党が「つぶつぶ」に導かれ、似たようなノリになった可能性は大いにあるでしょう。

ここで言う「つぶつぶ」とは、雑穀のこと。そして「未来食つぶつぶ」とは、大谷ゆみこ氏が開発した食哲学の名称です。公式HPによると、大谷氏が80年代から生命力を高める食を追求し、実践の成果として作り上げたと説明されています。

「世界の先住民の食生活、マクロビオティック、最先端の生理学、量子論、波動医学、デザインなどを織り交ぜてできた『雑穀と野菜が主役の新しいビーガン食スタイル』です。」

要は、スピリチュアル要素もたっぷりと盛り込んだ、和製ヴィーガンとでも思えばいいでしょうか。さらには単なる食事術ではなく、以前より女性の生き方を指南する自己啓発セミナーへも手を広げ、資格商法ビジネスに進出しています。この団体のセミナーを履修して認定資格を得ると、「つぶつぶマザー」を名乗った活動が許されるのです。つぶつぶマザーのひとりは「宗教でも妄想スピリチュアルでもなく、本当の生命のしくみ」とブログに書いていますが、自ら「本当の」と主張すると、かえってうさん臭く見えることを、お知らせしたい(公式が”本当の”を連呼するので、この講師の責任ではないのですが)。

雑穀とは、白米や小麦といった主食以外の穀物の総称(例:アワ、キビ、ヒエ、ソバ、ハトムギ、大麦、豆類、アマランサス、キヌアなど)。日本ではひえ餅などの郷土食にも利用されつつ、戦後からの自然食の歩みにも深く関わってきた食材です。その後、1980年代に生まれた「スーパーフード」(栄養価の高い食品)という言葉によって、一気におしゃれな雰囲気を纏うことにも成功。ハリウッドセレブたちに愛用され、世界的に消費が高まった経緯もあって、今では健康意識が特段高くなくとも、大戸屋の定食で見かけるほど身近な食材になったと言えるでしょう。
しかし「未来食つぶつぶ」は、そのような大衆的な次元にはいません。はるか遠い高みにいて、スピリチュアル×自己啓発、そして過剰とも言える健康効果を盛り込んだメソッドを送り出しています。

東中野の駅構内に置かれていた、つぶつぶの無料パンフレット(2025年5月入手)。表紙の「うるちアワのナゲット」にあしらわれたセリフ「「えっ!これが雑穀?」は、大豆ミートに通じる違和感を覚えてしまいました。「素晴らしい」ハズの雑穀そのものの風味を楽しまないのはなぜ……? それって結局、肉を求めているのでは…なんて思ってしまう。

ローラ氏のアレな発信で広く”見つかって”しまう

80年代から日本の自然食界隈やヴィーガン界で活動してきたつぶつぶが、令和ネット民の目にとまったのは、タレントのローラ氏がきっかけです。ローラ氏が農業に関わりはじめ、その指南役がこの「つぶつぶ」だったのです。もともとサステナブル意識の高いローラ氏でしたが、発信に「波動」や「氣」という漢字が登場すれば、スピリチュアルみが深まったな……と、世間がざわつくのも無理はありません。つぶつぶHPのセミナー紹介には、セミナーの受講によって、人間関係がよくなり運もアップ! たった1日でココロも体調も上向きに! ともあるので、なおさらです。

個人的にはローラ氏がどのような形で農業に関わろうが自由だとは思うものの、結果的に「農業デマ」連発のオレンジ政党とつながっていくわけですから、あちゃーな視線が集まってしまうのは仕方のないこと。残念な方向に、広く”見つかって”しまったのです。ローラ氏の力強く人生を模索する姿は多くの女性の支持を集めていたことと思いますが、これからは保守派にターゲットを絞るのでしょうか?

「栄養学を超えた食システム」「脱栄養学」「脱自然食」。壮大なキャッチを掲げる「つぶつぶ」とはどんなものかという好奇心から、筆者は2018年頃、当時牛込にあった「つぶつぶカフェ」を訪問(現在はセミナーの会場として利用されているよう)。その日フロアにいた店員の女性は、スリムで化粧っ気がなく、アースカラーの服を纏った、いかにもマクロビアンといった印象でした。

お約束の万能効果!?を謳うつぶつぶセミナー体験談

2020年に筆者が取材をした、つぶつぶセミナー受講者はこう語っていました。
「昔の日本人が食べていたものを食べようという流れから、現代食の危険や、現代の野菜がいかに栄養がないかという話が始まりました」
「つぶつぶ料理を実践すれば、冷え性や貧血、肌荒れ、アトピー・アレルギー、便秘、生理不順、不妊、肥満、痩せすぎ、早すぎる過度な老化が解消する……と。まるで万能薬のような説明です」

不安を煽る、脅し系ビジネスのようなノリですね。当時筆者が聞いたつぶつぶのポッドキャストでは「雑穀を食べると体が女性らしくなる」なる、不思議な言説があったのも思い出されます。
食は単なる好みだけでなく、国家政策や社会運動、経済構造と切り離せないので、単なる町のお料理教室から逸脱しても、不思議はありません。が、いろいろな過剰さを感じ、それがあのオレンジ新興政党と合体して世に不安をまき散らしていると考えると、憂鬱すぎ。さらにローラ氏の件では著名人もじわじわと取り込んでいく様が、テンプレかつ残念すぎました。

蛇足ですが、雑穀料理教室はアリだと思っています。もち麦や黒米はともかく、ヒエや粟はなかなか扱いが難しい食材なので、おいしく食べるにはコツがあるでしょうから。料理上手な友人は、夫の付き合いで出席した宗教団体のホームパーティに渾身の雑穀スイーツを持参したら、あまりの独特な味わいに、会話が徐々に尻すぼみになり、場がすっかり冷えきってしまったという体験談を話してくれました。だよね~と納得してしまう味ですよね、アレ(慣れの問題は大きいものの)。

 

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