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農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート4〉【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】
このシリーズがいつまで続くのか、僕も分かりません。
それほど、次から次へと農薬デマが生まれて拡散されています。
農薬を歪んだ価値観で見ないで!
ということで今回も、
「農薬に関するデマで打線組んでみた〈パート4〉」
と題して、農家の僕ナス男が農薬デマを紹介します!
1.(二)さっさと有機栽培25%にしろ!
「日本もみどりの食料システム戦略を導入しただろう!?」
「今すぐに農薬をやめろ! 有機栽培にさせろ!」
という声が上がっています。
しかし、有機栽培面積を25%にするという、みどりの食料システム戦略の内容を見ましたが……
現場の農業の課題とかけ離れていて、目標数値が実現不可能なレベルでツッコみどころ満載でした。
いきなり現状1%にも満たない有機栽培面積を25%まで引き上げることは不可能ですし、野菜の供給量は落ちるはず。
野菜の価格は爆上がりして、国内で混乱が起きるでしょう。
もう少し広い視野で、農業を語ってほしいです。
2.(遊)薬機法に引っかかるから言えないけど……
「薬機法に引っかかるから言えないけど、無農薬のこの商品は○○効果があって体にいいものよ!」
と、フォロワーがたくさんいるインフルエンサーが、自社のオーガニック商品を宣伝していました。
この売り方は薬機法に引っかかりそうなので、注意が必要です。
薬機法では、特定の病名や「○○に効果がある」などの虚偽誇張の広告を禁止しています。
そもそも、法律ギリギリの表現をしないと売れないような農産物は買わない方がいいです!
3.(右)江戸時代は無農薬で出来ていた!
「江戸時代は全ての野菜が無農薬で出来ていた! なぜ現代は農薬を使うんだ!」
なんていう極論をいう人もいます。
たしかに江戸時代では化学農薬はなかったでしょう。
しかし、今と400年前の時代では何もかもが違います。
● 江戸時代の人口は約3000万人で今より格段に少ない
● 寿命も江戸時代は平均40~50代とされており、今より格段に短い
● 国民の8割が農家だったけど、何度も飢饉があって庶民は飢えに苦しんでいた
今の科学技術の進歩を捨てて、この時代に戻れと主張するのでしょうか。
賛同する人はすごく少ないと思いますけど。
4.(三)化学式で表せる農薬は危険だ!
「化学式で表せるものは食べてはいけない」
という某マンガの1コマを根拠に、未だに農薬を危険視している信用している人もいます。
確かに農薬は化学物質で出来ていて、化学式で表すことができます。
しかし、化学式で表示されるのがヤバいのならば、水(H₂O)や酸素(O₂)や塩(NaCl)もヤバいということになってしまいます!
身の回りは化学式で表せるものばかりですが、それが危険というならば一体何を食べたらいいのでしょうか?
5.(一)ADIの基準値内でも危険!
「ADI=一日許容摂取量の基準値内でも危険だ!」
と僕に反論してきた人がいました。
厳しい基準といっても、100%の安全を保証するものではないですし、後から分かる事実もありますが……
ADIほどの厳しい基準すらも危険視するのであれば、日常生活に溢れている化学物質はとっくにアウトのはずです。
農薬よりも危険だとされているモノは、身近にたくさんありますよ?
まずはそちらを取り入れないようにされてはいかがでしょうか。
ADIの基準の説明はここでは長くなるのでAGRI FACTのサイトを参考にしていただければと思います。
参考
6.(捕)除草剤は雑草や土着生物を殺してしまう!
「除草剤は土を殺してしまう! いずれ作物が育たなくなる!」
と、除草剤に対しての批判の声は未だにあります。
確かに雑草を枯らしているので、生態系にはダメージを与えているでしょう。
しかし除草剤も当然分解されますので、土壌にダメージを与え続けるということではないです。
現に僕はハウス周りに除草剤を使ってますが、絶滅することなく雑草は生えてきてます(笑)
何度も除草しているはずのハウス周りの雑草にも虫が付きますし、ハウス内に飛び込まれたらすごく面倒です!
除草剤を批判するのであれば、代わりのアイディアを提示してください!
それでなければ、ぜひうちに草取りに来てください!
7.(左)水道水にも農薬に汚染される!
「日本の水道水は農薬に汚染されている!」
「水道水の農薬基準値も世界と比べてゆるゆるだ!」
というデマも、
使った農薬が川に流れ出て、そのまま水道水に混入するというような主張ですが……
読者の不安を煽っているだけで、農家としては虚しくなります。
AGRI FACTに詳しく検証した記事がありますので、詳しくはこちらを参考にしてください。
参考
水道事業の民営化の議論が活発になると必ず上がるデマですが、冷静に見ないといけないことです。
8.(中)無農薬がSDGsだ!
「農薬なんてSDGsに反している!時代遅れだ!」
と思う人もいるかもしれません。
しかし実際は逆で、農薬はSDGs(持続可能な開発目標)に寄与しています。
飢餓をなくすことや、効率よくたくさんの野菜を生産することにつながるからです。
そもそも農薬は適切に使用すれば安全ですし、環境負荷も少ないです。
化学肥料と同様に、農薬も先入観をなくして広い視野を持たないと、判断を間違います。
9.(投)100%安心安全でなければダメだ!
「100%の安心安全でないと危険だ!」
という極論を持っている人がいます。
よく安心と安全という言葉はセットで使われがちですが、分けて考えないといけません。
安心に関しては、人それぞれ基準が違うでしょう。
農薬を使用している慣行栽培の野菜を食べないのは個人の自由ですが、自分の安心基準を他人に押し付けてはいけません。
安全に関しては、どんな食べ物でも(たとえ無農薬有機栽培の野菜でも)ゼロリスクではないです。
100%の安全を求めたら何も食べられなくなってしまいますので、
リスクを許容できる範囲まで下げられていれば、安全だと判断するのが一般的な解釈です。
車や建物もそうですよね?
どれだけ厳しい検査をしても100%の安全はないけれど、許容できるくらいまでリスクを下げられていれば安全と言えるのです。
「あれも危険、これも危険!」
と怒り怯えて生活するほうが、よっぽど精神衛生上、「安心安全」ではないです。
まとめ
繰り返しになりますが、特定の方の意見だけを鵜呑みにして、自分が正しくて世界が間違っているというような考えにならないでください。
反対意見もちゃんと取り入れて、多角的に判断しないとカモにされます。
正しく知って正しく恐れましょう!
(編集部註:一部化学式を訂正いたしました。大変失礼いたしました。)
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