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Vol.2 グリホサート問題の背景 争点は不法行為法に基づく人身被害【日本・世界の「反グリホサート運動」の真相】
AGRI FACT執筆者でもある農業ジャーナリストの浅川芳裕氏が「日本・世界の反グリホサート運動の真相」と題し、オンライン講演を行った(2021年6月20日「食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021」第2回)。その中で、浅川氏はグリホサート問題の中心地IARC(国際がん研究機関)の内部と背後で蠢く人たちの腐敗ビジネスに鋭く言及し、食の不安を煽って農業や社会を歪める構造の正体を浮き彫りにした。今回は、Vol.2『グリホサート問題の背景 争点は不法行為法に基づく人身被害』をお届けする。(Vol.1はこちら)
発がん性がないのになぜ敗訴したのか
反グリホサート運動はIARCがグリホサートをグループ2Aに分類したことで、新たな段階に入りました。IARC分類の発表数日後に、米国の法律事務所がラウンドアップの暴露によってがんを発症したと疑われる原告の募集をかけ始めました。
裁判の結果がどうなっているのかというと、今まで判決の出たジョンソン裁判、ハードマン裁判、ピリオド裁判の3つでは、最初が320億円、次に88億円、最後は2200億円という高額賠償(にちに減額された)の判決が出ています。そして被告のバイエル社は約1兆円の和解金で12万5000件の訴訟を和解しようとしています。
ここで皆さん素朴な疑問があると思うんです。発がん性がないのになぜ裁判に負けるのか。私がこの問題の取材・調査を開始したのは、月刊『農業経営者』の編集長から、「ラウンドアップ裁判の意味」ならびに「アメリカ農業者の動向」について執筆してくれないかと依頼されたからです。実際に農業現場からも、敗訴でラウンドアップが使えなくなるんじゃないか、使った農産物は健康に悪いという噂が出ている。そういう農家からの風評被害の声が、農業者向けの雑誌に届いていたわけです。
私は報道やSNSに左右されず、偏見を排除して公正に判断するため、米国のラウンドアップ裁判の資料を米国の裁判所はネット上で公開しているので、その裁判資料を全部読みました。
まず日本の報道ではわからないのは、裁判資料の表紙に書いてある「何の白黒を判断するための裁判なのか」です。ラウンドアップ裁判資料の表紙には「不法行為法に基づく人身被害における損害賠償請求訴訟である」と明確に書いてあります。故意や過失によって他人の権利や利益を侵害することが不法行為で、人身被害とは文字通り、人が身体に被った被害のこと。つまり、この裁判では、被告に故意や過失の不法行為があって、それが人身被害を生じさせたと判断された場合に、被告は原告に損害賠償を払うことになります。
あくまで裁判の要諦は「被告に故意や過失があったかどうか」なのです。そして米国の裁判ですから故意や過失の有無は「陪審員の心証」で決まります。裁判は決して「発がん性の科学的評価の場ではない」という前提をご理解いただければと思います。
グリホサート問題の背景事実:「ラウンドアップ裁判」で何が争われているのか
裁判の原告と被告の主張を超要約すると、原告側の主張は、IARCがグリホサートの発がん性を認めており、カリフォニア州も同意見である。原告はラウンドアップを全身に浴びてがんになり、「余命はわずか。家族との別れも近い」。そのことは被告も知っていたのに、商品ラベルで発がん性を警告していなかった。つまり、被告には故意と過失がある。だから、原告に損害賠償しなければならない。
被告は原告ががんになった年、〇億ドルもぼろ儲けをしている。あなた方、陪審員は原告にがんを引き起こしたモンサント(現バイエル)に対し、いくらの懲罰的賠償を下すべきか。それは、悪質な彼らの(年間)利益額以上であるべきですというものです。原告側の弁護士はこうして巨額の賠償金額を陪審員に誘導したわけです。それで賠償額が大きくなりました。
被告側弁護士の主張は、米国はもちろん、世界の規制当局は発がん性がないという見識で一致している。つまり、がんとの科学的な因果関係はない。だから被告には過失も故意もなく、ゆえに賠償するいわれもない。この二つの論法の戦いになったのですが、これを聞いた陪審員がどう思うかです。
裁判録や裁判が始まる前の予審動画が一部公開されていて、何十時間も見ましたが、やはり原告の弁護士のほうが陪審員の感情をきちっと揺さぶっています。「家族と安らかに過ごす人生の後半が奪われてしまった」といった悲しい話を持ち出して被告の故意や過失を印象付け、ならびに権威付けとして例えば、医療関係者にラウンドアップ由来の発がんのメカニズムを証言させたり、毒性学の専門家ではないがんの専門医の個人的見解を一般論のようにラウンドアップががんの原因だと語らせたりしていました。また原告患者の痛々しい病変の画像を大きくして陪審員に見せたりですね。
裁判としてはそういった被告の過失、悪質性を陪審員に印象付ければ勝ちです。特に故意の部分が重要で、故意が認められれば悪質性が高いということで懲罰目的の賠償額は、日本の裁判と違って高騰することになります。
裁判の評決(判決)文書も入手しました。内容を簡単に言うと、これは不法行為に基づく裁判なので、商品の欠陥や警告上の怠慢があるかどうかで、それによって病気になったかを争う。ラウンドアップのせいで病気になったと思うか、YESオアNO。YES・NOクイズをしていってYESが多ければ勝ち。図の右下にあるイメージでYES、NOをやって最後に額を記入してください。それで最後の額と裁判に負けたというのだけが報道されています。何の裁判か、裁判の過程はほとんど報じられていないので、ほとんどの方が知らないと思います。
- 食と農のウワサ, 日本・世界の「反グリホサート運動」の真相
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