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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート17〉あきたこまちR 前編【ナス農家の直言】

農家の声

2025(令和7)年度から、秋田県はあきたこまちから「あきたこまちR」の導入を決定しました。
しかし一部界隈を中心に、事実誤認や不安を煽る発言が相次いでいます。
消費者の方にあきたこまちRに関する正しい理解をしてほしい!
ということで今回は、

「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート17〉あきたこまちR 前編」

をテーマに、農家の私があきたこまちRに対する誤解や偏見を正していきます。

1.(中)あきたこまちRの「R」ってなんだ!?

あきたこまちRの「R」には、

1. 「Reiwa」(令和)
2. 「Reborn」(再生)
3. 「Renew」(更新)
4. 「Reduce」(カドミウムを減らす)

の4つの意味があり、一部界隈が主張する外資系の陰謀ではありません。
特に、4つ目のカドミウムを吸収しにくい米というのが特徴であり、あきたこまちRは多くのメリットを持った期待の品種なのです。

2.(中)あきたこまちRは放射線を当てた米だ!

「放射線育種!? 放射線を当てた米を推奨するのか!」

あきたこまちRに放射線を当てているわけではありません。
正確には、「あきたこまち(母)」に、カドミウム低吸収品種「コシヒカリ環1号(父)」を交配した後、「あきたこまち」を7回戻し交配してできた品種(交配育種)です。
「コシヒカリ環1号」とは、コシヒカリの種子に1度だけ放射線を照射して突然変異を誘発し、カドミウム低吸収性を持つ株を6世代以上栽培して、選抜を繰り返し育成された品種です。

秋田こまちR 育成系譜

コシヒカリ環1号も放射線を当ててから6回以上交配を繰り返してできた品種で、さらにそこからさらに7回も戻し交配する目的はただ一つ。
カドミウム低吸収という特性を引き継ぎつつ、あきたこまちの特性に限りなく近づけるためです。
そのため、栽培管理や肥料、収量や食味なども、あきたこまちとほぼ同等です。

生産者向け「あきたこまちR」チラシ(10-13) (e-komachi.jp)

あきたこまちRを、放射線を照射した米だと誤解をしている方がいますので、まずはこの点を正確に理解していただきたいです。

3.(右)なんであきたこまちRに切り替えるんだ!

あきたこまちRに切り替える理由を簡潔に言えば、
カドミウムの吸収性が低い、より安全な米にするためです。
元々鉱山地域が多かった影響で、秋田県内にはカドミウム濃度が高い水田が散在しています。

https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PROJECT-20H03945/20H039452021jisseki/

このカドミウムが厄介なのです。
米を介してカドミウムが過剰に体に蓄積すると、教科書にも出てくる公害「イタイイタイ病」の原因になり得ます。
そして米どころの秋田県としては、輸出も見据えて、日本のカドミウムの基準(0.4ppm)より厳しい海外国にも対応できる品種が必要なのです。

4.(一)栽培する農家にメリットはないだろ!

あきたこまちRは、栽培面でもメリットが大きい品種です。
そのメリットとはもちろん、米のカドミウム対策が楽になるという点です。
下の図の通り、カドミウムと同じく注意すべきヒ素を、同時に吸収させない水管理はできませんでした。

今まではカドミウムの吸収を抑制するため、出穂期前後(7月中旬~8月下旬)に水田に水を張る「湛水(たんすい)管理」を続けていました。
この湛水管理は、農家にとって大変な負担です。
通常、7月中旬~8月下旬は、水を抜いて田んぼを乾かして収穫に備えるのですが、この時期まで常に水を入れた状態にしないといけないのです。(還元状態にして、カドミウムを溶解させないため)
秋田県の米農家に湛水管理について聞いたところ、

  • 毎日の水田の見回りも時間や労力がかかる
  • 収穫期に田んぼが乾かないと作業効率が落ちる
  • 機械がぬかって故障の原因になる

と「労多くして益少なし」という意見でした。
それがカドミウム低吸収米のあきたこまちRができたことで、通常の管理でもカドミウムとヒ素を同時に低減できるようになるのです。
「あきたこまちRはマンガンも吸入しにくいから、〈ごま葉枯れ病〉にかかりやすくなり、農家にも負担になる!」
と問題視している方もいますが……、田植え時に使われる「いもち病」防除剤の種類を工夫したり、基本の土づくりに努めれば問題ないというのが、秋田県の見解です。

5.(三)今までの体制でもカドミウム過剰の米は流通してなかったじゃないか!

  1. 農家の水管理などの努力
  2. JA等と県がクロスチェックし、基準値以下の安全な米のみを出荷販売、
  3. 基準値を超える米があった場合は県が買い取り、市場流通から隔離して適切に処分

これらの対策によって、今までもカドミウム過剰の米は流通していませんでした。
しかし、これらの対策は大変な負担なのです。
客土でカドミウム過剰の田んぼの土を埋め変えるという方法もなくはないですが……。
客土による対策は、土づくりの時間や工事にお金がとてもかかることは、素人でも容易にイメージできるでしょう。

6.(捕)全てあきたこまちRに切り替える必要があるのか!

「全面的ではなく、一部の地域だけあきたこまちRにして、その他の地域は今まで通りのあきたこまちを栽培すればいいじゃないか!」

この意見は多そうです。
事実として、令和7年度から秋田県内の種場から供給される種子は全て、あきたこまちRに切り替わります。
しかし同じ形質の米が2つもあったら、販売店や消費者の間で面倒や混乱が起きることは予想がつきます。
それに一部の地域だけあきたこまちRにしたら、それこそその地域の米は悪意ある活動家から風評被害を受けてしまうでしょう。
国内外の消費者に、より分かりやすくより安全な米を提供するため、県全域であきたこまちRに切り替える必然性は十分あるのです。

7.(二)ヒトがマンガン欠乏症になる懸念がある!

前述した通り、あきたこまちRはマンガンを若干吸収しにくいという特徴があります。
そのせいか、

「ヒトがマンガン不足の食べものを口にし続けると、不妊や生殖機能の低下などにつながるかも!?」

などと、健康不安を煽る活動家もいます。
しかし、マンガン含有量が米を上回る農産物(お茶や野菜など)もたくさんあり容易に補えます。
バランスのいい食事を心がければ、マンガン推奨摂取量(男性 3.8±0.8 mg/日、女性 3.8±1.4 mg/日)(日本人の食事摂取基準(2020))は、問題にするほどの問題でもないと思います。
マンガン欠乏を怖がるより、カドミウム過剰を怖がるほうが健全です。

8.(遊)消費者の選択肢がなくなる!

「あきたこまちRを皮切りに、全国で放射線育種米ばかりにする計画だ!」
「国民の選択肢がなくなる!」

と、某政党の党首がSNSで投稿していましたが……。
「コシヒカリ環1号」はすでに2015年に登録されており、あきたこまちR以外にも、コシヒカリ環1号を親に持つ米の品種はすでに他にも出ています。(きぬむすめ、たちはるか、にこまるなど)
大豆や野菜、果樹等でも様々な品種が放射線育成され、すでに一般的に流通し食べられているのに……、「なんで今さら問題にするの?」というのが率直な私の意見です。
どうしてもあきたこまちRが嫌なら、買わなければいいだけ!
米の品種はまだまだたくさんあるので、消費者の選択肢は依然としてたくさんあります。

9.(投)あきたこまちRは不味い!

まだ一般生産も始まっていないあきたこまちRを、空想で食レポした投稿が炎上していました。そもそもあきたこまちRの食味はあきたこまちとほぼ同等とされており、判別は困難でしょう。
さすがに、このレベルのデマはそっとしておきます。

まとめ

一部の悪意を持った人のせいで、秋田県の米農家に直接DMを送るなど、すでに農家にも風評被害が出ています。
特定の方の偏った意見だけでなく、秋田県のあきたこまちRのサイトなど、多角的に情報を集めてください。

次回、農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート18〉あきたこまちR 後編に続きます!

 

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筆者

ナス男(ハイパーナスクリエイター「ただのナス農家」)

 

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