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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート27〉【ナス農家の直言】
今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート27〉」
をテーマに、農家の私ナス男が農業デマを紹介していきます。
1.(中)山の樹々は無肥料でも育っている!
「富士の樹海に農薬や肥料を撒く人なんかいない! それでも樹は育っているんだから、肥料は農業でも不要!」
と意見してくる人がいますが、その人こそ勉強不足です。
畑の野菜を収穫すれば、その分の肥料成分が減ります。
肥料を足さずに収穫し続けると、やがて生育に必要な栄養分は不足し、収穫量が減る。
これが質量保存の法則で、当たり前の原理です。
一方、山の樹々は、落ち葉などの持ち出しもないので、肥料成分は山に留まります。
落ち葉が腐葉土になり、また肥料成分になるという循環もあります。
樹々の成長によって肥料分は減るにしても、追加で肥料を足さずとも、樹々が即座に枯れていくことはないでしょう。
山の樹々と畑の農作物は、同じように見えても一緒には考えられない所があるのです。
2.(二)除草剤などなくとも、山に雑草は生えない!
「山は雑草管理などしなくても、雑草だらけにはならない!」
「だから除草剤は不要! 農家は勉強しろ!」
という人がいますが、これもやはり勉強不足です。
山の樹々の植林の際、特にまだ樹々が小さい時は、下刈りという樹の苗の周りの雑草を刈り取る作業があります。
雑草が植林を飲み込んでしまうと、樹々の成長が遅れてしまうので、重要な作業なのですが……
なにせ下刈りは重労働!
- 日陰のない山間部の不安定な斜面で
- 暑い時期に多くの人手をかけ
- ハチやヘビなどを避けながら行われるため
新規林業従事者が定着できない原因の一つとなるくらい過酷な作業です。
なので下刈りの際に、(ここ数年ではほとんど事例はありませんが)一部の雑草だけに効く選択制除草剤の使用が認められています。
- 人間にまったく影響がない。
- 一定期間で分解され残留性も低い。
- 地表近くの土壌有機物に吸着されるため地下水に浸透しない
もちろん安全が確かめられた除草剤です。
それでも除草剤を批判する人は、夏場に山に下刈りに行くのはどうでしょうか。
炎天下で刈り払い機を振る作業がどれだけ過酷か、身をもって知るといいでしょう。
3.(三)忌避剤を利用すれば殺虫剤をゼロにできる!
忌避剤とは、害虫防除薬の一つです。
害虫を殺す殺虫剤とは異なり、害虫が嫌がるような物質で、作物に寄せ付けにくくする性質があります。
「それなら殺虫剤を使わなくても、忌避剤だけで作物は守れるじゃないか!」
と思われるかもしれませんが、現場の農家からすると、忌避剤だけで完璧に害虫対策ができるとは思いません。
忌避剤を使っていても、100%害虫が寄ってこないわけではありませんし、効果も時間が経てば薄れていくからです。
忌避剤を防除体系の一つに組み入れている農家もいますが、より害虫被害を減らしたいのであれば、殺虫剤も使用していくのが確実です。
ちなみに、ホンジカやカモシカ、ノウサギなど野生動物の食害から、造林を守るための忌避剤も存在します。
樹幹部分の皮剥ぎ被害にも予防散布が簡単に行えます。
ただやはり、忌避剤だけでは樹々を守ることはできないので、柵などを合わせて獣害対策をするのが一般的なようです。
消費者の方の安心の観点からも、忌避剤の需要は増えるかもしれません。
しかし忌避剤が増えても、殺虫剤がゼロにできるわけではないと私は考えています。
4.(一)SDSデータシートに農薬の危険性が書かれている!
「厚労省のデータシートを見ろ! 農薬の危険性が山ほど書いてあるぞ!」
と、SDSデータシートを根拠に、農家に噛みついている方がいました。
SDSデータシートとは、Safety Data Sheetの頭文字をとったもので、伝達対象となる化学物質を一定割合を超えて含む製品を他の事業者に譲渡又は提供する際に交付する、化学物質の危険有害性情報を記載した文書のことです。
ちなみに、そのSDSデータシートがこちらです。
こんな注意書きが必要な農薬とは、何やら危険なもののように聞こえますが……
「こういう取り扱いをすると、こういう危険性があるから、適切に管理してください。」と、ユーザーに伝達するためのものであり、「危険な物質だから絶対に使っちゃダメ!」というものではありません。
実際に農家が農薬を使用する際には農薬取締法(農薬ラベルの使用方法)を守れば、農薬の安全性は担保されているのです。
間違った理解は、農薬に対する事実を歪めてしまいますので、注意しましょう!
5.(左)塩水で除草できる!
「除草剤を使わずに、塩水を撒いて除草しています!」
という立て看板がある公園があるようです。
「だから畑にも塩を撒けば除草剤は不要!」
という意見は間違いです。
たしかにエコな感じがしますが、除草で塩を使うことは全くおすすめは出来ません!
塩害によって、雑草のみならず、作物が出来なくなるほどの被害を受けるからです。
https://www.maff.go.jp/j/press/nousin/saigai/pdf/110414-01.pdf(maff.go.jp)
くどいかもしれませんが、除草剤も適切に使用すれば安全ですので、除草剤を使うことを禁忌とするのは反対です。
6.(右)残留農薬で汚染された土壌を無害化できる水!
またまた怪しげな農業資材の情報が出回っています。
なんでも、「残留農薬で汚染された土壌を無害化できる水!」だそうです。
宇宙戦艦ヤマトの放射能除去装置「コスモクリーナー」の農薬版といったところでしょうか??
ツッコみどころしかない謳い文句で、取り上げるのも迷うレベルですが……
農薬で汚染された農地や、残留農薬がある土壌を無害化できるエビデンスのある資材を、農家の私は聞いたことがありません。
少しでも変だなと思う商品には、手を出さないのが賢明です。
7.(捕)ス〇バのコーヒーは農薬まみれ!
「ス〇バのコーヒーは飲んではいけない!」
と、輸入物のコーヒー豆の危険性を謳うサイトがあります。
このサイトが輸入物のコーヒー豆を危険としている理由は、主に2つです。
①日本に輸入する時に、「燻蒸処理」をするから危険
燻蒸処理とは、重要病害虫の国内でのまん延を防ぐ植物防疫の観点から、臭化メチルや有機リン系、アルミニウム系の殺虫剤を霧状にして充満させる処理のことです。
輸入検査時に検疫有害動植物が付着していた場合、消毒処理もしくは廃棄(返送)が必要となります。
「そんなヤバそうなやり方で、栽培の時だけでなく輸入する時までコーヒーに農薬をかけてるのか!」
と、不安になる消費者の方もいるかもしれませんが……
農薬の使用基準に基づき燻蒸されるため、燻蒸された食品等が残留農薬の基準値をオーバーすることはありません。
「オーガニックのコーヒー以外は、燻蒸処理されているから私は飲まない!」
安心の基準は人それぞれですので、とやかく言うつもりはありませんが、自分の安心基準を他人に強要しないでもらいたいですね。
②残留農薬が危険だから
「コーヒーは作物の中で農薬の使用量が2番目に多い(1番は綿花)! だから飲むな!」
という主張ですが、残留農薬の危険性は量の概念を抜きには語れません。
0.2ppm程度残留した塩素系農薬をはじめコーヒー栽培に使用される多くの農薬は、200度前後の高温で焙煎される過程で95%以上分解してしまうという文献もあります。
そして残留農薬については、私のコラムでも繰り返し説明している通り、大量のコーヒー豆を毎日たくさんかじりでもしない限りADI(一日摂取許容量)を越えることはありません。
コーヒーに残留農薬があろうが、飲む時には問題ない量になっているのが実態です。
8.(遊)チョコは農薬まみれ!
コーヒー豆と同じようにカカオ豆についても、輸出入の時に燻蒸処理をされているからと不安に感じる消費者もいるようです。
これに対する答えも、コーヒー豆と同様です。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/dl/s0127-15t.pdf(mhlw.go.jp)
ポジティブリスト制度を導入してから、カカオ豆を輸入に頼っている日本では、基準以上の農薬が残留しているケースが相次いで見られたようです。
しかし対策として、ポジティブリストを徹底するとともに、現地のカカオ生産農家に出向き、ワークショップを行っています。
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokkyo/attach/pdf/r4_jigyou_report-82.pdf(maff.go.jp)
カカオを出荷する時も、検査をクリアしなければ日本に出回らず、加工されてチョコを口にする時には残留農薬はADIに達していないレベルです。
残留農薬とか難しいことは気にせずに、美味しいチョコを食べたいですね!
9.(投)農薬は必要悪!
「絶対悪だとは言わないまでも、農薬はなるべく排除されるべきだ!」
悪という単語を形容することで、農薬をまるで毒薬かのようにイメージされるのは気に障りますが……
必要悪の意味は、「ない方が良いが、やむを得ず必要とされるもの」です。
辞書的な意味で解釈するならば、農薬は必要悪で間違いありません。
- 農薬登録されるまでに様々な試験を乗り越え
- ARfD=急性参照容量や、ADI=一日許容摂取量を設け
- 基準を大きく下回る残留農薬しか検出されない
それでも、農薬は人体に微々たる影響があるわけですから、必要悪とは言えるでしょう。
(水や塩でも摂りすぎれば毒なので、経口摂取する全てのものは毒とも言えるのですが)。
農家は農薬をドバドバ使いたくて使っているわけではありません。
お金も労力もかかる農薬散布は、なるべく抑えるように、総合的な防除に日々取り組んでいます。
しかし絶対に忘れてはならないことは、農薬が人類の飢餓を救っているという事実です。
農薬を使わずに栽培すれば、ほぼすべての作物の収量が減少することは、想像に難くないはず。
出典:https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/attach/pdf/index-3.pdf
地球上の約80億人の人類が、なお増加し続けても多様な食事を選択できるのは、間違いなく農薬のおかげです。
適切に使用された農薬は安全ですので、消費者の方にはぜひ安心して作物を手に取っていただきたいですね!
まとめ
パート30まで、あと三つ。
ここまで続けられたのも、いつも読んでくださる皆さんと、絶えずデマのネタを提供してくれるインフルエンサーのおかげです。
これからも、消費者の皆さんに農業についての分かりやすい記事を書いていきます。
筆者ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人) |