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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート33〉 【ナス農家の直言】
今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート33〉」
をテーマに、農家の私ナス男が紹介していきます。
1.(中)霜降り肉は添加物を注射してできているから危険!
「霜降り肉は油を注射してるだけだから、高い金を出して買うものではない!」
という投稿を見ました。
たしかに加工肉の中には、牛脂を注入しているものもあります。
しかしそもそも、霜降り肉と牛脂注入加工肉は違います。
牛脂を注入した加工肉を霜降り、トロ肉、さし入りM等として販売するのは、景品表示法に引っかかります。
霜降り牛は、生産者の努力あっての賜物です。
私たち消費者は、霜降り肉をありがたくいただきましょう!
2.(二)農薬を使うと野菜が早く成長して収穫できる!
「オーガニックは農薬を使わないから、ゆっくりじっくり育つ。」
と、オーガニックビレッジ宣言をしたとある市町村の小学校で、このように説明されたそうです。
たしかに肥料成分が入った農薬も一部ありますし、害虫に葉っぱを食われて光合成が少なくなれば成長は遅くなりますから、一概に嘘とは言えません。
しかし一般的には、野菜を早く成長させるのは、農薬ではなく化学肥料のことでしょう。
農薬を使用している慣行栽培の野菜を暗にディスるような、とげのある発言に感じます。
学校教育では、正しく公正な知識を教えていただきたいです。
3.(三)山の上流地域で作られた米の方が安全!
「中山間地の米の方が、農薬が流れてこないから安全!」
度々農薬の危険性を煽っている某農家が、また妄言を吐いています。
たしかに上流で農薬を使えば、ごく微量でも下流に流れているのは事実でしょう。
圃場から農薬が検出されたら認定が取れないので、有機栽培が盛んな町が中山間地に多いのはうなづけます。
しかしだからと言って、下流地域の米=危険というのは、決めつけが過ぎます。
私の記事でもさんざん説明している通り、農薬はちゃんと使えば安全です。
自分の米を売るために農薬不安を煽る某農家の米は、消費者の方には買ってほしくないです。
4.(一)市販の農薬チェッカーで検査したら、とんでもない量の農薬が検出された!
「農家は安全だ、検出すらされないこともあると言っているのに、市販の農薬検査機で検査したら、農薬を検出した!」
と、鬼の首を取ったように喧伝しているアカウントがありました。
いやいや、数千円の農薬チェッカーでは、正確な検査はできませんよ?
農薬チェッカーの商品説明にも、あくまでも可能性があるという話ということは記載があるはずです。
JAが通常している農薬検査は、専門の機関に農作物を送って検査します。
検査費用は1回数万円はかかります!
それくらいの精度のものでないと、正確に残留農薬の検査はできないのです。
5.(左)害虫は雑草を食べない!
「害虫が食べるのは化学肥料を使った野菜だけ!虫は雑草に留まっているだけ!」
と、農業をよく知らないような人が主張していますが…
ご覧の通り、肥料もあげていない畑周辺の雑草は、虫に食われまくっています!
害虫は「野菜だから雑草だから」と、配慮することはないのです。
6.(右)害虫が葉っぱを食べるのは、重なって光合成できない部分を食べて光の通りを良くしてくれているから!
「害虫と呼ばれている虫も、光合成がしやすくなるように植物の成長を助けている!」
と持論を語っている方がいますが……、
そんな人間にとって都合がいいように虫が配慮して食べてくれているとは、農家としてはとても思えません。
上の画像を見てもらえば分かるように、密で重なり合って陰になっていなくても、そんなの関係なく虫はナスの葉っぱを食べています。
農家の私の感覚としては、「農薬がかかってなくて、成長点付近の柔らかい上の方の新芽から食べられる」です。
スピリチュアルに考えたい気持ちも分からなくはないですが、害虫は無慈悲にそして無差別に農作物を食べるのが事実です。
7.(捕)農薬は自然な色ではないから危険!
「自然界にはありえないような色の農薬がある! 安全なわけがない!」
という主張も、分からなくはないです。
しかし農薬の中には、わざと着色しているものもあります。
農薬にわざと色をつける理由は主に、万が一にも誤飲しないようにするためです。
着色は農薬メーカーの配慮ですので、危険と騒ぐことではないのです。
8.(遊)モズクガニを使えば無農薬で稲ができる!
「モズクガニを田んぼに放って無農薬米を!」
「モズクガニが田んぼを移動すれば水中も濁って雑草も減らせるし、害虫も食べてくれるのでは?」
「アイガモは管理が必要だけど、モズクガニは盗まれないし、食用として出荷も期待できそう!」
という、一部地域で「モズクガニ農法」が行われているかのような投稿を見ました。
しかしモズクガニ農法を地域で行っている所は日本では確認できませんでしたし、そもそも全くお勧めできません!
例え日本産のモクズガニであっても、水田のような開放環境に養殖個体を放出することは遺伝的撹乱等の国内外来種問題を引き起こす懸念があるからです。
手間もかからない生物と共生しながら無農薬で米が栽培出来たら、どれだけ楽か!
でもそれは、今のところ実用化できない机上の空論なのです。
9.(投)ウイルスフリー苗を使うな!
「ヤバそうな技術を駆使して、ウイルスを防いでいるのだろう! 知らんけど!」
過激な自然志向の方は、作物にウイルスが侵入するのを防ぐ技術に対しても、文句を言うかもしれません。
ウイルスフリー苗とはその名前の通り、現在までに知られているウイルスには感染していない苗のことです。
カビやバクテリアよりも小さいウイルスが植物内で繁殖することにより、葉がモザイク状になったりちぢれたりして、生育が悪くなり収量が低下します。
しかし植物がウイルス病を治療する有効な農薬は未だに開発されてなく、ウイルス病になった株を早期に圃場から取り除くしか、蔓延を防げません。
植物ウイルスは特殊な例外を除いて種子には侵入しないため、種子を経ること(世代交代)でウイルスが除去されているのですが……。
サツマイモやイチゴなどは、栄養繁殖(種芋や苗から繁殖させる)のが一般的なので、どのように作物からウイルスを取り除くかは重要な課題なのです。
ウイルスフリー苗の特徴は他にも、
- 生育が良い
- 形状が揃う
- 収穫量が多い
などがあり、農業の現場では欠かせない技術なのです。
ちなみにウイルスフリー苗は、茎頂培養(メリクロン)と呼ばれる、成長点にある茎頂分裂組織を切り出し、無菌状態で培養する技術を使います。
無菌室がネックで農家自身が行うには難しいので、イチゴやサツマイモ農家は、ウイルスフリー苗を買うのが一般的です。
ウイルスフリー苗は、現代の農業には欠かせない技術なのです。
まとめ
これからも農業デマの拡散を防ぐために、消費者の方に分かりやすく農業デマを紹介していきます。
筆者ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人) |