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Vol.6 マルチ料理【不思議食品・観察記】

コラム・マンガ

科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々や、その沼にはまった住人たちをウォッチし続けている山田ノジルさんが今回は、マルチ商法(ネットワークビジネス)から発生する、不思議食品の世界を観察します。

多種多様なマルチ商法

「マルチ料理」。「野良発酵(のらはっこう)」と同様に、私が勝手にそう呼んでいる名称です。

この「マルチ」とは、マルチ商法のこと。別名、ネットワークビジネスと呼ばれるヤツです。特定商取引法で「連鎖販売取引」と定義されている商売で、取り扱う商品は会社によって様々ですが、システムの基本はだいたい同じ。その組織の一員となって商品を売りつつ、人を紹介して会員にさせると紹介料やマージン等の利益を得ることができ、連鎖的に拡大していく仕組みです。

マルチ商品で販売されるアイテムの有名どころは、ホームパーティーでその魅力がアピールされる、タッパーウェアや鍋。美容サロン的な場所を経由するのは、補正下着や美顔器でしょうか。大物では、浄水器や24時間風呂などもありますね。そのほか、格安SIMや健康食品も。最近では投資案件や仮想通貨などの「モノなしマルチ」も存在し、実に多種多様だと言えるでしょう。

売るための斬新なアレンジ

さて、当コラムのテーマは「不思議食品」です。私の興味は、マルチ商法で販売される食品そのものの評価ではなく、より広く多く売るという目的から発生するそのアレンジ法。いくつかその実例をご紹介していきましょう。

まずは「コレってマルチだったの?」と驚く人も多い、知名度抜群な「ミキプルーン」から。長年、俳優の中井貴一がCMに出演し、2000年に放送されたCMのセリフ「ミキプルーンの苗木」は、コピペネタとしてネットの海で今なお親しまれているフレーズです。

一般的にはドライフルーツとして流通していることの多いプルーンですが、ミキプルーンはとろりとしたエキス状に加工された食品。そのものをなめてもいいけれど、ヨーグルトのトッピングにしたり、スムージーに加えたり、ジャムみたいに使うとより消費できそうです。しかしおそらく、そうした消費方法では埒があきません。これはマルチ商法に限りませんが、様々な利用法を提案して、量を消費させなくては。
そうして登場する、斬新な活用法がこちら。ミキプルーンをごはんにまぶしておにぎりにしたり、手作り味噌に投入したり。特に味噌はここ最近の発酵食ブームで大人気ですから、親子味噌づくり教室や食育講座といった集まりも、活性化されている模様です(もちろんミキプルーンや同社商品入り)。一見平和な集まりに擬態して、マルチ商法の商品が使われている嫌さよ。余談ですが、愛用者の間では「肌荒れやアトピーにミキプルーンを塗る」という手当てが一部存在しているのも衝撃です。悪化する予感しかない。

アロマオイルを食す

次に「本来食用ではないものを摂取する」点から世間をザワつかせたのは、マルチ商法で販売されるアロマオイル(エッセンシャルオイル)です。販売元のHPにも「料理の風味をよくする香料として使えるものもあります」とバッチリ記載されており、会員の宣伝トークでは「食品添加物として認可されている」「メディカルグレードだから飲める」と謳うのが定番。実際そうした使われ方もあるのでしょうが、なんせ刺激がハンパないアロマオイル。素人が気軽に飲用するのは相当にヤバく、筆者の耳にも健康被害がチラホラ……。

常にアロマの瓶を携帯し「デトックスにいいよ」と喫茶店で出されたお冷に数滴ボトリとたらしたり、カプセルに入れて、サプリメントのようにゴクリと飲んだり。アロマオイルを使った料理講座やワイン教室、あの手この手で消費を煽ります。公式HPには「エッセンシャルオイルは香り付けを目的とするため、大量に使用する必要はありません」「香りが特に強いオイルを使用する場合は、爪楊枝の先につけ、ごく少量を使用してください」とあるのですが、巷の様子を見ていると、ユーザーたちの量の感覚はだいぶマヒしているのではと思われます。体にいい! と謳われるアロマを使った料理で、内臓がズタボロになっていないことを願います。

アロマオイルが主戦商品であるドテラという会社では「ミネラル」なる健康飲料も広く親しまれているようですが、こちらも積極的なアレンジが進化中。豆腐やパン、キムチを手作りする際に投入したり、これまたミキプルーン同様、かゆい部位にスプレーするスキンケア的利用法も。

アロエベビーの衝撃

最後は、利用法はごくノーマルでも、効果効能が盛られ過ぎだろうという一例です。そのひとつが「アロエベラ」。妊娠中にアロエベラジュースを積極的にとると、その栄養が胎児にも影響し、素晴らしい子供が生まれてくる。それを「アロエベビー」と呼ぶのだとか。アロエベビーは成長が早く「生後1カ月で名前を呼ぶと振り向き、12カ月で箸で食べ物を口に運ぶ」とか、「生後6カ月でディズニー映画を観て涙を流していた」とか「アロエベラジュースを飲み始めたら性格が落ち着き、成績もアップ!」とか。もはや「パワーストーンで宝くじが当たって彼女ができました!」レベルに因果関係が不明です。こちらもミキプルーンやミネラル同様、食品として流通しているのに薬のように使うケースが報告されています。「母が愛用者」という方の話しによれば、ニキビができればアロエベラジュースを塗り、目のかゆみには同社の化粧水をさせ! とアドバイスされるとか。

ターゲット層を広げて会員を獲得し、商品の在庫をさばくため、食品の未知なる可能性を無理にでも信じ込み、大胆なアレンジも積極的に取り入れていかねばならないマルチ食品の世界は、これからも無限に変化し続けていくのではないでしょうか。もし皆様の周りでも見かけたら、筆者にぜひご一報ください。

【不思議食品・観察記】記事一覧

筆者

山田ノジル

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