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第1回 鈴木宣弘君は「食の安全」を語ってはいけない! 唐木英明(前編)【続おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を再度検証する】
本誌5月号特集「おいおい鈴木君」は幸い好評をもって迎えられた。今号ではその続編をお届けする。第1弾は文藝春秋の特集『日本の食が危ない』での発言を中心に批判を展開した。出版に限らず、放送やネット、講演。露出も多く、各メディアから重宝がられている感のある鈴木宣弘東大教授。虚偽情報はさらに拡散していく。今回は、そこでの発言をチェックしていく。再度言おう。鈴木氏の、デタラメで無知をさらけ出した放言をそのままにしておくわけにはいかない。
鈴木宣弘君は「食の安全」を語ってはいけない!
鈴木宣弘君は1982年に東京大学農学部農業経済学科を卒業した。私は1972年に東京大学助手から助教授に昇任したが、私の薬理学、毒性学、公衆衛生学の講義を聞いた農業経済学科の学生はいないので、学生時代の鈴木君を知らない。卒業後、彼は農林水産省勤務を経て九州大学に移り、2006年に東京大学教授に就任した。私はその前の2003年に定年退職しているので、教授会メンバーとしての付き合いもない。
私自身の経験からも、東京大学教授に選ばれることは簡単ではない。鈴木君の専門分野である農業経済学について、私は素人なので彼の業績を評価できないが、複数の候補の中から教授会による厳しい審査を経て教授に就任したのだから、その分野では高く評価されたのだろうと思っていた。ところがその彼の発言が厳しく批判されている。
聞くに堪えない嘘八百
鈴木君の言動を継続的に批判しているのが晴川雨読氏(https://seisenudoku.seesaa.net/)と、農と食に関する情報のファクトチェックを行なうAGRI FACTだが、多くの人目を引いたのが本誌2023年5月号の特集『おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する』だった。
これは文藝春秋2023年4月号に掲載された鈴木君の『日本の食が危ない!』という記事への批判であり、土門剛氏、山下一仁氏、そしてAGRI FACT編集部が、鈴木君の専門である農業政策に関する発言を厳しく検証している。
農業政策は社会、経済、政治、国際関係など多くの要因を勘案して決まるものであり、なにが正しいのか判断することは簡単ではないが、鈴木君の主張にはその根拠となる事実関係に明らかな誤りがあることが批判されたのだ。その要約と言えるのが『冬のお化け鈴木宣弘批判決定版』と題する土門剛氏の記事の一節である。
「鈴木さんが書くものは、とにかく筋が荒い。事実の取り違えもある。看過できないのは、裏付けのつもりで出してくる数字に歪曲したものが多く、正直、そのことが分かってしまえば、読むに堪えないということになる」
鈴木君の発言は彼の専門分野に留まらない。私の専門分野である食品安全についても盛んに発言している。政策論争に興味を持つ人は少ないが、それが食の安全に関係するとなると聴衆は一気に増える。そのような意図で、自分の専門とは程遠い食の安全についても発言を続けているのだろう。しかしその内容はまさに聞くに堪えない間違いと嘘八百であり、土門氏の批判がそのまま当てはまる。
一般に食品安全の話題にはフェイクニュースが多く、それを信じて安全な食を危険であるように誤解する人も多く、そのため社会に様々な混乱が起こっている。鈴木君はそのような状況を巧みに利用して、巷に流れるフェイクニュースを自分の都合に合わせて加工し、拡散しているとしか見えない。東京大学教授が誤解の解消に努力するのではなく、逆に広めようとする姿勢は異常であり看過できない。そこで食品安全に関する鈴木君の妄言を検証する。
FOOCOMの指摘「研究者生命に関わる」
私が知る限り鈴木君の言説に最初に苦言を呈したのは「科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体」FOOCOMの白井洋一氏である。
2013年当時、鈴木君は環太平洋経済連携協定(TPP)に反対する論陣を張っていたが、その主張は日本共産党が2013年参院選挙政策として発表した「『アメリカいいなり』をやめ、国民の利益を守る外交に」、「TPP交渉参加を撤回し、日本農業の再生と食料主権、経済主権の確立を」などの主張と一致するものだった。
そして彼が書いたTPP反対の檄文が「食の戦争米国の罠に落ちる日本」(文春新書2013/8/21)である。これを読んだ白井氏は「鈴木宣弘・東大教授の新刊『食の戦争』に二言苦言」と題する記事をFOOCOMホームページ(2013/10/9)に掲載した。そこには2点の批判が書かれている。
最初は、「GMトウモロコシと発がん性に関連、マウス実験仏政府が調査要請」というAFP通信(2012/9/21)の記事について鈴木君が「ショッキングな実験結果がフランスで報告された」と書いた文章の批判だ。これは反GM運動家として有名なフランス・カーン大学のセラリーニ教授が発表したラットを用いた論文の紹介記事だが、白井氏は「ラット」を「マウス」と誤記するなど動物実験を理解していない記者が書いたことが分かるとしている。記事にあるように、フランス政府は食品環境労働衛生安全庁(ANSES)に論文の調査を要請し、ANSESは2012年10月にこの論文は「実験手法や結果の解釈には科学的弱点が多く、発がん性と関連するという結論は導き出せない」と報告した。
白井氏の批判は、この論文が否定された事実について鈴木君が何も言っていないことだ。後日談だが、この論文は多くの科学者から間違いと批判され、2013年11月に雑誌掲載が取消しになった。ところが2014年6月に別の雑誌にそのまま再掲載し、反GM運動の理論的支柱として現在でも利用され、批判を浴びているといういわくつきの論文だ。
2番目の批判は次の記述だ。
筆者も出演したNHKスペシャル「世界同時食糧危機アメリカ頼みの食が破綻する」(2008/10/17放送)で、米国穀物協会幹部が「小麦は我々が直接食べるので、遺伝子組み換えにはしない。大豆やトウモロコシは家畜のエサだから構わないのだ」と発言し、物議を醸した。
白井氏はビデオ録画を見直したが、そのような発言はなかったという。他方、「サンデープロジェクト」(テレビ朝日2008/12/7放送)では米国穀物協会幹部が「小麦は消費者意識もあり微妙な問題だ」と発言をしているが、鈴木君が言うような「物議を醸す」過激発言はいっさい見られないとも書いている。
白井氏は次のようにも述べている。「一般大衆向けに話をおもしろくし単純化するため、不都合な真実は抹殺し、十分な追跡調査をしないのは、商業ライターやジャーナリストではよくあることだろう。しかし、鈴木教授は日本を代表する大学の現職教授だ。彼の発言、著作にはなるほどと思う卓見もあるだけに、今回指摘したようなお粗末さは実に残念だ。百の真実を述べても、一つでもねつ造、歪曲があれば、研究者生命に関わる」。
私は鈴木君が白井氏の忠告を聞き入れて、専門外の発言には注意することを願っていたが、それはかなわなかった。
東洋経済オンラインの対応──見苦しい言い訳も
それから8年後に鈴木君は「農業消滅:農政の失敗がまねく国家存亡の危機」(平凡社新書2021/7/19)を出版した。そしてその本の要旨を「『リスクのある小麦』の輸入を続ける日本の末路・発がん性指摘される農薬を効率重視で直接散布」と題する記事にして東洋経済オンライン(2021/8/27)に掲載し、本の宣伝をした。そこには「なぜ、自国民が食べないものを日本に送るのか」との見出しで、次のような記載があった。
アメリカの穀物農家は、日本に送る小麦には、発がん性に加え、腸内細菌を殺してしまうことで、さまざまな疾患を誘発する懸念が指摘されているグリホサートを、雑草ではなく麦に直接散布している。収穫時に雨に降られると小麦が発芽してしまうので、先に除草剤で枯らせて収穫するのだ。
これは全くの間違いであり、読者からそのことを指摘された。すると鈴木君はTwitter上で「この記事はタイトルを含め東洋経済の編集部さんによるもので鈴木が書いたものではありません。日本向け小麦だけに散布しているわけではないので、拙著本文の『日本に送る小麦には』という表現は完全にミスリーディングですね。削除します」として自ら誤りを認め、東洋経済編集部に削除を求めた。著者名を明記しながら自分が書いたのではないという言い訳は見苦しいが、とにかく間違いを認めたことは評価できる。
これを受けて東洋経済オンラインは当初の大見出しである「『自国民は食べない』小麦を輸入する日本の末路」という記述を「『リスクのある小麦』の輸入を続ける日本の末路」に修正し、本文の「『自国民が食べないもの』が日本に送られている」との記述も「『日本産にないリスクのある食べ物』が送られている」に変更した。一見訂正したように見えるが、米国産小麦に「リスクがある」、すなわち米国民はリスクがある食べ物を食べているという根拠がない主張は全く変わっていない。
さらに言えば「発がん性に加え、腸内細菌を殺してしまうことで、さまざまな疾患を誘発する懸念が指摘されているグリホサート」という記述も間違いだが、これは別の機会に批判されている。
平凡社の対応──フェイクニュース原点の著作
鈴木君の著書「農業消滅:農政の失敗がまねく国家存亡の危機」については、私が共同代表を務めるファクトチェック組織「食品安全情報ネットワーク(FSIN)」が厳しく批判し、2021年9月に平凡社に対して次のように訂正を求めた。
「著書には『なぜ、自国民が食べないものを日本に送るのか』との見出しと記載があるが、米国の農業生産者が日本向けの小麦だけに除草剤を散布しているという事実はない。小麦を枯らすために散布することはあるが、必要な場合のみ残留基準を超えないよう散布するもので、そのような例は全体の3%にも満たない。同書には指摘するのが面倒になるほど数多くの誤りがあるが、少なくとも著者自身が誤りを認めている部分については訂正を求める」
これに対して平凡社は同書の2刷で6カ所の記述を変更した。たとえば「『これはジャップが食べる分だからいいのだ』とアメリカの穀物農家が言っていた、との証言が、アメリカへ研修に行った日本の農家の複数の方から得られている」という記述を「『これは日本輸出用だからいいのだ』とアメリカの農家が研修中の日本の農家に話したと聞いて耳を疑った」など表現を多少変えただけで実質的な訂正になってはいない。
この本は鈴木君のフェイクニュースの原点であり、その後も同じ内容を多くの場所に記載している。そしてその集約版が文藝春秋に掲載された。
【第2回へ続く】
※『農業経営者Web』2023年10月号特集「続 おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を再度検証する」を転載
【続 おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を再度検証する】記事一覧
筆者唐木英明(食の信頼向上をめざす会代表、東京大学名誉教授) |



