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トンデモ・陰謀論が影響力を強める「withトンデモ」の時代:51杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】
2024年11月の米国大統領選挙で勝利したトランプ氏が、RFケネディJr.氏を次期厚生長官に起用すると表明しました。
ケネディJr.氏と言えば、陰謀論やレイシズム、優生思想などのトンデモ発言が報道された有名な人物で、米国の反ワクチンビジネスの親玉の一人としても知られている人物です。
本当に政権入りが実現した場合、米国の公衆衛生に大きな影響を及ぼすことは容易に想像できます。
今までの世の中にも陰謀論やトンデモは多々ありましたが、超大国の政権にここまで影響力を及ぼすことはありませんでした。
日米の選挙で陰謀論者やトンデモ論者たちが大きな力を持つ
日本も他人事ではありません。
10月に行われた衆院選では、陰謀論を展開する政党が議席を伸ばした上、ワクチンの陰謀論やトンデモ情報を垂れ流して製薬会社から訴訟を受けている候補が当選しました。
日米で行われた2つの選挙で、陰謀論やトンデモ論者たちが大きな力を持つようになったのです。
陰謀論と言えば、かつては一人で想像を巡らせたり仲間内だけで盛り上がる程度のものだと思っていましたが、それは過去の話。
今では信じる人同士がSNSなどで繋がって、お互いの思想を強化し合い、積極的に政治に働きかけるようになったのです。
本コラムに反対意見を持つ人物との意見交換で希望も
現に私も衆院選の期間中、陰謀論を支持する人たち何人かと話す機会がありました。
その中の一人は「自分は陰謀論者だ」とはっきり述べた上で「世の中には情報を操る裏の存在がいる」「権力が信じられないので食の安全も信用できない」「毒を食べさせられている」といった考えを聞かせてくれました。
私のコラムやAGRI FACTにも猛烈に反対する意見の持ち主で、正直で率直な意見を私に聞かせてくれました。
「権力は信じられない」という陰謀論が食や医療トンデモ論と結びつき、票を集め、権力を持った時、どんな世の中になるのか?
それはまだわかりませんが、選挙の結果を見て「納得できない」とは言っていられません。
「陰謀論者は次で落選させよう」も無理だと思います。
陰謀論・トンデモを「無いものとして扱う」わけにもいきません。
コロナ前の「ゼロコロナ」の時代に戻ることができないように、「ゼロトンデモ」の時代には戻れないのです。
これからは、トンデモ・誤情報・陰謀論が影響力を持つ世の中で、本当に大切なものを守りつつも、トンデモ・陰謀論と適切な距離を保ち、それらを支持する人たちとうまく共存する「withトンデモ」の時代を生きる方法を探さなければならないと思います。
本当に大切なものとは、感染対策などの公衆衛生であったり、農業・食品関係者の尊厳であったり、多岐にわたります。
大切な物が守られないと、前回のコラムで述べたように医療機関の業務に支障をきたし、前々回のコラムで述べたように農家や食品事業者が誹謗中傷を受けるなど、深刻な事態に発展してしまいます。
トンデモ・陰謀論が当たり前に影響力を発揮する世の中で、こうした大切なものを守るにはどうすればいいのか答えはまだわかりませんが、これから探していく必要があるでしょう。
私が出会った陰謀論者を名乗る人物は、初めに厳しい批判を向けてきました。
面と向かって批判を聞くのは楽ではありませんでしたが、私は話をじっと話を聞きました。
自分の意見は変えませんでしたが、とにかく話を聞いて、「なるほど。あなたはそう考えるんですね」と答えました。
そして、雑談をたくさんしました。
そうしているうちに、「キミ、笑顔がいいね」「ここに来る度胸は認めるよ」と言ってくれました。
そして、最後にさよならを言う時には「がんばってね」「何かあったら力になるよ」と笑顔で見送ってくれました。
私にとっては、異なる意見の人がどう考えているのか知ることができる良い機会になりました。
そして、陰謀論を支持する人も話してみたら意外と仲良くなれるし、もしかしたら合意形成もできるかもしれないという希望を見つけることもできました。
新しい時代のミッションは簡単ではありません。
ですが、分断が進み、トンデモが先鋭化するよりはマシです。
大切なのは、分断を越えてゆくことだと思うのです。
【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |