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子供達のためにオーガニック推進に立ち上がった「カッコいい」市長名鑑③【オーガニック問題研究会マンスリーレポート14】

コラム・マンガ

農業に関する様々な誤情報や陰謀論を流布してきたことで知られる元農水大臣の山田正彦氏。栃木県小山市の浅野正富市長は就任直前まで山田氏と歩調を合わせ、種子法や種苗法をめぐる運動の現場で共闘してきた人物でした。
現在、市の肝入りで実施されている「オーガニック講座」の内容は、およそ公共のイベントとは信じがたい、驚くべきものになっています。オーガニック給食運動の一大拠点と化しつつある小山市で何が起きているのか、前回に続き掘り下げていきましょう。

ファイル③栃木県小山市・浅野正富市長(part 2) 小山っ子の未来を守る会がもたらす「未来」とは

「小山市有機農業実施計画」に計上されている毎年3,000万〜4,000万円もの市予算が、全国的に見ても異例の規模感であることは前回もお伝えしました。

ところがその内訳を見てみると、技術講習など生産拡大に対する支出予定は僅か年間270万円。残る9割以上は、全てオーガニック給食、オーガニック講座、オーガニックアンテナショップ、マルシェといった「流通・加工・消費等」に配分されています。

 

引用:https://www.city.oyama.tochigi.jp/data/doc/1765505094_doc_498_0.pdf

 

このうちオーガニックアンテナショップ「HARETARA」は、小山市有機農業推進協議会が自ら2023年にオープンした、市内初の有機食材専門店とのことです。同店スタッフへの取材記事などによれば「アレルギーがあっても有機野菜だと食べられる子供が多い」「動物性堆肥不使用」「有機野菜は野菜本来の味わいが強く感じられる」「より安全で充実した人生を送るためには、できる限り化学物質を摂取しないことが大切」などの文言が並びます。(※1)

どれもオーガニック食品愛好者の発言として見る限りは(誤解や思い込みも含めて)ごくありがちなものばかりですが、協議会が運営する店舗=公的な立場からの発信と考えると、容易に看過できないものばかりです。

しかし「HARETARA」を中心となって運営しているのが、小山市の給食有機化を求める市民団体「小山っ子の未来を守る会(以下、「守る会」)」のメンバーだと知れば、それも合点がいきます。

「守る会」が立ち上がったのは浅野市長の就任直後となる2020年10月ですが、発足一年目から、種苗法改正陰謀論に基づくドキュメンタリー映画『タネは誰のもの』自主上映会を市内で実施し、ゲストに山田正彦氏、印鑰智哉氏を招いています。浅野市長は「守る会」の顧問を務めており、やはりここでも挨拶に登壇しています。(※2)

SNSやメディアで問題視された小山市の「オーガニック講座」も、小山市有機農業推進協議会と「守る会」の共催で実施されていることから、その講師陣や講座内容はカッコ付きの「オーガニック給食運動」の世界観を色濃く反映したものになっています。

それを証明するかのように、HARETARAスタッフのSNS上では、店舗イベントやオーガニック講座の告知に混じって自称「キチガイ医」内海聡氏による「日本の野菜は有害物質まみれ」「種苗法の改訂も日本を滅亡に向かわせている大きな要因」などの投稿が度々引用されています。

内海氏は都内で高額な自費診療のクリニックを経営する傍ら、反医療・オーガニック・排外主義・陰謀論を掲げ政治団体を設立、障がい者や外国人への差別的発言をおこなうことでも知られる人物です。

HARETARAスタッフの取材記事での発言にあえてひとつだけ反論すれば、子供達にとっては一生涯健康への影響が証明できないほどごく微量の化学物質などよりも余程直接的に「安全で充実した人生」を脅かす事象が、この社会には溢れています。不安を煽る誤情報や陰謀論を吹き込む大人たちの存在もそのひとつです。

このような背景を持つ「守る会」が企画する「オーガニック講座」は、開催回数の多さもあいまって、全国自治体の有機農業推進の取り組みの中でも類をみない、奇怪と呼んで差し支えないほどのラインナップとなっています。

22年10月に開催された第3回では『オーガニックってなあに? 医師が伝える、親子で笑顔になれる食と暮らし』と題し、医師の高橋真美氏が登壇。「守る会」副会長でもある高橋氏は有機食品を選ぶことが「がん予防になる・慢性疾患を予防する・有害物質の摂取を減らせる」と語り、また農薬の腸内細菌への影響や発達障害との関連などについて列挙しています。

その根拠はといえば、論理の飛躍やチェリーピッキング(自説に沿う情報を意図的に選んで集めた)を含むものばかりですが、医師の立場からエビデンスらしき出典を提示しながら語られることもあり、予備知識のない消費者であれば不安を抱きかねない内容です。(※3)

また第5回では『オーガニック野菜がどうしても必要だ!』と題し、和ビーガンシェフを自称する本道佳子氏が講演。日本のスーパーに並ぶ野菜を「同じ形・同じ大きさ」と評し、「そんな野菜しかない日本を見て、この野菜ばっかり食べていくような人たちだとしたら、日本人はもしかして将来的にはいなくなっちゃうんじゃないかな」「農薬をなるべく使ってない野菜の方が やっぱり力があるんですよね」と述べています。言うまでもなく、いずれも一般消費者が抱きがちな誤解や思い込みの域を出ない認識です。専門家と称して講演会で話すほどの内容とは言えないでしょう。ましてや公金を投じた企画です。(※4)

極め付けは、有機農業推進という看板からは大きく乖離した、反ワクチン主義の自然派医師・本間真二郎氏を講師に招いている点です。本間氏はワクチンのみならず、自身のウェブサイトで乳児湿疹やアトピーについて「ステロイド剤を使用しない」「保湿剤も使用しない」「掻くのをやめさせない」など、当事者の子供にとっては非常に辛い経験になると思われる「自然に沿った」対処法を紹介しており、その倫理観が問われます。現市長の後ろ盾を得た公的なイベントであることが講座内容への信頼性を担保しかねないという点では、とりわけ悪質性が高いと言えます。(※5)

(※オーガニック講座の枠内ではないが、2026年1月にも「守る会」独自の主催で本間氏の講演会が企画されている。)

これらの「オーガニック講座」のうち、とりわけ大きな話題となったのが2024年10月に開催された『農薬や合成化学物質による 生態系やヒトへの影響』と題する講座でした。講師は「ネオニコチノイド系農薬が発達障害増加の原因」とする運動の急先鋒として知られる医学博士の木村-黒田純子氏です。

問題視されたのは、チラシに掲載された講師コメントです。県内屈指の農業生産を誇る小山市において、農薬を理由に慣行農業を一方的に危険視するかのような記述に対し、SNS上では科学的根拠がないとして開催前から多くの反論が寄せられましたが、当日の講座のなかでもなお、講師からは「農薬の影響でがんや発達障害が増加している」という主張が展開されたということです。

 

引用:https://www.city.oyama.tochigi.jp/data/doc/1726194003_doc_498_0.pdf

 

その反響はSNSだけに収まりきらず、ノンフィクションライターの石戸諭氏が司会を務める情報番組「ABEMAヒルズ」のコーナーでも取り上げられ、複数の専門家や関係者による疑義の声が紹介される事態に至りました。今もAbemaTV上では、当時の番組映像を見ることができます。

ABEMAヒルズ オーガニックでがん予防? 市の講座に疑問の声

同年12月の小山市議会では、島朋幸議員がこの出来事を取り上げました。島議員が市の有機農業推進に理解を示しつつも、現状の施策が慣行農業に対する誤解や不安につながり得るのではないかと懸念を示したことに対し、浅野市長は「農薬を使う限り、何らかのミスによって安全でない農産物を生産するリスクは常に付きまとう」「現時点では毒性が確認されていなくても、知見の積み重ねにより将来毒性が確認される農薬も絶無ということはできません」と、あくまで有機農産物の方がより安全であるという独自の価値観を強調します。

さらに若林俊也産業観光部長の答弁では、「講座の内容は市としての見解ではなく、講師ご自身の見解」と言い逃れつつも「ネオニコチノイド系農薬が(中略)予防原則によってEUで禁止されたことからしても、一概に根拠がないと排斥できるものではありません」として、結局は講師と市長に寄り添ってみせました。(※6)

どれも反農薬運動の現場で長らく展開されてきたテンプレートといえる程度の主張ではありますが、これ以降、市議会など公式の場で本件が追及された形跡は見られず、小山市は今も変わらず「先進事例」として各種のセミナーで紹介され、2026年7月にはいよいよ『第3回全国オーガニック給食フォーラム』の開催地となります。

その背景に横たわる反医療思想や反農薬運動、疑似科学や陰謀論の強い影響は、周囲の誰からも問題にされることなく、あるいは声を上げることが許されない環境のなかで、どこまでも不可視化されています。オーガニック講座の炎上など、まるで最初から存在しなかったかのようです。

国や公的機関、メディアが小山市のようなケースを不問にし続ける限り、残念ながらオーガニック給食は疑似科学やポピュリズムから切り離されることはないでしょう。私たちが今見ている光景は、子供達の教育現場がそれらに蹂躙されることを許すかどうか、その瀬戸際です。

 

参考・出典

(※1)オーガニックアンテナショップ「HARETARA」関連記事
 ・広報おやま2023年9月号
 ・『オーガニックビレッジ宣言都市』探訪 -栃木県小山市編-(日本有機農産物協会)
(※2)浅野正富小山市長による映画「タネは誰のもの」ご挨拶(小山っ子ちゃんねる)
(※3)オーガニックってなあに? 医師が伝える、親子で笑顔になれる食と暮らし(小山っ子ちゃんねる)
(※4)オーガニック野菜がどうしても必要だ! 和ビーガンシェフ 本道佳子が小山に来る(小山っ子ちゃんねる)
(※5)乳児湿疹やアトピー性皮膚炎に対する実践的な対処法(自然派医師・本間真二郎オフィシャルサイト)
(※6)令和6年第5回小山市議会定例会

 

【オーガニック問題研究会マンスリーレポート】記事一覧

筆者

熊宮渉(ダイアログファーム代表)

 

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