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Vol.11 「音響栽培」と「水伝」のグラデーション【不思議食品・観察記】

コラム・マンガ

科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々や、その沼にはまった住人たちをウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは「音響栽培」(とその周辺)。植物や家畜に「音楽」を聞かせるという、情緒あふれる取り組みを観察します。

モーツァルトもビックリ!音響栽培

「牛舎に般若心境を流したら、牛乳に含まれるカルシウム値がアップ。ところが牛から後光が放たれはじめた。これは悟りを開いて、生産活動から解脱を始めてしまうのでは……。想定外の副作用が出るため、実験は中止された」(2022年12月16日掲載の記事を要約)

言わずもがな、みんな大好き「虚構新聞」(「実際にありそうで実は存在しない」ネタを、ニュースとして掲載しているサイト)です。

音楽が生き物にいい影響を与える場合があることから、畜産や農耕、醸造の現場で生き物、作物、菌に音楽を聞かせる「音響栽培」という取り組みがあります。虚構ニュースは、コレをいじったもの。ちなみに音楽によって成長(もしくは熟成や発酵)が促されるのは情緒の話ではなく、科学的裏付けがあることが知られています。植物や微生物の場合は、音楽を流すことで生じる振動が刺激となるからだとか。

その効果及び付加価値を狙った商品が、今や盛りだくさん。

ミュージックバナナにクラシックポーク、クラシックしいたけ、クラシックブドウ、クラシック苺、モーツァルト牛乳、モーツァルト野菜。音楽育ちの「コマツ〜ナ」に「踊ら米か」。サンリオもびっくりの「米メロディ」。酵母にクラシックを聴かせるパン屋。モーツァルトを聴かせながら仕込む「加振酒」。ベートーベンの音楽を聞かせて発酵させる「ジャジャジャ醤(ジャン)」。

音響栽培で採用される音楽の多くはクラシックですが、もちろん他ジャンルも採用されています。「石笛」の音色を納豆菌に聴かせ、発酵させた納豆(味わいが「浄品」なんだとか)。ロックを聴かせた味噌に、酵母にラップを聴かせるビール、レゲエの重低音で肉厚になると謳われた「ラガマッシュ(レゲエきのこ)」等々。

ぶっちゃけ振動が発生すれば、マッサージ機でもなんでもいいんじゃね? なんて思ってしまう、幅広さです。

それでも「音楽を聴かせる」と、擬人化的に表現するのは、情緒ある物語で、癒しの付加価値をつけたい狙いがあるからでしょう。しかも直接食品に手を加えるワケではないので、生産側も消費側も安心安全。癒しに加え、生産の効率化や栄養価の高さに結び付けば、ひと手間かけるかいがあるというもの。音楽を聴かせた結果、栄養価が上がったという「モーツァルト牛乳」は、コロナ禍による消費者の健康意識で需要が増え、売り上げが伸びたというニュースもありました。

ネタ感が強く、つい物欲を刺激されたのは「爆音米」でした。石川県の航空自衛隊小松基地の祭りで、過去に販売されたものです。戦闘機の爆音を聞いて育った米は、美味しいに違いないという発想から作られた商品のようですが、確かに振動はバッチリ伝わっているでしょう。類似商品では、航空自衛隊新田原基地の滑走路の前にある茶園の「爆音緑茶」も。こちらは「科学的な根拠はございませんが、味わいも力強い『ストロングな味』になっている気がします」と説明されています。ストロングな味を楽しむには、熱湯で煎れる心がけも必要そうです。

出た!「水伝」要素の強い謎食品

さて、ここまでは興味深く面白いものの、当連載のタイトル「謎食品」には該当しません。

似ているようで、少し(大分?)違うもの。それは「水伝」要素が強くなる場合です。

「水伝」とは『水からの伝言』の俗称。水にポジティブな言葉をかけると美しい結晶となり、汚い言葉を投げかけると崩れた結晶になると主張されたアートです。ところが「いい話」として教育現場に入り込み、「私たちの体の約70%は水分なのだから、美しい言葉を使いましょう」という指導に発展。科学と思想がごっちゃにされ、疑似科学案件としてひと昔前に物議を醸したものです。もちろん、今でも水伝を語る人は健在です。

ここから発生した「ありがとうリンゴ」もありました。ありがとうと語りかけたリンゴより、馬鹿野郎など罵声を浴びさせたりんごのほうが早く腐るというシロモノ。単純に罵声は唾が飛びやすく、雑菌の付着度が高くて腐ったというだけでしょうが、それを鑑みてきちんとラップで食品を覆って試す人も現れる展開に。

この「ありがとう」を、菓子の製造現場で取り入れているのが一部で大変有名な「麦ふぁ〜」です。懐かしいおいしさのバニラ風味ウェハースですが、保育園児50人ほどが一斉に『ありがとう』とあいさつする声を録音したものを、工場で24時間繰り返しMDで流して製造するという珍品です。2016年に公開されたインタビュー記事では「お酒にモーツァルトを聴かせる取り組みにヒントを得て、ありがとうの声を聞かせるようになった」と語られています。

他社の発酵食品などはタンクに音を伝える装置で刺激が加わる工夫が取り入れられているようですが、麦ふぁ〜の場合は精製された小麦粉等の材料が混ぜ合わされ、焼かれる工程のどこに音楽をどう作用させるのか、未知数すぎです(ちなみにスピーカーは、工場内のドア上に設置されている画像がありました)。単純に菓子よりも、従業員に影響が及びそう。かつては従業員が「ありがとう」と言い続けると、給料プラス手当が出る制度があったという情報もあります。想像するだけで、「ありがとう」がゲシュタルト崩壊。これぞ、キングオブ謎食品。アマゾンで「ソーラーマニ車」なる商品を見かけたことがありますが、「ありがとう」も同じシステムの採用をオススメしたくなります。

他にも、小動物のエサとしてのコオロギ養殖にも水伝要素が見つかりました。フルーツに言葉を投げかけると腐敗具合が変わるという話を引き合いに(ここが水伝)、「言葉や音楽は動物や植物に大きな影響を与える!」とチャイコスキーを聞かせたコオロギを販売しているショップがあるのです。当コラムで前回ご紹介したように、世の昆虫食ブームは猫も杓子もコオロギ一辺倒。ヒトの食用昆虫に、この手の謎食品が進出してきませんように……(昆虫食陰謀論がまた別の魔界へ移行してしまう)。

「味噌にクラシックを聴かせる」という取り組みでも、やはり水伝気配漂うものを確認。イチゴ農家をディスって炎上(後に謝罪)した某メーカーでは「麹菌も音楽を聴いてリラックスしたり、心地良い環境で熟成すると喜ぶかな?」という発想から聞かせているとHPにありましたので、振動を伝える装置の有無はわからずじまいで、こちらも情緒面を重視しているのかもしれません。

怪しげな健康法や霊感商法にひっかかる素地

昔の人が経験則でやっていたことが、後に科学的根拠が判明した。理にかなっていたと、詳しいしくみが発見されるのは、とてもエキサイティングです。「雷が落ちるとキノコが豊作になる」という古くからの言い伝えも、キノコ栽培の増収を目指して電圧を加えるなどの各種実験が行われているよう。だからなんとなくの言い伝えや水伝的発想で、生産物に音楽を聞かせてもいいじゃないか。何の悪影響があるものでもなし、現場もリラックスしそうだし。そう考える人もいるでしょう。

当然、世の中の仕組みの全てが科学で解明できるわけではありません。それを前提にしつつも、情緒ありきの水伝的なものを素直に受け取りすぎると、怪しげな健康法や霊感商法にひっかかる素地が作られていきそうなのが怖いところ。実際そうした実例もよく耳にしています(もちろんそうしたトラブルは複数の要素があるのが前提で、水伝に「全て」の責任があるわけではありませんが)。

どんな世界でも、色々なものが混ざり合い繋がりあって、グラデーションが形成されています。振動が刺激になる仕組みを熟知している人でも「菌が音楽で喜んでいる」と感じて嬉しくなったり、ビジネス的にあえて情緒と神秘を強調しているケースがあるかもしれません。逆に送り手が100%水伝思想でやっていても、「大手メーカーもやっている根拠ある取り組み」と納得する消費者もいるのかも。

そうした中で、私たちの日常に知らず知らずに謎食品の世界観が入り込んでいる。それ自体は普通のことなのに、「うわ出た!」と思ってしまうのはなぜか。それはやはり、疑似科学を教育現場に取り入れる困った実例があったり、目に見えない世界をいいように利用する悪徳商法の被害が目立つからなのでしょう。水伝を純粋に楽しめないのは、それをろくでもないことに利用する界隈のせい。決して、筆者の心が狭いからではないのです(ホントかな)。

【不思議食品・観察記】記事一覧

筆者

山田ノジル

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