TwitteアイコンFacebookアイコンユーザーボイス 取材リクエスト リクエスト回答 寄付のお願い メルマガ AGRI FACTとは

ハザード(ゼロリスク)規制の落とし穴!-「予防原則」に従ったゼロリスク農薬規制にはらむ危険性

ニュース

予防原則に従って「疑わしき化学物質や農薬はすべて規制する」という考え方には大いに問題がある。世界には、ハザードとリスクを混同して「one-size-fits-all(画一的な)アプローチ」で規制したことにより、かえって混乱を招き、社会や消費者に不利益が生じた事例が数多く存在する。ハザードとリスクの違いについても説明する。

安全基準を考慮せずグリホサートを禁止すると価格の上昇が起こり得る

各国政府は「one-size-fits-all(画一的な)アプローチ」で規制を成立させてきた。しかし、このアプローチは消費者の選択肢を制限していることも考えられる。ここでは、画一的なアプローチが、消費者の期待を裏切った事例を取り上げ、その理由を説明する。

ここ数年、グリホサート(除草剤ラウンドアップの有効成分)が食品中に残留していたことの懸念が大きな話題となっている。オーガニックビールやワインからごく少量のグリホサートが検出されたことや、小麦やオーツ麦などの穀物、植物種子油の原料となるキャノーラやヒマワリなどの収穫前に使用されるグリホサートが食品中からわずかに検出されたとして、多くのメディアの関心を集めてきた。

しかし、ビールやワインから検出された量は、米国環境保護庁(EPA)が定める残留基準値の100分の1以下であり、人の体への危険性は極めて低い。にもかかわらず、(政策立案者は非科学的なポピュリズムに抗しきれずに(農薬の安全性はこうして保たれている – グリホサートの真実とは2【完全版】(vol.11)を参照 )グリホサートを禁止しようとしている。これが実現した場合、作物の収穫量が減少し、ビールやワインの価格がさらに上昇することは避けられない。

みつばちの減少を農薬のせいにすると問題が悪化する可能性も

ネオニコチノイド系農薬によってみつばちの個体数が減少するという説がある。みつばちの個体数の減少の原因は、単独ではなく複数にわたっている(みつばちを守れと叫ぶ人々は本当にみつばちを愛しているのか問題を参照)) が、その主な原因はバラダニとそれが運ぶウイルスだとされており、栄養状態も大きな原因の一つだと考えられている。

実際に、米国農務省のみつばち研究者は、「ミツバチのコロニーを殺しているもののトップ10リストがあるとすれば、私は農薬を11番目に置くだろう」と言う。にもかかわらず、画一的なアプローチで農薬の使用を禁止してしまうと、ダニが増え、みつばちのコロニーを傷つけ、問題を悪化させる可能性すら考えられる。

ネオニコチノイドの禁止で混乱が生じたフランス

除草剤、殺虫剤、殺菌剤などを含めた農薬とその科学的な知見にもとづく使用規制は、安定的に安全な食を確保するために不可欠なものである。

フランスでは、ネオニコチノイド系殺虫剤を段階的に廃止した結果、テンサイ農家は崩壊寸前となり、価格も爆発的に上昇した。フランス政府は、この混乱により3年間のネオニコチノイドの解禁を決定した。

欧州の食品安全機関は、これらの化学物質の安全性について科学的な分析を行っている。しかし、このような科学的根拠のない禁止令はきわめて政治的なものであり、消費者を苦しめるだけである。

また、規制は同様に合理的とは言えない矛盾を生じさせることもある。例えば、ワインを農薬としてブドウ園に散布した場合、EUの法律では禁止される。なぜなら、アルコールは高いレベルで摂取すると、かなり強力な発がん性物質であることが知られているからだ。おかしい話だが、このようなことはすべて、予防原則の一貫性のない歪んだ適用によって合理化される。

化学物質の一律禁止は患者を危険にさらす

人工物や化学物質を一律に有害だとする声もある。しかし、人工化学化合物は、医療現場には不可欠で、耐汚染性のガウンやドレープ、埋め込み型医療機器、ステントグラフト、心臓パッチ、無菌容器フィルター、針回収システム、気管切開、腹腔鏡検査用カテーテルガイドワイヤー、吸入器キャニスターコーティングなどなくてはならない。それぞれの用途に関連するリスクを評価することなく、これらすべての化学物質を有害とすることは、救命医療技術を危険にさらし、患者の安全を危険にさらすことになる。

PFASの禁止はサプライチェーンの混乱を招く

米国では、PFAS(註:ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物で電化製品、衣類などに含まれるフッ素有機化合物であり、PFOS、PFOA、PFHxS、GenXなど化学物質を含む人工化学物質群のこと)に関する規制が強まっている。

この規制がこのまま進めば、大多数のアメリカ人が毎日使っているスマートフォン市場が大きく損なわれることになる。携帯電話や5G技術の発展に伴い、より小型でより高速な通信が求められる中、これらの化合物は、半導体の製造からクラウドコンピューティングのデータセンターの冷却に至るまで、あらゆる場面で関わっている。これらの化学物質を生産工程から強制的に排除することは、サプライチェーンを大幅に混乱させ、コストを膨らませ、低所得者に最も大きな打撃を与えることになるだろう。

ハザードとリスクの違い

「one-size-fits-all(画一的な)アプローチ」の多くは、ハザードとリスクの違いを正しく理解できていない(化学物質が身体に悪いかどうかは量で決まる – グリホサートの真実とは2【完全版】(vol.9)  発がん性評価に使用したデータの質に大きな差 IARCだけが各国規制機関と見解が分かれた要因を読み解く)ことに集約される。これは、政策立案者が消費者や公衆衛生の保護を目的とした法律を作成する際に、非常に重要である。

リスクベースの規制では、ハザードのばく露量を考慮する。例えば、海水浴に行くときに太陽光(紫外線)は危険だとされる一方、太陽光によって体内でビタミンDを生成するメリットもある。そのため、人間の健康にとってある程度の太陽光は不可欠だ。

何事もそうだが、大切なのは「太陽光を浴びる量」である。太陽光についてハザードベースの規制的アプローチをする場合、私たち全員が屋内に閉じ込められ、海水浴はすべて禁止されるだろう。あるいは、海水浴に来ている全員に日焼け止めを塗って露出しないように注意喚起する。その結果どうなるだろうか。人間の健康を守るどころか、害を及ぼすことつながる可能性すらあるのだ。

ハザードベースで規制を提唱する人は、ゼロリスクが証明できない農薬や化学物質は、どんなに非現実的でも予防原則に従い、すべて違法とすることを支持しているのである。

しかし、この基準を一貫して適用すれば、あらゆる有機食品、あらゆる救命薬品、さらにはあらゆる天然・合成物質をも違法となってしまう。「リスク=ハザード×ばく露量」の方程式の重要性を無視したハザードベースの規制は、科学的に健全な政策決定アプローチに従ったものではない「予防原則」に従ったゼロリスク農薬規制にはらむ危険性

『リスクとハザードの違い』

原文

なぜ「ハザードベース」の農薬規制はうまくいかないのか(Consumer Choice Center, 2021年11月11日公開) より翻訳・編集

関連記事

Facebook

ランキング(月間)

  1. 1

    日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する

  2. 2

    学校給食を有機に!というトンデモ(前編):11杯目【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】

  3. 3

    ラウンドアップはなぜ風評被害に遭っているのか?【解説】

  4. 4

    【誤り】発がん性のある除草剤グリホサート 藤田和芳氏(オイシックス・ラ・大地㈱代表取締役会長)

  5. 5

    第20回 有機農業50年の歴史から考える「なぜ怒りを手放せないのか」【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP