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第6回 改正種苗法と農業競争力強化支援法は“種子の売り渡し”なのか【鈴木宣弘氏の食品・農業言説を検証する】

特集

農と食を支える多様なプロフェッショナルの合理的で科学的な判断と行動を「今だけ、金だけ、自分だけ」などと批判する東京大学の鈴木宣弘教授。その言説は、原典・元資料の誤読や意図的な省略・改変、恣意的なデータ操作に依拠して農業不安を煽るものが多い。AGRI FACTはブロガー晴川雨読氏の協力を得て、鈴木教授の検証記事をシリーズで掲載する。第6回は種子法廃止、種苗法改正とセットで語られる鈴木氏の農業競争力強化支援法に対する批判言説を取り上げる。

農業競争力強化支援法を都合よく切り取り

今回取り上げる鈴木氏の言説は「種苗法改正」(2022年4月1日に改正種苗法が完全施行)の是非について論じた、

「国会審議で見えた種苗法改定の真の狙い~論点の再整理」(JAcom 2020年11月24日)である。不正確な情報の多いコラムなのだが、2つに絞って検証する。

【種苗法改正で日本農業はよくなる】第1回~第8回も参照

論点1 種苗の海外流出の防止は自家増殖を制限するという種苗法改定の建前であり、真の目的ではない。なぜなら、農家の自家増殖が海外流出につながった事例は確認されておらず、海外流出防止の手段は自家増殖の制限ではない。

論点2 いちご、ぶどう、さくらんぼなどが海外流出したのを問題視しながら、一方で、農業競争力強化支援法8条4項で、コメ麦大豆の種の知見を海外企業も含む民間企業へ譲渡せよと要請したのは、海外流出を促進することになり、完全な矛盾である。

論点2にある「譲渡せよと要請」は日本語の表現としてどうかと思うが、ここではスルーする。この農業競争力強化支援法8条4項の規定をもってくるのは種苗法改正に反対する人たちの常套句である。

鈴木氏は“知見”とは書いているが、文脈的には「登録品種の育成者権」あるいは「新品種開発にともなう高度なノウハウ」を指すと読み取れる。それを「民間企業へ譲渡せよ」と規定したとんでもない法律だというわけだ。

もちろん虚偽である。「農業競争力強化支援法」の第8条4項の原文はこうなっている。

第8条 国は、良質かつ低廉な農業資材の供給を実現する上で必要な事業環境の整備のため、次に掲げる措置その他の措置を講ずるものとする。
<中略>
4 種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること。

何の知見を民間企業に提供するかというと「種苗の生産に関する知見」であり、種を取るために栽培する時の技術などを民間に提供しましょうと言っているだけなのだ。

グローバル種子企業に種を売り渡すことはない

念のため「生産に関する知見」の範囲とその提供先について、国会答弁から引用する。葉梨康弘農林水産副大臣の発言

「農業競争力強化支援法第八条の規定ですが、これは、民間に種子を売り渡すとかそういうことではございませんで、当然、農研機構はしっかり予算をする、それから都道府県に対しては地方交付税措置をするということで、そちらもしっかりやるんですけれども、民間にもそういう知見を提供することで種子の開発をちゃんとやっていただこうということなんです。

その運用ですけれども、知見を渡す側の都道府県それから農研機構に対しては、これは通達ですが、重要な知見が流出することがないように利用目的をよく確認し、目的外使用や第三者譲渡の禁止を盛り込んだ利用契約を結ぶことなどを、通知を出しまして、指導、徹底しております。

そして、同法の施行後、都道府県、農研機構は、目的外使用や第三者譲渡の禁止を利用者との契約に盛り込んでいます。この法律によって海外の外資系企業に知見が流出したという事例はございませんし、また、今後も適切に運用をしてまいりたいというふうに考えています。」

「知見の民間事業者への提供とは具体的に何をどのようにするのか」という質問に対しても柄澤彰農林水産省政策統括官は、次のように答弁している

「民間事業者による種子生産への参入を促進するために、品種自体の情報はもとより、今申し上げたサイクルの中で、都道府県などが得られておられます原種・原原種圃の設置の技術、あるいは高品質な種子を生産するための栽培技術、さらには種子の品質を測定するための技術、こういったような知見につきまして民間事業者に提供を促進していくという考え方でございます。

ただ、もとよりこの知見の提供については強制するものではございませんし、あくまでも我が国農業全体に良い影響を与えるかどうかという観点で行っていただくように促してまいりたいと存じます。」

さらに、知見の提供が無償かとの質問に対しての山本有二農林水産大臣の答弁

「これは有償で提供することになっておりますので、これまでも有償でございました。将来にわたっても有償でございます。」

農業競争力強化支援法8条4項の規定をまとめると、

・提供する知見とは、原原種・原種の生産技術、測定技術を指し、種子を売り渡し(育成者権の譲渡)や知的所有権の譲渡ではない
・知見の提供は有償
・知見の提供の際には、目的外以外利用・第三者譲渡(海外流出を含む)の条項を含む契約を結ばせるよう通達を出している

鈴木氏の「改正種苗法と農業競争力強化支援法8条4項の規定」を無理やり結び付け「種の知見を海外企業も含む民間企業へ売り渡す」という趣旨の言説は、法解釈・運用とかけ離れた根拠のないものである。

*晴川雨読氏のブログ「学術会議廃止すべき理由は鈴木宣弘教授のコラム読めばわかる」(2020年11月25日)「農業関係で胡散臭い人の見分け方」(2021年02月07日)を併せてAGRI FACT編集部が編集した。

第7回へつづく

【特集 鈴木宣弘氏の食品・農業言説を検証する】記事一覧

協力

晴川雨読(せいせんうどく)

 

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