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「トンデモハンターがカルト報道を見て思ったこと」:25杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

私は、以前から農業と食の風評を調べることを仕事の一つとしてきました。主に追う農業トンデモは、不正確な情報で不安を煽り、社会通念と大きく異なる概念を植え付けるものです。おまけに変な健康ビジネスに結びつけるという点でまさにカルト的でしょう。過去のコラムでもそうしたやり方を「カルト」と表現してきました。そう考えると、私もある意味カルト問題に関心を持っていたともいえます。

スルーしていたカルト問題

カルトはカルトでも、テロ事件をきっかけに最近急に熱を帯びたカルト問題は基本的にスルーしていました。
理由はいくつかあって、社会に与える影響が農業トンデモと簡単に比べられないからです。
そして、実行犯の供述とされる情報がどこまで正確なのかわからないからです。

しかし、いちばんの理由は、暴力で訴えようとした主張を聞くのに抵抗があったからです。
それと同時に、事件をきっかけに報道やSNSなどで突然沸き上がったカルト糾弾の流れにも抵抗がありました。

もちろん、事件の前からこの問題を追っていた人もいるので、その人たちが言うのはわかります。
でも、今まで関心のなかった層が事件後急にカルトを糾弾し始める様子を見ていると、まるでテロ実行犯の呼びかけに応じているように思えますし、次の暴力を容認しているようにも思えたのです。

カルトには厳しい立場

そうしているうちに、今度は「(特定の団体との)つながりを絶て」という声も大きくなってきました。
政治家がつながりを絶って、企業もつながりを絶てば、あっという間に社会からのつながりが絶たれるでしょう。

でもまあ、気持ちはわかります。
私も、怪しい活動家団体が自治体に働きかけて活動しているのは嫌ですし、変な健康系マルチ商法のグループの代表が「勉強会の会場に使わせてほしい」と私のお店にやってきたときも「いやー、マルチとは関わるのは嫌ですね(笑)」と言ってきっぱり断ったこともあります。
ですので、私自身カルト的なものには厳しめな方だと思っています。

カルトを排除せず、明るみに出しては

でも、カルト的なものを社会から完全に絶つことってできるのかな?と思うわけです。
先ほど述べた活動家団体には私の友だちも入っていますし、マルチ商法グループの代表は会場提供を断られた後も普通のお客さんとしてお店に来てくれています。
“つながりを絶つ”と簡単に言っても、たぶんなかなか大変だと思うんです。

いや、もし完全につながりを絶つことができたらそれはそれで怖いです。
カルト的な団体は、割とすぐに地下に潜って先鋭化する印象があるからです。
そうなってしまうと問題は大きくなりますし、うっかりハマってしまった人が一般社会に戻って来にくくなってしまいます。
そうなっては大変です。

なので、私としては社会から排除したり禁止するよりも、逆に光を当てて明るみに出す方が良いと思うんです。
これは、過去にコラムで農業トンデモについて書いたものとほぼ同じ考えです。

特定のものだけを扱わずに幅広く

そもそも、カルト(的なもの)って無数にあると思うんです。
特定の新興宗教だけでなく、変なビジネスだったり、極端な思想のあつまりだったり、公安に注目されている団体だったり、農業・医療トンデモだったり、挙げればきりがありません。

次々となんでも「カルト認定しよう」とは言いませんが、特定の団体だけを問題視していたら、「それ以外は大丈夫!」というお墨付きを与えることになりそうで、そのほかの無数に散らばる問題を見えにくくする恐れもあります。
もしカルト被害者のことをまじめに考えるなら、当然こうしたことも幅広く考える必要があるでしょう。

でも、そうするともしかしたら今率先して問題を追及している人たち自身にも飛び火する可能性だってあります。
人生を費やしリスクを負ってこの問題を追っていた人ならまだしも、突然この問題に関心を持ち、急に先頭に立って厳しい声を上げている人たちにその覚悟があるのかどうかは不明です。

排除以外の方法で対処を

このように考えていると、カルト的なものを無理して社会から排除するのはいろいろ大変だと思うのです。
もちろん、違法な行為を野放しにするのは良くないですし、政治家が過度に便宜を図ることは問題です。

ですが、社会から排除するという短絡的な方法に頼らなくても、幸運なことに今の世の中にはすでにいろいろな仕組みがあります。
違法な商法を取り締まる法律もありますし、特定の団体に便宜を図る政治家に答えを出す選挙制度もありますし、それでも見えにくい部分には光を当てるジャーナリストもいます。

こうしたやり方は簡単ではないかもしれません。
ですが、何かの問題を解決するために簡単に誰かを社会から排除するようになると、自分も社会から排除されることを恐れなければならなくなります。

こうした悲劇は長い歴史の中で幾度となく繰り返されてきました。
そのたびに先人たちは知恵を出し合い、法律を作り、選挙制度を作り、(不完全ですが)運用してきました。
何かを糾弾するときは、積み上げられた知恵を思い出したいものです。

今回はこんな意見を述べましたが、何かを恐れて自分の周りから遠ざけたくなる気持ちはわかります。
私にも同じような感情があるからです。
ですので、誰も批判する気持ちはありません。
もし批判する人物がいるとすれば、それは法に背いて暴力に訴えた者だけです。

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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