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『週刊新潮』(2020年4月23日号)掲載 グリホサート/ラウンドアップに関する記述を徹底検証2
週刊新潮(2020年4月23日号)に、『特集「食」と「病」』第6回の記事が掲載されました。その中のラウンドアップ及びグリホサート(ラウンドアップの有効成分)について、科学的事実に反する記述が数多く見られました。そこで個々の内容についてQ&A形式で検証し、科学的エビデンスに基づき反証していきます(Qのカギ括弧内は記事からの引用・抜粋)。
- Q 「(ラウンドアップは)一部の自閉症の一因となる可能性があります」「米国の疫学研究では、グリホサート暴露と自閉症発症に相関関係があると報告されています」とありますが、科学的な話なのでしょうか。
- Q 「グリホサートはこれ(グリシン受容体)に結合して神経障害を引き起こす可能性がある」「発達障害を引き起こす可能性がある」とありますが、科学的な根拠はあるのでしょうか。
- Q (妊娠中のラットへの投与試験について)「親や仔に影響がなく、孫の世代で、それも低用量でも胎仔の発育不良や胎盤形成異常が起こっています」とありますが、農薬登録にあたって同様の試験はされていないのでしょうか。また、孫の世代にだけに異常があることは起こりえるのでしょうか。
- Q 「グリホサートを主成分とするラウンドアップは動物の腸内細菌に影響を及ぼすことが分かっています(中略)これは人間でも起こることでしょう」、「腸内細菌の異常は、全身の免疫や代謝に異常を起こして免疫疾患を起こしたり、さらに脳にも影響して、一部の自閉症の一因となる可能性があります」とありますが、科学的に証明されている事実なのでしょうか。
- Q ラウンドアップと抗生物質を一緒に散布すると、土壌中の菌がラウンドアップや抗生物質に対して耐性化し、耐性菌だらけになる。「そこで採れる野菜も耐性菌に汚染されるということだろうか」という記述※がありますが、そのような野菜を食べても大丈夫なのでしょうか?
- Q 「2015年、WHOの外部研究機関である国際がん研究機関(IARC)が、グリホサート は「ヒトに対しておそらく発がん性がある」とした。発がん性リスクを5段階のうち2番目に高い危険度で示したのである」とのことですが、やはりグリホサートには発がん性がありますか。
- Q アメリカでの訴訟に関する記述※がありますが、アメリカではグリホサートは危険だと認められたということですか。
- Q 「ワシントン大学の研究チームは『グリホサートにさらされると、がんリスク(非ホジキンリンパ腫など)が41%増大する』と学術誌に発表した。」とあります。やはり発がん性があるのではないですか。
- Q 「日本では水道水に残留するグリホサートの基準値がなく、目標値だけ」さらにその数値も他の農薬や他国と比べて高く、農薬に汚染された水を飲んでいるという記述※があります。水道水は飲んではいけないということですか。
Q 「(ラウンドアップは)一部の自閉症の一因となる可能性があります」「米国の疫学研究では、グリホサート暴露と自閉症発症に相関関係があると報告されています」とありますが、科学的な話なのでしょうか。
A 一部で指摘されている単なる仮説です。しかし、その仮説は間違いと考えられます。グリホサートと自閉症の「因果関係」を証明した科学論文は存在しないからです。
また、Qにある言説は、「相関関係があるとの報告」だけで、あたかも発症の直接的な原因であるかの主張をしています。相関関係と因果関係を混同させるような表現を巧みに使っており、科学的な議論ではありません。
科学的な根拠がはっきりしない話は信用しないこと、たとえ研究論文になっても、その論文の内容が別の論文で確認されるまでは注意深く取り扱うことが大事です。
参考
Q 「グリホサートはこれ(グリシン受容体)に結合して神経障害を引き起こす可能性がある」「発達障害を引き起こす可能性がある」とありますが、科学的な根拠はあるのでしょうか。
A これらは科学的にはあり得ない推論です。
こうした主張をする論文(記事にはその名称は記されていないが、例えば(※1)は、科学的な実験に基づいているわけではありません。現存する論文から「グリホサートに関連するもの」と「人の病気に関連するもの」を拾い集め、非科学的に関連付けているだけです(※2)。
またその論文自体も、他の論文により検証、否定されています。つまり科学的に認められていない主張です。
この3段論法の論理には間違いがあります。まずグリホサートがグリシンと置き換わるのは、実験室の中での人工的な条件下のみであり、生きている生物の体内で、自然の状態では起こったという研究はありません。さらに彼らは発表されていない論文を根拠としていますが、もしその論文が科学的に正しければ、論文として発表され、他の研究者の検証を経ているはずです。
※1『グリホサート、現代病への経路Ⅴ:多種のタンパク質中でのグリシンのアミノ酸類縁体』
※2
命題①:グリホサートはグリシンというアミノ酸を含んでいる。
命題②:人の体のタンパク質には、多くのグリシンが含まれている。
結論:体内でタンパク質が合成されるときに、グリシンではなくグリホサートがタンパク質に組み込まれると、それが原因で多くの病気が引き起こされる。
参考
Q (妊娠中のラットへの投与試験について)「親や仔に影響がなく、孫の世代で、それも低用量でも胎仔の発育不良や胎盤形成異常が起こっています」とありますが、農薬登録にあたって同様の試験はされていないのでしょうか。また、孫の世代にだけに異常があることは起こりえるのでしょうか。
A 農薬登録ごとに試験が行われています。国の専門機関「食品安全委員会」が実施主体となっています。こうした試験は「繁殖毒性試験」と呼ばれています(※)。
食品安全委員会の「グリホサート評価書」によれば、ラットを使用した2世代と3世代の繁殖試験をした結果、親・子世代の繁殖能力に影響はなく、3世代でも毒性所見の発現も認められていません。
もし異常が確認されれば、その化学物質を農薬として使用することは禁止されることになります。3世代を経ても繁殖毒性が発現しなければ、それ以上世代を繰り返して試験を継続しても悪影響が現れることは理論的にはあり得ず、これは実験上も確認されています。
また、孫世代に異常が出るのは「化学物質により遺伝子に異常が起きた場合」です。グリホサートにはそのような作用がないことが複数の遺伝子毒性試験により証明されています。
しかし、なぜQのような主張があるのでしょうか。
これはごく一部の科学者が主張している、グリホサートは何世代か後にエピジェネティックな(従来の遺伝子の動きではなく、遺伝子を制御する部分の働きの異常)影響が出るというものです。その主張の前提となっている実験は特殊なものであり、科学的に正しいという検証を受けていません。
何が特殊かといえば、彼らの実験におけるグリホサートの投与経路が「腹腔内投与」となっている点です。繁殖毒性試験では、グリホサートを腹腔内に注射されることはありません。そのため、その特殊な実験から、人の健康に及ぼる影響について何も証拠は得られていません。
※「繁殖毒性試験」とは:
ラットやマウスなどに化学物質を一定期間投与した後で交配し、親動物の繁殖能力と児動物の発育状況を検査する一世代繁殖試験、さらに投与を継続して孫世代の動物の発育状況まで調べる二世代繁殖試験により、化学物質の作用が調べられます。二世代繁殖試験では、子世代の動物が孫世代の動物を支障なく出産し、児動物が正常に育つことを確認するので、3世代にわたる影響を調べることになります。
参考
Q 「グリホサートを主成分とするラウンドアップは動物の腸内細菌に影響を及ぼすことが分かっています(中略)これは人間でも起こることでしょう」、「腸内細菌の異常は、全身の免疫や代謝に異常を起こして免疫疾患を起こしたり、さらに脳にも影響して、一部の自閉症の一因となる可能性があります」とありますが、科学的に証明されている事実なのでしょうか。
A これは科学的には証明されていない、単なる『仮説』です。まず実験室など限定された条件下において、特定の微生物を対象に実施した実験で、グリホサートが微生物に何らかの影響を及ぼしたことは事実だったとしても、「実際にヒトの腸内でも同じことが起こるだろう」というのは微生物実験の事実から類推される一つの可能性、つまり仮説に過ぎません。ではヒトの腸内で同様の結果が得られるのかといえば、それを証明する研究は存在しないので、仮説は実証されていない=事実ではないということになります。
詳細は、農薬工業会(週刊新潮 第6回2020年4月23日号に関する農薬工業会見解)
https://www.jcpa.or.jp/news/pdf/news_200430_01.pdf をご覧ください。
また腸内細菌の異常が、さまざまな疾患に繋がるという主張も間違いです。引用元はありませんが、おそらく米国のコンピュター研究者であるセネフ博士とサムセル博士の『腸管微生物によるシトクロームP450酵素とアミノ酸生合成のグリホサートによる抑制:現代病への経路』を参照していると考えられます。
彼らはグリホサートの摂取により、化学物質代謝酵素が抑制され、人の消化管内にある微生物叢(そう)によるアミノ酸の生合成が抑制され、その結果さまざまな健康被害が出ると主張していますが、環境に存在するレベルの低濃度のグリホサートが、哺乳動物の消化管内にある微生物に作用したことを証明した研究はありません。つまりは単なる仮説です。
さらに彼らが科学誌に掲載した論文は、英国メスネイジ博士とアントニオ博士により検証され、科学的に否定されています。
参考
Q ラウンドアップと抗生物質を一緒に散布すると、土壌中の菌がラウンドアップや抗生物質に対して耐性化し、耐性菌だらけになる。「そこで採れる野菜も耐性菌に汚染されるということだろうか」という記述※がありますが、そのような野菜を食べても大丈夫なのでしょうか?
※記述の原文(抜粋):ラウンドアップ耐性の大豆でハンバーグを作り、人工肛門を付けた七名の患者さんに食べさせ、三十分おきに二日間、人工肛門から便をとって調べたのです。全員の便からラウンドアップ耐性の菌が出ました。
食べたGM大豆の遺伝子が分解されると、腸内細菌がその一部を切り取って自分の遺伝子に組み込んで、除草剤耐性菌になっちゃうんですね。
(中略)
「低い濃度の抗生物質でもラウンドアップと一緒に散布すると、そこにいる菌が抗生物質やラウンドアップに対して耐性化します。ラウンドアップを散布すると、土の中が耐性菌だらけになる可能性があるということです」
(中略)
そこから採れる野菜も耐性菌に汚染されるということだろうか。
A 大丈夫です。これは仮説の根拠となる事実がまったくない『空想』の主張です。
ラウンドアップ(主成分のグリホサート)への耐性を備えた遺伝子と、抗生物質Aへの耐性を備えた遺伝子、抗生物質Bへの耐性を備えた遺伝子は、その情報・特性がすべて異なります。そのためラウンドアップと抗生物質を一緒に散布したからといって、両方に耐性菌ができるということはあり得ません。
仮に筆者の主張通りであるとすれば、米国の肉牛は、飼料としてGMトウモロコシが与えられているので、牛のふんにはラウンドアップ耐性細菌が含まれているはずです。GMトウモロコシの害虫耐性遺伝子も、その細菌に入り込んで害虫に強い細菌だらけになり、さらに牛が食べている牧草の葉緑素を作っている遺伝子が、その細菌に入り、葉緑素を作る細菌だらけになります。トウモロコシのタンパク質を作る遺伝子も細菌に入って、その結果、細菌がトウモロコシのタンパク質を作るということになってしまいます。まったくあり得ない話です。
これは遺伝子学や細菌学の基本を知らないただの空想ですので、心配は無用です。もちろん除草剤ラウンドアップを使用した畑で栽培された野菜が、耐性菌に汚染されているということはありません。
Q 「2015年、WHOの外部研究機関である国際がん研究機関(IARC)が、グリホサート は「ヒトに対しておそらく発がん性がある」とした。発がん性リスクを5段階のうち2番目に高い危険度で示したのである」とのことですが、やはりグリホサートには発がん性がありますか。
A 国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類は、発がん性の「根拠の強さ」を示すものであり、「発がん性の強さ」や曝露量にもとづく「リスクの大きさ」を示すものではありません。要するに、IARCは発がん性に関連する論文をもとに、注意を促す意図で分類をしているだけです。「そういう論文があるから気をつけましょう」という程度の予防措置だと理解してください。決して、グリホサートが「危険」で、「禁止すべき化学物質」だという意味ではありません。
実際、グリホサートと同分類のグループ2Aには、赤身肉、熱い飲み物、美容・理容など私たちの生活に身近な82種が含まれていますし、「ヒトで発がん性あり」のグループ1(筆者の言葉を借りれば、5段階のうち最も高い危険度)には、ハムやソーセージ等の加工肉など120種が含まれています。IARCは決してそれらを「食べてはいけない」とは主張していません。
さらに2016年には、世界保健機構(WHO)と世界農業機関(FAO)が共同で「グリホサートに発がん性はない」と発表し、IARCの見解を否定しています。IARC以外の世界の規制機関や研究機関も、「グリホサートはヒトに対して発がん性がある可能性が低い」などと結論付けています。
科学的な見地に立つべきIARCは評価にあたって「グリホサートとがんは関係がない」ことを証明した重要な論文を除外していました。これについて、米国でのラウンドアップ裁判に証人として出廷したIARC評価委員長のブレア博士は、もしこの論文を評価に取り入れていれば、「グリホサートにはおそらく発がん性がある」という評価にはならなかったと証言しています。つまり、IARCの評価が間違いであったことを裁判で認めてしまっているのです。
したがって「IARCがグリホサートをグループ2Aに分類したのだから、発がん性がある」という認識は間違っています。このように短絡的に主張する論説には注意してください。
参考
Q アメリカでの訴訟に関する記述※がありますが、アメリカではグリホサートは危険だと認められたということですか。
※記述の原文(抜粋):「カリフォルニア州がグリホサートを発がん性物質のリストに加えると、流れは変わり始めた。当時、末期の非ホジキンリンパ腫と診断されたドウェイン・ジョンソン氏が、原因はかつて校庭整備の仕事で使っていたラウンドアップにあるとしてモンサント社(現在は買収されてドイツのバイエル傘下)を訴えていたが、18年、モンサント社に約2億9000万ドル(約320億円)という巨額の賠償金が課されたのだ。翌年には別の裁判で約8000万ドル(約88億円)、その二ヵ月後に、何と約20億ドル(約2200億円)の賠償金の支払いを命じられ、ドミノ倒しのように敗訴する。(中略)これをきっかけに次々と裁判が起こり、今では5万件を超えています。
A 結論から先に言うと、アメリカの裁判でグリホサートが危険だと認められたわけではありません。
言説には、「カリフォルニア州はグリホサートを発がん性物質のリストに加えると」とありますが、実際は「カリフォルニア州はグリホサートに『発がん性』の表示を義務付けましたが、米国環境保護庁(EPA)は『グリホサートに発がん性はない』として、この表示を禁止しています」が事実です。つまり現在は、グリホサートを主成分とするラウンドアップ関連製品への発がん性の表示は義務付けられていません。
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ではなぜアメリカでは、モンサントを相手取った訴訟が急増しているのでしょうか。それはIARCがグリホサート(ラウンドアップの主成分)をグループ2Aに分類したことをアメリカの弁護士たちがビジネスに利用しはじめ、ラウンドアップ裁判の原告を募集するテレビCMが急増したからです。いわゆる“訴訟ビジネス”です。日本人には馴染みがありませんが、一攫千金の和解金を求める弁護士だけでなく、広告資金を融通するファイナンス会社や訴訟専門のマーケティング会社の暗躍により原告数が急増したという背景があります。
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しかしジョンソン氏の裁判で、実際にモンサントが敗訴した点については、どのように考えればよいでしょうか。裁判ではそもそも、発がん性の有無といった科学的な評価をすることはできませんし、科学的な評価を行う場でもありません。ラウンドアップ裁判は、「原告(この場合はジョンソン氏)が病気になった人身被害」について、「その責任が被告モンサントの故意や過失(不法行為)にあるかどうか」を争うものです。この場合の原告が立証すべき過失とは、ラウンドアップの発がん性のある・なしではなく、ラウンドアップの製造責任者モンサントの過失によって不法行為が成立しているどうか、に限られます。
しかもアメリカの裁判は陪審員制であることも忘れてはいけません。陪審員は科学者ではないので、どちらの主張が科学的あるいは医学的に正しいかを判断することはできません。弁護士たちは、いかに一般人である陪審員の心を揺さぶり、信じさせるかが勝訴のポイントです。原告が勝訴したのは、ラウンドアップの発がん性を証言した証人の方を陪審員が信じたからです。だからといって、ラウンドアップの発がん性が科学的あるいは医学的に「ある」ことをアメリカの裁判所が認めたことにはならないのです。
ちなみにその後、ジョンソン裁判の弁護士がグリホサート製造企業に対して高額の顧問契約を持ち掛け、拒絶すれば裁判に持ち込むと脅迫した罪で連邦捜査局(FBI)に逮捕されるという驚きの展開になりました。
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Q 「ワシントン大学の研究チームは『グリホサートにさらされると、がんリスク(非ホジキンリンパ腫など)が41%増大する』と学術誌に発表した。」とあります。やはり発がん性があるのではないですか。
A この記事の根拠と推察されるのは、疫学調査の研究を解析している論文です。疫学調査の検証手法は、人の生活習慣と病気の関係を調査する方法なのですが、人の生活習慣は実に多種多様であるため、一つの要因を病気の原因として確定することはとても難しいという制約があります。疫学調査でラウンドアップと発がん性の関連を示唆する論文は存在するものの、方法論に疑問点があったり、別の実験方法によりその結論が裏付けられなかったなどの問題があります。
記事の根拠となる論文に関しても、解析方法に問題があると多くの研究者から否定され、また米国環境保護庁(EPA)からは反論の文書が発表されています。つまりグリホサートとがんの因果関係は疫学調査によっても証明されてはいないのです。
詳細は、農薬工業会(週刊新潮 第6回 2020年4月23日号に関する農薬工業会見解)
https://www.jcpa.or.jp/news/pdf/news_200430_01.pdf をご覧ください。
参考
Q 「日本では水道水に残留するグリホサートの基準値がなく、目標値だけ」さらにその数値も他の農薬や他国と比べて高く、農薬に汚染された水を飲んでいるという記述※があります。水道水は飲んではいけないということですか。
※記述の原文(抜粋):ラウンドアップもネオニコと同じで、雨が降ると河川に流れ、やがて水道水に流入する。ところが、日本では水道水に残留するグリホサートの基準値がなく、目標値だけ。 その数値も2mg/L(ppm)と、他の農薬に比べてダントツに高いのだ。(略)ちなみに EU では 0.001ppmだから、日本の水道水は、ラウンドアップの成分がEUより2万倍溶けていても飲めることになる。比較的ゆるいアメリカは0.7ppm。これを超えると「腎臓障害・生殖困難」を引き起こすと警告しているが、日本はこの3倍近くもゆるいのだ。これまで日本の水道水は「安全でおいしい」といわれてきたが、実際は農薬に汚染された水を飲んでいることになる。
A 「農薬に汚染された水」というのは完全な誤りです。日本の水道水は100%安全です。この筆者の言説には、読者を不安にさせる多くのミスリードがあります。
まずは散布されたグリホサートがそのままの濃度で河川、水道水に移行するような印象を与えていますが、実際は2日で半減するスピードで土壌中で減衰していきます。
次に日本の水道水では、高濃度のグリホサート残留基準値・目標値が設定されているように思わせる記述がありますが、この記述にも悪意があります。グリホサートに「基準値」がなく、「目標値」のみである理由は、水質基準値原案(毎日2Lの水道水を一生涯飲んだとしても安全な濃度)がグリホサートの場合は2ppmの10分の1である0.2ppmを超える濃度が水道水から検出されたことがなく、さらに言えば検出される恐れがないからです。実際に、日本の水道水ではグリホサートは0.02ppmを超える濃度の検出例がありません※。
仮にグリホサートのように検出される恐れがないにもかかわらず、基準値が設定されると、水道事業者(例えば各都道府県)は、その濃度を必ず検査しなくてはならず、水道中のすべての物質を検査することは非現実的だからです。基準値は本当に検出される可能性のあるものだけに設定されています。
では目標値はなんのために存在するのでしょうか。筆者は、「その数値(目標値)も2mg/L(ppm)と、他の農薬に比べてダントツに高いのだ」と述べていますが、水質基準値・目標値は「実際に水中に含まれる濃度」ではなく、「どの程度の濃度までなら安全か」という考え方で決められています。要するに、数値が大きいことは、それだけ多くを摂取した場合でも安全だという意味で、グリホサートの目標値が比較的高いのは人体にとって安全性が高いことの裏返しなのです。筆者の言説は目標値と基準値の意味を理解していない、もしくはあえて読者に誤認させるものです。
さらに「農薬に汚染された水」との記述がありますが、分解物を含むグリホサートに関しては、厚生労働省の調査※において、水道水から0.02ppmを超える検出例はありません。さらにその他の119種の農薬についてもほとんど検出例はありません。つまり農薬に汚染された水という主張や表現は、読者の不安を煽るだけの完全な間違いです。読者のためとは言えません。
※2011年(平成23年)年~15年(平成27年)年の5年間、日本全国、延べ2615地点での調査において、 0.02ppm(0.02 mg/L、目標値の1/100) を超過するグリホサートは検出されていません。
厚生労働省 平成29年度水道水及び水道用薬品等に関する調査等一式業務報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000199548.pdf
詳細は、農薬工業会(週刊新潮第6回2020年4月23日号に関する農薬工業会見解)
https://www.jcpa.or.jp/news/pdf/news_200430_01.pdf をご覧ください。