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第2回 なぜ種子法廃止反対論は大多数に“受け入れられない”のか【鈴木宣弘氏の食品・農業言説を検証する】
農と食を支える多様なプロフェッショナルの合理的で科学的な判断と行動を「今だけ、金だけ、自分だけ」などと批判する東京大学の鈴木宣弘教授。その言説は、原典・元資料の誤読や意図的な省略・改変、恣意的なデータ操作に依拠して農業不安を煽るものが多い。AGRI FACTはブロガー晴川雨読氏の協力を得て、鈴木教授の検証記事をシリーズで掲載する。第2回は、一部で反対運動が起こるなか、2018年4月に廃止された種子法廃止反対論の致命的欠陥を取り上げる。
種子法は品種開発とは無関係の法律だった
鈴木氏は2021年7月に『農業消滅――農政の失敗がまねく国家存亡の危機』(平凡社新書)を出版した。同書において著者は、経済のグローバリズムと貿易自由化の進展により日本農業は消滅の危機に瀕するので、より一層の金銭的制度的保護が必要だと主張する。
第2章の「種を制するものは世界を制す」(2刷)では、「種子法(主要農産物種子法)」について以下のように説明している。
「命の要である主要な食料の、その源である良質の種を安く提供するには、民間に任せるのでなく、国が責任を持つ必要があるとの判断から種子法があった。
しかし、これを民間に任せてしまえば、公的に優良種子を開発して、安価に普及させてきた機能が失われてしまうのだ。その分、種子価格は高騰するというのが当然の帰結なのである。
アメリカでも、遺伝子組み換え(GM)種子が急速に拡大した大豆、トウモロコシの種子価格が3倍から4倍に跳ね上がったのに対して、自家採種と公共品種が主流の小麦では、種子価格の上昇は極めて小さいことからも、公的育種の重要性がわかるだろう。」
この言説は、2018年4月1日に廃止された「種子法(主要農産物種子法)」に反対する人たちの基本的なロジックでもある。しかし、法律の趣旨を理解している(条文はわずか8条)人間からは相手にされていない。
当然だ。種子法と種子の開発(品種開発)は無関係だからである。
農林水産省の資料「主要農作物種子法(平成30=2018年4月1日廃止)の概要 」があるので、一部改変(太字ゴシック体)して引用する。赤枠に着目してほしい。
「主要農作物種子法は品種開発後の生産・普及段階の制度として、食糧増産に対応するため、戦後間もない昭和27年に制定され」「品種開発(種子法と無関係)」。
品種開発を担うのは、種子法の廃止前も廃止後も・国の研究機関、・地方公共団体、・民間企業等、であることに変わりはない。
品種開発(育種)と無関係の種子法廃止後に、「公的育種の重要性がわかるだろう」と言われても、わからないのが当然だ。
種子法の目的は“安価な”種子の普及ではない
鈴木氏による種子法の説明には、法律の条文にない文言が勝手に追加されている。
「命の要である主要な食料の、その源である良質の種を安く提供するには、民間に任せるのでなく、国が責任を持つ必要があるとの判断から種子法があった。」
種子法の第一条には何と書いてあるのか。
(目的)
第一条「この法律は、主要農作物の優良な種子の生産及び普及を促進するため、種子の生産についてほ場審査その他の措置を行うことを目的とする。」
“優良な種子”の生産及び普及の促進が目的であって、“安い”とはどこにも書いていない。優良な種子を適切な値段で普及することが目的である。
「アメリカでも、遺伝子組み換え(GM)種子が急速に拡大した大豆、トウモロコシの種子価格が3倍から4倍に跳ね上がったのに対して、自家採種と公共種子が主流の小麦では、種子価格の上昇は極めて小さいことからも、公的育種の重要性がわかるだろう。」
種子法が種子開発と無関係であることは先述したが、ここでも「公的育種」や種子生産とは関係ないことを書いている。公的種子生産と読み替えてもおかしい。
以下の図は鈴木氏の別のコラムから引用したもので、『農業消滅』でも同じ図を使っている。
しかし、コメに関係してアメリカ農務省の資料(17ページ)を見ると「種子コストが高いが、それを補って余りある収量がある」とある。
種子コストが高くなっても、作業効率の向上や収量の増加があり、トータルの収益が上がるならむしろ歓迎する。商売の基本である。種子価格の上昇を見て、それを問題視するのは農業経営も生産現場も知らない農業の素人だけだろう。
晴川雨読氏のブログ「東大農学教授の倫理消滅 ⑥番外編」(2022年06月11日)と「東大農学教授の倫理消滅 ②種編」(2022年01月15日)を併せてAGRI FACT編集部が編集した。
協力晴川雨読(せいせんうどく) |