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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート28〉【ナス農家の直言】

農家の声

今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート28〉」
をテーマに、農家の私が農業デマを紹介していきます。

1.(中)無農薬農薬が効く!?

里山で野菜作りをする某人気番組で、「無農薬農薬」を使った病害虫の防除が話題になっています。
その無農薬農薬とやらの中身は、

  • 特定農薬の「酢」
  • コーヒー殻や焼酎など、特定農薬の検討対象としない安全性の高い自然由来のもの10種類

で、これらの材料をすりつぶして煮詰めて、上澄み液を取ることで完成するようです。

効果のほどは私には分かりませんが……
ここで問題になるのが、自然由来の自家製農薬は、出荷する作物には使用できないことです!
この自作農薬の材料で使用している焼酎やコーヒー殻などは、法で定める場合を除き、農林水産大臣の登録を受けなければ農薬目的での使用はできません。

特定防除資材(特定農薬)について:農林水産省 (maff.go.jp)

家庭菜園で自家消費する分の野菜に、この無農薬農薬を使う分には咎められませんが、プロ農家がこの無農薬農薬を自作して使用した作物を、出荷することはありません。
まず、無農薬農薬という名前が、農薬なのか無農薬なのか紛らわしいです(笑)

2.(二)公営農園は全面的に農薬禁止だ!

「公営の市民農園は全て農薬禁止なのは、政府が農薬を危険だと認識しているから!」

という投稿を見ました。
たしかに、農薬使用を禁止にしている市民農園もあるかもしれませんが、農薬が使用できる市民農園も普通にありますよ?

市民農園全てが、一律全面的に禁止ということはありません。
市民農園が農薬使用禁止の理由は、おそらくですが、農薬使用を巡る市民同士のトラブルなどがあったのではないかと推測します。
隣の区画に農薬が飛散するなどのトラブルを防ぐために、あらかじめルールを作っているのでしょう。
もし市民農園に興味のある方は、事前に農薬使用のルールを確認しておくといいかもしれません。

3.(三)オーガニックは、東京オリンピックのレガシーだ!

「東京オリンピックでオーガニックの作物を!」
「オーガニック野菜は高く評価された!」

東京オリンピックに続くパリ2024オリンピックでは、SDGsのCO2排出量の少ない野菜中心の食事はメディアには取り上げられたものの、オーガニックという言葉をほとんど聞きませんでした。

ここからは私の想像ですが、オリンピックに出場する選手にとっては、食事がオーガニックかどうかよりも、栄養面が適切な量で偏っていないかどうかの方がよほど大事なのではないでしょうか。
オーガニックが世界的に広まるのは、けっこうなことです。
しかし活動家の思惑に従うような普及の仕方を、スポーツやオリンピックに持ち込んでほしくないと思います。

4.(一)発がん性のある人工甘味料を殺虫剤として使っている!

「米フロリダ州では、発がん性があるとされるアスパルテームを殺虫剤として利用している!」
「悪名高い人工甘味料を、農薬として使用するなんて外道だ!」

というXの投稿を見ました。

しかし、この投稿にはコミュニティノート(投稿を補足するためのもの)がついており、
「米国では販売または流通されるすべての農薬 (輸入農薬を含む) はEPAに登録する必要がありますが、EPA及びフロリダ州農業消費者サービス局に殺虫剤としてのアスパルテームに関する情報はありません。」
としています。

つまり、この投稿は事実とは言えない、ということです。
アスパルテームはグリホサートと並ぶくらい、一部界隈では危険視されていてデマも多い添加物です。
農薬も添加物も、正しく知って正しく怖がることが重要です。

5.(左)オーガニックビレッジ宣言をどんどん進めよう!

「どんどんオーガニックビレッジ宣言を進めよう!」

と、盛り上がっている投稿を見かけます。
オーガニックビレッジとは、有機農業の生産から消費まで一貫し、農業者のみならず事業者や地域内外の住民を巻き込んだ地域ぐるみの取組を進める市町村のことです。

オーガニックビレッジのページ:農林水産省 (maff.go.jp)

農水省は、みどりの食料システム戦略を踏まえ、有機農業に地域ぐるみで取り組む産地(オーガニックビレッジ)の創出に取り組む市町村の支援に取り組んでいるようですが……
農家の私としては懐疑的です。
なぜなら、ベースにある緑の食料システム戦略は、欧州の戦略をそのままマネて見切り発車的に施行されてはいますが、
その欧州が掲げていた2050年までの「化学農薬化学肥料50%削減目標」を事実上撤回しているからです。

日本は梯子を外された形になってしまっており、このまま突き進んでいいかどうかは議論すべきだと私は考えます。
オーガニック給食の運動を見ても、怪しいスピリチュアルな団体の陰がちらほら……。
有機栽培を広める活動はけっこうですが、怪しい団体の暗躍を政治活動に取り込むのはやめてほしいですね。

6.(右)根菜は意外と残留農薬が怖い!

「大根やじゃがいもなどの根菜は、農薬は直接かからないけど、土に残留農薬が吸収されるので怖い!」

という投稿を見ましたが、間違いです。
土に混和するタイプの農薬はたしかにありますが、収穫物に残留基準値を越える量の農薬は検出されないはずです。
葉物野菜は直接農薬をかけているから怖い、そのうえ根菜も怖いとなれば、この方は普段何を食べているのでしょうか。
必要以上に残留農薬について怖がらなくても、健康な食生活は送れますよ。

7.(捕)立体農法なら、雑草も生えずに収穫量は爆上がりする!

「除草剤を使わずに、作物の収量を上げる方法がある!」

と、「立体農法」を勧めている方がいました。
立体農法をざっくり説明すると、果樹の下に野菜を植える農法のことです。
同じ畑で果樹の下に野菜を作ることで、耕作面積は同じでも作物の収穫量は上がるという主張は正しく思われるかもしれませんが……
この立体農法が広まらない問題点もあります。
はっきり言いますと、立体農法は作業効率性が悪いのです。

例を挙げると、

  1. 果樹だけに農薬を使いたくても、下にある野菜にも農薬がかかってしまう。結果的に野菜には使用できない農薬を使用しているケースも出て、出荷できなくなる。
  2. 畑を分けて同一の野菜だけ作れば、定植や消毒、収穫などで農業機械が使えるが、果樹の下だと機械が入っていかない。結果的に農作業の効率が悪くなる、などがあります。

立体農法自体を否定するつもりは毛頭ありませんが、この農法が今の慣行栽培以上に普及するとは私は思いません。

8.(遊)有機給食は子どもの学力を上げる!

「石川県が全国学力テストで1位の成績を出したのは、有機学校給食の成果だ!」

と、有機栽培の効用を持ち上げて宣伝する人がいます。
たしかに、石川県が2021年に学力テストで優秀な成績を出したのは事実ですが……
その理由を有機栽培給食とするのは早計過ぎます。
もし有機栽培給食が学力を上げるのであれば、その他の有機栽培給食を取り入れている自治体の成績もトップクラスでないといけませんが、そうはなっていないからです。

石川県の学力の優秀さの理由は、

  • 「対話的な学び」を重視した授業
  • 家庭学習への手厚いサポート
  • 教職員のチームワーク

にあるというのが、専門家の見解です。
専門家の見解の通り、学力の結果にはまず教育システムに理由を求めるのが普通だと思います。

9.(投)農薬の主成分以外は何が入っているか分からない!

「有効成分の20%は記載があるけど、80%は記載されていない!」
「その他の中に、ヤバい成分が入ってるんじゃないか⁉」

と疑う人もいます。
農薬の成分表記のうち、補助成分については農薬登録票の記載に準拠することとなっています。
通常は「水、界面活性剤等……〇〇%」と表示されますが、製剤の組成は企業秘密情報であるため、全ての成分の内訳を公表されてない農薬もあります。
しかし農薬登録の届出を出す際に、その他の成分の内訳を含めて、当然成分の検査は厳しく行われているのです。
https://www.acis.famic.go.jp/shinsei/6006/6006besshi.pdf

以前の私の記事でも紹介した通り、不正ができるような単純な組織図ではないのです。

それでも農薬の補助成分がヤバいという人は、自分で検査してみたらいいのではないでしょうか?

まとめ

「田舎はがんが多い! つまり、野菜は全て食べてはいけない!」
など、論理が飛躍しすぎて大気圏まで突破してしまうようなデマで、オンラインサロンを運営している方がいます。
この方は何を食べているのか、コメントしたかったのですが、反論リプを片っ端からブロックしている「確信犯」なので、これ以上は触れないでおきます。

ここまで言わないと、陰謀論で集客することができなくなっているのでしょうか?
陰謀論界隈も、集客競争が激しくなっているのを感じます。

 

【ナス農家の直言】記事一覧

筆者

ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人)

 

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