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参政党は批判してもケネディJrは英雄視? オーガニック運動の矛盾から見えるものとは【オーガニック問題研究会マンスリーレポート⑨】

オーガニック問題研究会マンスリーレポート

オーガニック食品の事業者などから、参政党に対して「極右・排外主義勢力がオーガニックを利用している」という批判の声が上がっています。しかし、本当に問題は参政党だけにあるのでしょうか? オピニオンリーダーたちの言動からは、オーガニックがすでに右派ポピュリズムや陰謀論コミュニティに取り囲まれている厳しい現状が見えてきます。

オーガニックの英雄がアメリカ社会を破壊する

2025年8月に放映されたNHKスペシャル「イーロン・マスク」は、第二次トランプ政権のもとでテックライトと呼ばれる起業家たちが「DOGE=政府効率化省」を通じてアメリカの社会を破壊していく様を描いた衝撃的な内容でした。(※1)

これと同じことを現在、米国の医療と食の分野で実行しているのが、保健福祉長官に登用されたロバート・F・ケネディJr氏です。

ケネディ氏は元々アメリカ最大規模の反ワクチン団体である「チルドレンズ・ヘルス・ディフェンス」の設立者兼元会長としての出自を持ち、数々の誤情報や陰謀論を広めてきた人物として知られています。

現在のトランプ政権下でケネディ氏は、米国疾病予防管理センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)の全委員を突然解任しました。
東京大学名誉教授の唐木英明氏によれば、その後ケネディ氏が任命した新たな委員はワクチン懐疑派で占められるようになったということです。(※2)

気候変動を否定し、DEI(多様性、公平性、包括性)を蔑み、差別・排外主義・反知性主義を隠そうとしないトランプ政権のもとで、民主的手続きも、科学的知見の蓄積もまるで無視した破壊行為をただ繰り返すケネディ氏の行動は「イーロン・マスク」に登場した「DOGE」と本質的に変わりません。

驚くべきことに、日本のオーガニック運動はこれまで長らくケネディ氏をヒーロー扱いしてきました。

オーガニック運動のオピニオンリーダーとして活躍する山田正彦氏や堤未果氏については、過去の記事でもケネディ氏との関わりを紹介していますが、例えば山田氏は自身が制作する映画にケネディ氏を出演させ、堤氏は寄稿記事でケネディ氏を「ヒーロー」と称賛しています。

つい最近では、立憲民主党の参議院議員であった川田龍平氏が自身のSNSに「日本のケネディJrになるべく全力を尽くします」と投稿したことで、話題になりました。
その後まもなく、川田氏は7月の参院選で落選することになりますが、任期中には「オーガニック給食を全国に実現する議員連盟」の共同代表も務めていました。

参政党は「偽物」だが、ケネディ氏は「本物」なのか?

一方で、前回の記事にも紹介したように、日本では参院選に前後してオーガニック関係の事業者などから参政党を批判する声明が相次いで出されました。

そのこと自体に何か問題があるわけではないのですが、やはり気になるのは、参政党に対しては「排外主義者がオーガニックを利用している」と言いながら、ケネディ氏への支持を表明するようなオーガニック運動のオピニオンリーダーに対しては批判の声が上がってこない点です。

もちろん、参政党は日本国内の政党であり、その政策がより直接的に私たちの生活に影響を及ぼす可能性は高いのですが、それだけでは今ひとつ腑に落ちません。

「私たちのオーガニックを奪われた」と感じる人々にとって、参政党は「偽物」だが、山田氏やケネディ氏は「本物」だと感じているならば、その線引きはどこに存在するのでしょうか。

例えば、医師の内海聡氏は2024年の東京都知事選に出馬し、反医療・オーガニック・排外主義などを掲げて12万票を獲得しましたが、内海氏は山田正彦氏とも長年の親交があり、都知事選出馬の際には山田氏のほか三宅洋平氏、岡本よりたか氏などオーガニック系の著名人も相次いで支持を表明していました。(※3)

障がい者や外国人への差別、偏見を平然と語る内海氏はこれまで、オーガニック運動の「外部」で「偽物」だったのでしょうか。
そうであれば内海氏のみならず、それを支持する山田氏らに対しても批判の声が上がって良さそうなものですが、寡聞にして知りません。

内海氏はその後、政治団体「無所属連合」を立ち上げて2025年の参院選にも挑んでいます。
参政党の躍進によって埋没した印象は拭えませんが、政策や言説は従前から大きく変わっていません。

ママエンジェルスはトランプ・ケネディが大好き

もうひとつ、オーガニック給食運動の現場などに深く入り込みながら、トランプ・ケネディへの支持を隠さない団体が「ママエンジェルス」です。

元々は内海聡氏の「市民がつくる政治の会(旧 日本母親連盟)」と同じルーツを持つ団体ですが(※4)、参政党や内海氏と異なり直接的に政党・政治団体の設立こそしていないものの、反ワクチン・反WHO・オーガニック給食推進などを掲げた活動を全国各地で展開し、影響力を高めてきました。(公式サイトの情報によれば2025年7月現在、登録者数 4,045名、チーム数 352チームとのこと)

ママエンジェルスは国内オーガニック事業者らで構成される政策提言団体「日本オーガニック会議」の執行部会・実行委員会、また「全国オーガニック給食協議会」にも加盟するなど(※5)、堂々と表立ってオーガニック運動・業界にも影響を与えつつありますが、同チェアマンの平山秀善氏は、第二次トランプ政権やケネディ保健福祉長官の政策に対し、文字通り「大はしゃぎ」の投稿を自身のSNSで繰り返しています。

ほかにもママエンジェルスのウェブサイトや関係者の発信を見ていくと、ディープステート陰謀論、自己啓発セミナー、次元上昇をうたう縄文スピリチュアルセミナー、高額な健康商品の販売サイトなどが次々と見つかりますが、やはり「ママエンジェルスにオーガニックを悪用されている」という声はどこからも聞こえてきません。

先の参院選では国民民主党が反ワクチン・オーガニックの須藤元気氏を擁立したことで大きな批判を浴びましたが、その少し前には、代表の玉木雄一郎氏がYouTubeの対談企画にママエンジェルスを迎えたことでも物議を醸しました。
国民民主党の少なからぬ支持層がこれらを「党の信用を毀損し、票を逃がす行為」と見做したためです。

ちなみに本記事執筆時点で確認できるママエンジェルス公式ウェブサイトの最新記事は2025年7月17日「MAMLIA マムリア」と題する短い投稿なのですが、

「かつて日本の東側にあったとされる
母系文明の高度な精神性を持つ小さな大陸
(中略)
MAMLIAの浜辺には数名のママたち👩女性が立って
こちらを見ていた…」

ちょっと何を言っているのかわかりませんね。

参政党の悪魔化は「次の怪物」を育てるだけ

結局のところ、参政党だけを抜き出して批判したところで、オーガニックはすでにこれらの右派ポピュリズムや陰謀論コミュニティに取り囲まれていると言わざるを得ません。

参政党に対するオーガニック関係者からの強烈な拒否反応の背景には、もちろんその政策や言動が第一にあるのだと思いますが、加えて推測するならば、参政党が長年のオーガニック運動に関与してこなかった「新参者」であること、それにも関わらず急速に勢力を伸ばしていることなどから、外部化し悪魔化しやすいという点が大きくはたらいているのではないでしょうか。

利害関係のない相手だからこそ、堂々と「私たちは奪われた側である」という被害者ポジションをとることができるわけです。

参政党の台頭を契機に真摯な自己反省をおこなえば、それと同等の思想やデマを今まで甘んじて受け入れてきた事実に向き合わざるを得なくなります。
とはいえ、参政党を悪魔化していれば無謬の正義の側に立ち続けていられると考えるのであれば大きな間違いです。
そうやって「気まずさ」から目を逸らしているあいだに、また「次の怪物」が大きく育っていくでしょう。

もし、オーガニック関係者がこのような考察に対して不満を感じるのであれば、反論する方法は簡単です。
この記事で名前を挙げた山田正彦氏や堤未果氏、内海聡氏、ママエンジェルスなどに対しても、決然と批判の声を上げれば良いのです。
それがオーガニックの正当な価値を守ることにつながります。

 


(※1)NHKスペシャル イーロン・マスク “アメリカ改革”の深層
(※2)HHS長官のワクチン攻撃に懸念の声 【寄稿】急進的措置に科学界から強い警戒感(東京大学名誉教授 唐木 英明)(ウェルネスデイリーニュース)
(※3)第47回 都知事選から考えるオーガニック問題【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】
(※4)日本母親連盟が「子どもへのマスク強要反対」で文書提出運動を呼びかけ(鈴木エイト)(ハーバービジネスオンライン)
(※5)
2025年度日本オーガニック会議実行委員会・執行部会
全国オーガニック給食協議会(令和5年6月設立)(小山市ウェブサイト)

 

【オーガニック問題研究会マンスリーレポート】記事一覧

筆者

熊宮渉(ダイアログファーム代表)

 

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