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第7回 『消えたコメ』説の幕引き:農水官僚の隠蔽工作と小泉農相の役割【浅川芳裕の農業note】
2025年7月29日に、農林水産省はコメ高騰の原因と農水省の対応を検証した調査結果を公表した。
小泉進次郎農相は「流通ルートの多様化」や「精米歩留まりの低下」などを要因に挙げ、調査の終了を宣言。
だが、この報告は「何が本当の原因だったのか」「誰が責任を負うべきなのか」という根本的な問いを巧妙にすり抜けている。
農水省の統計ミスから始まった
問題の発端は農水省統計部がコメの作況調査を誤り、主食用米の供給量を間違えたことだ。

作況指数の欺瞞がコメ市場を壊した コメ高騰の真犯人は農水省。作況指数の2年連続ミスで不作を隠し、「消えた21万トン」などと供給不足を誤魔化してきた。時代遅れの収穫量予想が市場を混乱させ、価格高騰を招いた。国民の主食が危機に瀕する中、一切責任を取らない。解決策は農水省の統計部解体と、科学的な統計手法導入しかない。 農水省の作況調査は8,000圃場を道府県別の無作為抽出で実施。分散が大きい(品種・地域・微気象・技術差)母集団で代表性が低く、異常気象も反映しない。2023・24年ともに不作だが101(平年並み)と過大評価し、農家・コメ業界を混乱させた。統計学的欠陥で、今もなお市場の信頼性
しかし、主食の根幹を担う数値を間違っても、「ごめんなさい」とは認められないのが農水官僚の体質だ。
「統計局」の誤りを組織ぐるみで隠すため、コメの需要情報を司る「農産局」が“作文”を行い、江藤拓農相(当時)に「コメは足りている!」と発言させた。
一連の作為的な情報提供と世論誘導のはじまりだ。
責任転嫁の“消えたコメ”21万トン
コメ不足の現実が隠しきれなくなると、今度は一転して「消えたコメ21万トン」と喧伝を始める。
コメを隠し、値上げさせているのは業者や農協だと悪者に仕立てあげ、国民の関心をそちらへ逸らしながら、需給情報の帳尻を合わせてきた。
この間、隠蔽工作によって組織を守った農産局の担当課長は、その“功績”によって人事上の出世で報われる。
これが農水省の内部事情だ。
“隠蔽工作”と”改革演出”に都合のよい小泉農相
やがて帳尻合わせも限界を迎える中で、江藤大臣の失言が引き金となり、小泉新農相が就任。
前任者よりも操りやすく、「農業改革」風を演出しやすい小泉氏の登場は、官僚にとって朗報だった。
統計部長はすぐさま動き、小泉農相に「作況指数の廃止」と「衛星・AIを用いた新調査への見直し」を発表させた。
作況調査の誤りを有耶無耶(うやむや)にしたまま、“改革路線”を装うことに成功した格好だ。
原因調査も「責任回避」で着地
さらに、コメ高騰の要因や農水省の対応を検証する調査を「大臣肝煎り」風に立ち上げた。7月29日は発表した結論は、省の責任を回避できる内容に着地させた。
調査担当者に電話取材したところ、コメ高騰の最大要因として「流通ルートの多様化」、とくに「農家の直売増加」を挙げた。
その主因は、2025年・2026年の2年連続の不作による供給不足だが、農水省はいまだにその基本すら認めようとしない。
この期に及んで「農家の直売が増えたせい」とコメ農家に責任転嫁する。
作況指数「101」で平年並みとした公式発表の建前を崩せず、誤りを認められない官僚の体面維持が優先されているのだ。
7月30日の食糧部会でも、問題の本質を覆い隠したままだ。
小泉農相に「需給変動に対応可能な増産体制へ」と改革風な発言をさせるなど、増産をキーワードに新たな“コメ不足解消”ストーリーへと世論誘導を開始した。
“自作自演”の濡れ衣をなかったことに
コメ高騰原因と農水省の対応検証調査の結果としては、農水省は「コメの目詰まりは確認されなかった」と総括し、あたかも中立の立場から誤解を解いたかのように装った。
だが、“消えたコメ”疑惑に端を発した「流通の目詰まり」説そのものが、もともと農水省自身の誘導によって生まれた“自作自演”である。
そのうえで小泉農相に「見直すべきは見直す」と発言させ、反省のポーズだけで体裁を整えた。コメ高騰の犯人扱いをしてきたコメ業界への謝罪もその責任の所在も曖昧にしたままだ。
これがコメ高騰問題の農水省の対応に関する検証結果である。
こうして、責任追及をすり抜けながらも、間接的に“コメ業界は冤罪だった”と対応した感をかすかに漂わせることで、官僚は静かに失態の幕引きを進めているのが現状だ。
隠蔽プレーの最後の舞台装置
そして、統計官僚と農産官僚が連携する隠蔽プレーの神輿に乗るのが、“裸の王様”と化した農水大臣という構図である。
その幕引きの最終章こそが、「コメの安定供給に向けた政府の関係閣僚会議」である。石破首相が議長、小泉農相が副議長を務め、コメ高騰問題の検証と今後のコメ政策の方向性が決められる場だ。
農水省は8月5日の同会議で「コメ高騰の原因調査」結果を報告した。
最初から結論が決まっていた“責任不問”のアリバイ調査の報告が終わり、“官僚の無謬性”が公式化され、晴れて無罪放免となったのだ。
農水省にとって勝利の日であるが、国民には何の意味もない。
参考文献

スーパー最大手のイオンと、コメ卸最大手の神明が、端境期のコメ不足に備えて新商品「二穂の匠」(写真)を投入してきた。米国産米と国産米のブレンドにちなんでのネーミング。4月初旬から全国のイオン系店舗約2000店で発売中とのことだ。何ら根拠も示さず「コメは足りている」と妄言を繰り返す農水省企画課を痛烈に皮肉るような商品だ。 ポイントは、原料割合、量目、価格にある。まず原料割合(ブレンド)。米国産米8割に国産米が2割だ。プレスリリースには、開発意図の説明があった。 「米国産米と国産米のブレンド米を企画しました。今回はSBSを活用し、ブレンド比率を調整することで米国産米の軽やかさと国産米のふ

政府備蓄米(15万t)の第1回放出――スポット相場の反応は冷ややかだった。相場を冷やす決定球とはならなかったからだ。江藤拓農水大臣は、早くも第2回、第3回と連続放出の構えを見せているが、70万t近いとされるコメ不足には効果は期待薄。江藤大臣のXデイは、7月25日の参院選投開票より前になる可能性も出てきた。 〝逆ギレ誤答弁"で墓穴を掘るか Xデイ繰り上げがあるとすれば、江藤大臣の危機管理能力のなさが引き金になる。事態を完全に掌握しているとは言い難い。資質のなさが心配される。 今通常国会は、6月22日に会期終了予定。農水省提出の法案は4本、いずれも対立法案ではないので法案審議そのも

前農相のエトタクこと江藤拓が、あっけなく辞任してしまった。後任に、あの人気者・小泉進次郎がやってきた。農水省内は、就任直後から進次郎の天真爛漫な振る舞いに翻弄されて完全なカオス状態。進次郎の思いつきコメ対策は、いっとき世間の耳目を集めても、早晩確実に破綻すると予告しておこう。 進次郎は、就任して2日目で早くも得意のパフォーマンスを炸裂させる。5月23日のことだ。いきなり楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史と省内で会ったことには度肝を抜かれた。就任祝いの表敬訪問かと思っていたら、4回目となる備蓄米放出の随意契約のことで話し合っていたというのだ。 全農優遇の入札方式で物流の大混乱招く

江藤拓大臣のXデイが一段と現実味を帯びてきた。今回の政府備蓄米の放出は、コメ不足解消にならないからだ。この端境期は昨年以上の混乱に陥ることは確実。それも選挙戦最中に起きる。これが原因で参院選は、与党敗北は必至。江藤大臣が引責辞任に追い込まれるというストーリーだ。 古々米を喰わされた怒りが参院選に向けられる 前回で備蓄米放出前の不足量を集荷数量から推測して60万tと見積もった。あらためて民間在庫量を分析してみたら、それを上回る数字が出てきたのには驚いた。奇しくも2月14日付け日本農業新聞も、同じような結論を示していた(表1)。 民間在庫量に着目すると、政府備蓄米放出を度外視した

11月11日に開催された財務省財政制度等審議会のホームページに「農林水産(参考資料)」としてぶら下がっていた政府備蓄米の放出に関係した資料。「政府備蓄米の運営について」(以下「運営」)と「政府備蓄米放出の基本的なプロセス」(以下「基本的プロセス」)、いずれも農産政策部企画課が作成して財務省に提出したものだ。

江藤拓大臣は7月26日、Xデイがやってくる――参議院選挙の投開票日の翌日だ。農水大臣として国民の主食であるコメの供給責任を果たせず、その影響で与党を過半数割れに追い込んだ責任を問われて詰め腹を切らさられるという意味でのXデイだ。 コメ不足の政治責任 貧乏くじを引かされる 「備蓄米の買い戻し条件付き売り渡し」(貸し付け)の実施が、1月31日の食糧部会で決まった。生産調整失敗による不足分をカバーするための対応措置だ。ややこしい表現を使っているが、放出と何ら変わりがない。これから参院選までの期間、マーケットの関心は、深刻な米不足状態が、その備蓄米放出でを解消するどうかの一点に集まる。本

モノが不足する事態に陥ったら、需要と供給の両面から分析することは、前回の記事で指摘した通り、マーケットでは常識中の常識。その常識通りの分析をせず、米不足の原因を作り、マーケットを大混乱に陥れたのは、農産政策部企画課の大失敗だ。 この問題を追っていて気がついたことがある。失敗を絶対に認めようとしない企画課の、かたくなな態度だ。その証拠のようなのが、一連の説明で「米不足」という表現を使わず「需要増」という表現で事態を誤魔化していることだ。戦線からの「撤退」を「転進」と美辞麗句で言い繕って責任逃れした、どこかの軍隊を思い出す。 企画課に直接質問 米生産量検証は行なったか 企画課の

前回は、突如降って湧いてきた政府備蓄米の貸与問題。現実に起きるのかと心配したが、門前払いに近い状態だった。年末に腸炎で10日以上も寝込んだので、今月は、オムニバス形式で最近のコメ問題を追ってみる。 貸与と交換 主産地で自民党と農協の集まりから瓢箪(ひょうたん)から駒みたいに出てきた話題。秋田では、衆院農林水産委員長の御法川信英代議士が会議に持ち出したり、ホクレンに至っては、貸与はほぼ決定的と言及していた。昨年11月末から12月にかけてのことだった。全中が政界へ広め、農水省がそれを一蹴したという結果になった。 農水省の抵抗ぶりは、全中が広めた「貸与」を使わず、「交換」という表現

前回予告した統計部・作況調査結果に対する「検証のサボタージュ」。 筆者の厳しい指摘に、統計部は馬耳東風と聞き流していたが、そうはいかなくなったみたいだ。生産者、集荷団体、卸売業者、実需者から選ばれた委員がこぞって、調査結果に対する不満をぶちまけてきたからだ。 それも大臣官房新事業・食品産業部が2月16日に開いた「米産業活性化のための意見交換」の場(以下「意見交換会」)だった。いずれその声は、統計部に検証を促し、作況調査の見直しに追い込むことになるだろう。 5年産は作況指数ほど穫れていない 意見交換会は、米行政を所管する農産局ではなくて、大臣官房新事業・食品産業部の所管。同部に

取材も戦闘と同じ。砲撃したら、目標に正しく着弾したかどうか。その確認作業が必要だ。取材の場合なら、指摘した問題点に相手がどう反応したか。その確認作業になる。 マニュアルとサインで着弾確認 前回の記事で水稲作況調査の問題で指摘したのは、次の2点。 【調査マニュアルの欠陥】 これは見事に着弾した。調査に従事する専門調査員向けに配布するのは、統計部作成の「水稲作況調査の実測編」(通称・調査マニュアル)。水稲作況調査は、主食用米に限っているのに、その旨の記述が調査マニュアルにないことを指摘した。生産流通消費統計課は、そのことを素直に認め、「指摘された事実、その通りでした。近く実測編の見

ジンクスは、やはり生きていた。平成に入ってから元号で5のつく年は、不作に見舞われるというジンクスである。 まず平成5年(1993年)産だ。 「平成の大凶作」と、いまも記憶に残る大不作だった。農水省統計部の作況指数は74。クボタがホームページに掲載した「データで見る田んぼ」は、「東北地方では7月・8月で真夏日が1日しかない等の未曾有の冷害の影響」と記述。 次いで作況指数90だった平成15年産(2003年)。「データで見る田んぼ」は、「冷害の影響と、いもち病の全国的な多発の影響」と解説した。 そして令和に入って最初の5がつく令和5年(2023年)産が、それらに次いで3回目の不作

全国各地のスーパーの棚から米が消えてしまった「令和の米騒動」。メディアが伝えない大事な視点がある。農水省が隠し続ける真の原因だ。インバウンド需要の増加や、精米歩留まり低下だけで米不足に陥ったわけではない。そもそも2023年産米が不作だったことが主たる原因だった。 なぜかその不作を農産局農産政策部が見過ごす。「令和の米騒動」はそこから起きてしまったというお粗末な顛末だった。「平成の米騒動」(1993年)が、冷夏が原因で大不作に陥ったのに対し、「令和の米騒動」は、農産政策部の人為的ミスで起きたという点に着目すべきだ。 挙げ句の果てに、そのミスを隠蔽して、農産政策部は主食である米の供給
編集部註:この記事は、浅川芳裕氏のnote 2025年8月2日の記事を許可を得て、一部編集の上、転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は浅川芳裕氏のnoteをご覧ください。
筆者浅川芳裕(農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問) |