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第1回 アメリカの食品添加物が多いと“日本の安全基準が緩和される”のか 【鈴木宣弘氏の食品・農業言説を検証する】

特集

農と食を支える多様なプロフェッショナルの合理的で科学的な判断と行動を「今だけ、金だけ、自分だけ」などと批判する東京大学の鈴木宣弘教授。その言説は、原典・元資料の誤読や意図的な省略・改変、恣意的なデータ操作に依拠して農業不安を煽るものが多い。AGRI FACTはブロガー晴川雨読氏の協力を得て、鈴木教授の検証記事をシリーズで掲載する。第1回は、消費者の不安を煽る材料として喧伝されがちな日米の食品添加物に関する言説を取り上げる。

アメリカが認める食品添加物は3000種類もある!

食品添加物は私たちの食生活を支える大事な化学物質である。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の畝山智香子氏が書いた『食品添加物はなぜ嫌われるのか 食品情報を「正しく」読み解くリテラシー』(DOJIN選書)を読んでいると、鈴木氏の記事(月刊JA 2012年2月号 TPPと「食の安全・安心」 )に疑問を呈する記述を見つけた。

以下に引用する。

「アメリカから日本に農産物を輸送するときのポストハーベスト(収穫後)農薬、食品添加物などの安全基準も、アメリカが採用している緩い基準への調和が求められる可能性がある。食品添加物でいうと、日本では800種類くらいしか認めていないが、アメリカは3,000種類認めているし、農薬の残留基準についても、ものによってはアメリカでは日本の60~80倍も緩い基準が採用されている。こうして日本の多くの安全基準が緩和される可能性がある。」

厚労省基準でも1,600、3,000種類はどこから?

この分野の専門家である畝山氏はまず「食品添加物でいうと、日本では800種類くらいしか認めていないが、アメリカは3,000種類認めている」と述べている、この数字の出典・根拠がわからないという。そのうえで鈴木氏が何らかの計算のもと出していると推察する。

厚生労働省HPで公開されている食品添加物に関する「よくある質問(消費者向け)」 
Q4.食品添加物の海外の基準は日本よりも緩いのですか? にはこうある。
「2021年1月15日現在、日本の食品添加物の数は829品目(香料を含む)あります。
また、米国の添加物の数は、約1,600品目程度(香料を除く)(2013年2月時点)であると考えています。この品目数の中には、(1)果汁や茶など日本では添加物に含まれないものや、(2)日本では1品目として計上されている品目が、米国では、物質ごとに指定され数十品目となっているものが含まれています。」

畝山氏の推察による結論は、アメリカの規制機関が使用を認めている食品添加物が3,000種類もあるのではなく、管理されている食品添加物が日本より多いのではないかということ。一例としてGRASを挙げている。

GRASとは、厚生労働省の「諸外国における食品添加物の規制等に関する調査報告書」によると、
「GRAS物質(Substances Generally Recognized as Safe)と呼ばれるカテゴリーが存在し、一般に安全とみなされる物質(食塩、砂糖、ベーキングパウダー等の食品成分)がここに分類されている(表3-5)。」

昔から使っている普通のもので、日本では3種類しか食品添加物に登録されていないが、アメリカでは38種類あると記し、希少糖の類で日本では食品添加物の指定なしに流通し、アメリカで指定ありという例を畝山氏は同書で挙げている。

厚労省が「日本での食品添加物の品質の規格や使用量の基準は、このような国際的な規格や基準にできるだけ沿うように定めていますが、一方で日本と諸外国ではこれまでの長い食生活や制度の違いなどにより、添加物の定義、対象食品の範囲、使用可能な量などが異なっていることから、単純に比較することはできません」と説明し、畝山氏も述べている通り「単純に数だけ比較しても意味がなく、傾向として食品添加物の指定が多い方が品質管理される対象が多いので安全だろう」と指摘する。

そもそも3,000種類も「認めている」という書き方が著しく不正確だ。厚労省基準の把握数約1,600でもない。GRASの例にあるように、管理対象となっていると表現すべきだろう。
もちろん、鈴木氏が、日米相互で食品添加物の指定有無が異なり、それが実際に流通しているかをすべてチェックしたのなら話は別だが、それをしたとは思えない。

「添加物の定義、対象食品の範囲、使用可能な量などが異なり単純に比較できない」(厚労省の公式見解)日米相互の食品添加物に関する詳細な比較表が明示されていない以上、「ものによってはアメリカでは日本の60~80倍も緩い基準が採用されている。こうして日本の多くの安全基準が緩和される可能性がある。」との指摘にいたっては“検証不能”である。日米で使い方が異なる一部の極端な事例を比較して60~80倍も緩い基準と主張している可能性はあるが、それをもって「日本の多くの安全基準が緩和される可能性がある」と述べるのは早計だろう。いたずらに不安を煽る言説と言わざるを得ない。

*晴川雨読氏のブログ「客観的理由をもとに食品添加物を避けていますか?」(2020年08月07日)をAGRI FACT編集部が編集した。

第2回へつづく

【特集 鈴木宣弘氏の食品・農業言説を検証する】記事一覧

協力

晴川雨読(せいせんうどく)
国立大学理学部化学科卒業後、IT会社に勤務の傍ら、晴川雨読の字の如く、晴れたら川へ行き、天気の悪い日は読書に勤しむ。ライフワークはネットで新聞(日中韓55紙)の社説を斜め読みして、目を引く(胡散臭い、興味深い)ものについてブログを書くこと。事実に基づかない種苗法改正批判の社説を取り上げたことを機に、メディア・大学教授・国会議員をはじめ幅広い方面から農業・食の安全デマが発信されていることを知り、農と食に関するデタラメ本やネット上のコラム等に対する検証(ツッコミ)記事をブログに上げるようになる。ブログURL https://seisenudoku.seesaa.net/

編集担当

AGRI FACT編集部

 

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