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「農業トンデモで不満を表現させようとする人たち」:22杯目【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】

コラム・マンガ

私が今まで参加した農業に関するセミナーや集会には、根拠なく不安を煽るトンデモなものも多くありました。内容を知らないまま参加したものも、初めから知っていて参加したものもありますが、共通して感じたテーマがあります。それは「社会への不満」です。セミナーの講師や、集会の主催者は集まった人たちの不満に巧みに同調し、怒りを増長していたのでした。

わかりやすい悪者を仕立てる

私が体験したところでは、「種子法廃止・種苗法改正でタネが支配される! こんなことが許されるのでしょうか! いますぐ声を上げよう!」という講演会を開いていた国会議員や、「儲け主義の大企業のせいで世の中には危険な食品があふれている!」という趣旨の集会を開いていた自然農ビジネスの主催者などがそうでした。
いずれのケースも、“政府”や“巨大グローバル企業”など、非常にわかりやすい悪者が存在しています。

種苗法などの法律は法律として考える必要がありますし、食の安全は科学的に考える必要があります。
ですが、彼らの多くは「今の政府は間違っている」のようなノリで発信するので、真に受けた人は課題を正確に理解することなく、「不満を表現するツール」として消費してしまいます。
これは、「タネを守ろう!」というグループに参加してみたときに誰も法律の条文を読んでいなかったことや、「残留農薬に不安がある」という市民団体と話したときに残留農薬の基準値の話に全く興味を示さなかったことからも明らかです。
説明しようとしたところ、「政府の言う事だから正しいと言うんですか?」「世の中が今のままでいいと言うんですか?」というちぐはぐな答えが返ってきて会話が成立しなかったことは何度もあります。

トンデモに同調して良いことはない

当然のことながら、私を含めて、どんな人でも社会に不満はありますし、政府の方針に賛成できないこともあります。
ですが、たとえどれだけ世の中に不満があっても、変なトンデモにいちいち同調しても良いことは一つもありません。
「タネが支配される!」という映画や、「食の安全が売り渡される!」という本に触発されたとしても、テーマを全く理解することなく「なんて悪いやつらなんだ!」と怒っても、とばっちりを食らうのは関係ない人です。
種苗法で権利を守られている育種家も、農薬の安全を守っている人も、豪華な椅子にふんぞり返っている権力者ではなく、私たちと同じように日々の仕事に真剣に取り組む普通の人たちなのです。

もちろん、今の農業の世界に問題がないというつもりはありません。コメや野菜の価格下落、資材高騰、石油の安定供給など、ここには書ききれませんが、古いものから新しいものまで問題は多岐にわたります。
なにも変な陰謀論で農業の不安を煽らなくても、本当に解決すべき問題はいたるところにあるのです。

解決すべき問題は複雑

しかしながら、これらの問題にはわかりやすい悪者もなく、明確な解決策も見つかっていません。
また、解決するためにはあらゆる科学技術、経済政策、エネルギー政策、安全保障など、分野を越えた議論や調整が必要になります。
農業に限った話ではありませんが、本当に解決すべき問題は大抵どれも複雑で、解決には根気を要します。

そのため、手っ取り早く耳目を集めたい人は、単純明快で不満や怒りに訴えやすいトンデモを利用するのです。
確かにこのやり方は、賛同者を集めるのに効果的かもしれません。
しかしそれは、無関係な事業者の尊厳を不当に傷つけるだけでなく、本来解決すべき課題を見えにくくしており、全く建設的とは言えないのです。

せめて国の行く末を決める時だけは本当の課題に目を向けたいものですが、実際には逆のことが起こりがちです。
私たちの前でタスキをかけて立っている人がどちらのタイプなのか、話を注意深く聞きたいものです。

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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