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ダブルスタンダード! 発がん物質の有機農業農薬はEU規制の対象外 グリホサートとの取扱いの差が鮮明に!

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アメリカの「Genetic Literacy Project(遺伝子リテラシープロジェクト=GLP)」は、資金の独立性を保ちながらバイオテクノロジーのイノベーションに関する情報を収集・分析し、調査結果を発表している。この記事はGLPの調査結果の一部の抜粋である。EUはグリホサート系除草剤と硫酸銅殺菌剤という二つの汎用農薬に5年間の使用許可を認めた。こと2つの汎用農薬をどのように規制するかという問題について、EUは一方では明確な決定を下し、一方では明確な決定を欠いている。これは、加盟国、裁判所、そして欧州議会が、厳格な予防原則、有機農業への支援、そして科学をすべて結びつけようとした無理筋の結果、ゆがみが生じたためである。常に科学的主張はもっとも軽く扱われてきた。

グリホサートの安全性をめぐる論争

2018年8月、EUは農業従事者と家庭栽培でのグリホサート(製品名ラウンドアップ)系除草剤の使用を再度承認した。この農薬は雑草の除去に非常に高い効果を発揮してきた一方で、遺伝子組換え(GM)作物反対運動の格好の標的であった。「環境重視」の政治活動家たちは、遺伝子組換えによりラウンドアップ耐性を有するトウモロコシや大豆などの栽培において、この除草剤が広く使用されていることを問題視している。

環境政党に所属するEU議会のメンバーや、環境活動家団体との長年の論争の末、EUは今回の決断に至った。EUでは2022年12月までグリホサートの使用が認められるものの、反農薬団体はこの除草剤の全面禁止を要求し続けている。

今のところ、グリホサートのヒトでの発がん性を指摘しているのはWHO(世界保健機関)のがん研究部門であるIARC(国際がん研究機関)だけで、2015年にIARCはグリホサートをクラス2A、つまり「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類した(編集部註:IARCのカテゴリ分けは発がんリスクの高さの分類ではなく、「科学的根拠の強さ」、わかりやすく言うと「発がん性が疑われると結論付けた論文がある」と言っているにすぎない)。

WHOは特定の化学物質に対してバイアスがあるという批判を受けているし、アメリカ環境保護庁や欧州委員会、世界中の安全規制機関では、使用上の安全性が認められており130カ国で農薬としての使用が認められている。

硫酸銅の発がん性リスク

硫酸銅殺菌剤は有機農業で使用が許されている唯一の現実的な殺菌剤であるとされている。EUの幹部は硫酸銅および他の銅化合物の使用許可5年間更新を提案し、EUは2018年の終わりまでに5年間更新の決定を下した。

だが、2018年1月、フランス国立農学研究所 (INRA) は、フランス有機農業技術研究所( ITAB)と共同で委託された報告書の中で、「銅濃度が過剰である環境は、ほとんどの植物の生育に対して有害な影響があり、微生物群や土壌生物にも害を及ぼす」と結論づけ、また、報告書の中で、政府機関は「生物学的用途を保護するため、銅の使用量を減らすよう」介入を行うべきであると提言した。

その数カ月後、欧州食品安全機関欧州食品安全機関 (EFSA)は、銅化合物が「公衆衛生と環境に対して特別な懸念がある」ことを明言した。EFSAは、グリホサートについては環境や公衆衛生に深刻な影響をもたらすものではないと結論づけている。最新の決定版の研究では、硫酸銅はグリホサートよりも人体にとってはるかに有毒である可能性が示されている。

硫酸銅除菌剤は多くの生物農薬ほど作用の対象が限定されていないため、真菌細胞であればどんなものでも作用し、さらに人体や益虫に対しても作用する可能性がある (編集部註:ヒトをはじめとする動物の細胞は、真菌細胞とその構造がよく似ているため、真菌を殺す薬剤はヒトの細胞にも有害であることが多い。原文はそのことを指摘していると考えられる)。作用は皮膚や眼の炎症と関連すると考えられ、大量に吸い込むと吐き気、嘔吐や組織の損傷を引き起こす可能性がある。

ミツバチに対しても有毒性がある。ブラジルで行われたある研究では、硫酸銅が(重金属栄養素を供給するための)噴霧肥料として用いられている熱帯地帯の環境で、ミツバチに対する毒性が極めて高いことが示された。くわえて、グリホサートとは異なり、欧州化学機関(ECA)は、この物質が発がん物質であるという見解を発表している。発がん物質なのであれば、即時全面禁止とはいかないまでも、硫酸銅は業務上の使用が制限されるEUの規制対象となるのが普通であろう。

銅化合物はEUの承認があったとしても、時代とともに使用を取りやめる方向へ向かっており、おそらくはより毒性の低い殺菌剤へ置き換えられていくと考えられる。

従来型農業ではグリホサートと銅化合物の両方に対して代替品(ただし、よりコストが高く、効果は低い)が存在する。しかし、グリホサートは有機農業では使用が認められておらず、硫酸銅は有機農業で唯一認可されている殺菌剤である。そして銅の他に信頼性の高い代替品は有機農業には存在していない。

そのため、ドイツに活動の拠点を持つ国際的な有機運動のロビー組織「IFOAM」は、農業従事者が1年間に何kgまで使用できるかについて若干の柔軟性を認めたものの、EUに対して硫酸銅の認可を継続するよう奨励してきた。農業従事者に対する潜在的有害性が速やかに認められたにもかかわらず、である。

有機に別れを告げるワイン業界

ワイン業界は少なくとも1世紀に渡って硫酸銅を多用してきた。しかし、複数の企業では、硫酸銅の深刻な毒性と栽培技術よりむしろ持続可能性に重点を置いた動きが高まっていることを理由に、すでに有機農業から撤退している。

昨秋に、ボルドーワイン専門家協会の副会長は、ボルドーとフランスの他の複数の地域が有機農業から従来型農業への転換を開始するだろうと予測した。化学的要素はもちろんのこと、数多くの経済、気象要素を挙げ、その中には雹(ひょう)嵐、虫害、そして2017年の寒波も含まれていた。副会長ベルナール・ファルジュ氏によれば、これらに加えて有機農業と銅の使用を継続することに伴うリスクを負うのは耐えられないと複数のワイナリーが判断したとのことである。

EFSAの報告書は、ヨーロッパの環境政党の支持者を苦境に立たせている。社会民主進歩同盟(S&D)に所属する欧州議会議員エリック・アンドリュー氏は、PEST委員会の委員長を務めている。この委員会は、EUの農薬認可において透明性を監視することを目的として設立された。以前、アンドリュー氏は、農薬の認可においては、経済的利益よりも公衆衛生を優先させるべきであると主張していた。しかし、銅の場合、彼は政策立案者に柔軟な立場を取るよう働きかけた。

「銅の代替品は非常に限られており、現在のところ5億人の消費者の需要を満たすものは見つかっていません。短期的にはヨーロッパの大部分のワイナリーの存続、とりわけ、有機農業のワイナリーの存続可否に関わってくるでしょう。」と2018年6月にEURACTIVで語っている。

有機農業コミュニティーの中でも意見が割れ始めており、持続可能性について主張する者と、環境を害したとしても古くからの有機農業の規則を維持するべきだとする純粋主義者とが意見を戦わせている。フランスの称号であるコート・デュ・ヴァントゥーの下でワインを生産している、マザンのドメーヌ・ド・フォンドレッシュは、2009年から行っていたオーガニック認証の取得を取りやめると以前に発表した。このワイナリーは、硫酸銅を使用した結果、畑へ銅が蓄積したことを理由として挙げている。

原文 Pesticide hypocrisy? EU edges toward banning glyphosate after finding it safe but clears organic copper sulfate after finding it a ‘public health and environment concern’ | Genetic Literacy Project

農薬にまつわる偽善?:EUは安全性が確認されたグリホサート系除草剤禁止の動きを進める一方、有機農業で使用されている硫酸銅殺菌剤には同様の措置を講じず、「公衆衛生と環境に対して懸念がある」と判明したことを不問に付そうとしている(GLPチーム2020年9月4日公開) を翻訳・編集した。

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