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第4回後編 IARC分類はがん予防にも社会にも役立たない【IARCに食の安全を委ねてはいけない】

IARCに食の安全を委ねてはいけない

化学物質のヒトに対する発がん性の評価は、がん予防が第一の目的である。しかし、ハザード同定に基づくIARC(国際がん研究機関)の発がん性分類は、がん予防の適切なリスクマネジメントの決定を導くのに不適切なものであり、時代遅れになっている。過去20年間で問題は整理され尽くし、今こそ世界の規制機関と国際社会は解決を図るときである。

旧来のプロセス使用が問題を引き起こす

ハザード分類の仕組みが引き起こす問題は複雑で、社会の多くの部分に影響を及ぼしている。これらの制度の本来の目的はヒトの健康への悪影響が懸念される化学物質やその他の物質を特定することであり、特定後はリスクを軽減させる行動が必要かどうかを判断するための、さらなる完全な評価を必要とすることである。このプロセスは、EPA(米国環境保護庁)や英国発がん性委員会が採用している戦略で、最初に発がん性物質と特定されると、人間の健康に対するリスクが論理的かつ科学的に検討される。

リスク管理は、効能、作用機序、曝露の程度、期間、頻度、経路を考慮した上で行う。適切なリスク管理には、「何もしない」「個人用保護具の使用」「個人曝露量の低減」「使用制限」「極端な状況での使用禁止」など様々な方法がある。

しかし、IARCのような分類に対する一般市民の反応は、あまり理にかなったものではない。例えば、IARCが「ヒトに対して発がん性がある(グループ1)」「ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A)」「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(グループ2B)」と分類した物質にはすべて、ネガティブ宣伝と「健康不安」につながる可能性がある。

健康への不安は消費者の「不安」を引き起こし、望ましい公衆衛生目標の達成にマイナスに働きかねない。政府やその他の機関は、実際の脅威ではなく、公に認識された脅威のために、貴重な資源を使用して対応しなければならなくなるからだ。いくつかの公的機関は、不必要な消費者の懸念を軽減するために、IARCが何を行っているかを一般市民に説明しなければならなかった。

例えば、世界最大の独立系がん研究組織の英王立がん研究基金はIARCの活動を要約して、「IARCのトップレベルのカテゴリーにあるものだからといって、それが必ずしも公衆衛生第一であるとは限らない。つまりもっと複雑なのです。IARCが行うのは『ハザードの特定 』であって『リスク評価』ではありません」と述べている。

バナナの皮を考えてみてほしい。バナナの皮は確かに滑って事故を引き起こすが、現実にはほぼ起こらない。また、バナナの皮で滑っても、交通事故のような深刻な被害にはならないのが一般的だ。しかし、IARCのような分類では、「バナナの皮」と「車」は同じカテゴリーに入ってしまう。こんなおかしな話はない。

IARCの農薬メーカー批判は間違い

IARCは世界の規制機関が潜在的な危険性とリスクの両方を詳細に検討した後の化学物質を評価することもある。このような後出しの評価は、混乱、努力の重複、および不必要な資源の支出につながる可能性がある。最近の例では、ラウンドアップ系除草剤の有効成分グリホサートがそうであった。

EFSA(欧州食品安全機関)は、欧州委員会からの2度目の指令を受けて、グリホサートを「ヒトに対して発がん性がある可能性が高い」とするIARCの分類からの知見を検討するため、当初の評価に関する広範囲な見直しを2015年に完了した。その結果、EFSAは「グリホサートがヒトに発がん性の危険をもたらす可能性は低く、その発がん性の可能性に関する分類を裏付ける証拠はない」という結論に達している。

しかし、IARCの審査員はEFSAの検討プロセスに異議を唱え、EFSAを「農薬の販売登録に必要な、一般公開されていない農薬メーカー提供の研究に過度に依存している」と批判した。

農薬の場合、製品の安全性を確立するために必要なすべての研究データを提供することは、規制を受ける業界の法的責任である。規制当局が有効性と安全性を評価できるように、広範なデータが法的に義務付けられていて、これらのデータは科学的品質と一貫性の高い基準を維持し、試験結果が再現可能で許容できるという確信を得るために、GLP(規格)と国際的に合意された一連の試験プロトコルに従って生成されている。(第3回 なぜIARCの評価だけが世界の規制機関と異なるのか【IARCに食の安全を委ねてはいけない】を参照)したがって、すべての生データを入手できる当局による法的・規制的要件を考慮すれば、農薬登録者がスポンサーとなった研究の大規模なデータベースが存在することは驚くべきことではない。

注目すべきは、このデータベースが関連するすべての証拠の一貫性、用量反応、時間経過、生物学的妥当性を評価する証拠の重み付けアプローチにより、JMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議)が2016年に、グリホサートを「食事による曝露からヒトに発がん性リスクをもたらす可能性は低い」と結論付けたことだ。EPAも2016年に、「ヒトの健康リスク評価に関連する用量でヒトに発がん性である可能性はないとJMPRの結論を支持した。

危険有害性のみに基づく制度によって化学物質がリストアップされると、下流の規制や、歪んだ誤った一般認識の結果として引き起こされる風評被害が発生し、大きな影響を及ぼす可能性がある。有用な化学物質は規制の介入がなくても、一般市民の行動や産業界の予防的反応の変化により消耗してしまい、市場から淘汰される可能性がある。多くの場合、ハザード分類だけではその化学物質が人体に危険を及ぼさないと判断された後、あるいは効果的なリスク管理措置がとられた後も、研究プロジェクトに努力と資金が注ぎ込まれてしまう。

ヒトとげっ歯類では発がん性のメカニズムが異なる

ハザード識別に基づく発がん性分類システムは、どのような問題に対処しようとしているのか。 1970年代には確かに、「発がん性のある化学物質を特定し、使用を中止させる」という問題設定が可能ではあった。発がん性物質の特定は、偽陰性を最小にするように設定されていた。当時は合理的な信頼性をもって検出できる発がん物質の数は比較的少ないと仮定して策定され、リスク評価とリスク管理にとって異なる意味をもつ発がん性のさまざまなメカニズムがあることが判明し、その多くがげっ歯類に特異的であることは予見されていなかった。

当時までに特定された化学物質のほとんどは、芳香族アミン、多環芳香族炭化水素、ニトロソアミン、アフラトキシンなど、げっ歯類の実験モデルでもヒトでも発がんする強力なDNA反応性(遺伝毒性)発がん物質であった。これらには閾値がないと考えられていた。

しかし、MTD(最大耐量)を組み込んだ2年間のげっ歯類バイオアッセイの開発により、DNA反応性を持たない(非遺伝毒性)多数の化学物質が発がん性物質として特定された。

これらの化学物質の発がん作用は、毒性の二次的な結果(例:持続的な細胞毒性または細胞増殖)であると考えられ、閾値があると考えられたのである。その後の研究により、多くはヒトには関係ない作用機序でげっ歯類にがんを発生させることが明らかになっている。
ヒトに関連する場合、閾値の存在は、DNA反応性発がん物質とは全く異なる用量反応とリスク評価を示すことになる。ハザードベースのシステムでは、効能とヒトへのリスクが大きく異なるにもかかわらず、これらを区別していない。

化学物質が使用される過程が迅速で、より詳細なリスク評価が完了する前に実施され、必要に応じて順次見直される予備的な評価を提供することが認められている場合には、価値があると思われる。

自滅的なシステム

できるだけ多くの化学物質を最も厳しい発がん性カテゴリーに分類するように設計されたシステムは、結局のところ自滅的である。一見すると、利点のように見えるかもしれない。すべての化学物質を発がん性物質とみなすことで、わずかなコストで曝露のリスクを回避することができるかもしれないからだ。

しかし、より多くの化学物質を最も極端なカテゴリーに分類すると、深刻な予期せぬ効果が生じる。実際、最も危険な化学物質だけが特定されている場合、その分類は尊重され、特に禁止や回収が義務付けられていない分野では、適切なリスク管理の決定がなされる。しかし、極端なリスクを示さない化学物質も含めて、あまりにも多くの化学物質が最も危険なカテゴリーに分類されると、区別がつかなくなり、制度に対する敬意が損なわれる。

多くの分野では、このカテゴリーの化学物質をすべて除外して運用することは難しく、発がん性以外の有害性がある化学物質を除外したり、適切に管理したりすることができず、意図した効果とは逆の効果をもたらす可能性がある。例えば、様々な食品の天然成分である化学物質の多くは、高用量でげっ歯類にがんを発生させるが、その中には多くの人が健康増進に役立つと考える野菜や果物の物質も含まれている。同様に、現在承認されている医薬品の半分以上は、げっ歯類の生物検定で発がん性が確認されているが、リスク評価では発がんリスクがほとんどなく、何百万人もの患者に恩恵を与えている。

今こそIARC分類による混乱や不適切な規制とそのコスト、社会的損失を避け、がん予防の実効性という本来の目的を果たすべく「化学物質の発がん性を特定し、その特徴を明らかにすることで、適切なリスク管理策を講じる」という問題設定に改めるべきだろう。WHO の国際化学物質安全性国際計画(IPCS)は、1995年に分類体系を再検討し、多様な分類体系の問題を解決するために、様々な問題を検討する必要があることを認識した。この20年の間に問題は整理され、発がん性物質の評価用に標準化された国際的に受け入れられる方法論を合意するためのイニシアチブが求められている。

*この記事はAlan R.BoobisaSamuel M.CohenbVicki L.DellarcocJohn E.DoedPenelope A.Fenner-CrispeAngeloMorettofTimothy P.PastoorgRita S.SchoenyhJennifer G.SeediDouglas C.Wolfj著 2016年12月発行の「Classification schemes for carcinogenicity based on hazard-identification have become outmoded and serve neither science nor society」をAGRI FACT編集部が翻訳編集した。

〜前編はこちら〜

〜第5回へ続く〜

【長期特集 IARCに食の安全を委ねてはいけない】記事一覧

筆者

AGRIFACT編集部

 

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