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Vol.30 パーティーシーズンのマルチ注意報【不思議食品・観察記】

コラム・マンガ

科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、もはやおなじみの「マルチ商法」です。クリスマスや忘年会に新年会、成人式。巷がにぎわうパーティシーズンは、マルチ商法にとっても絶好の誘い時。どさくさにまぎれてうっかり何かを口にしたり、その場の雰囲気で足を踏み入れぬよう、財布と気持ちをいつも以上に引き締めておきたい。

昔なつかし「タッパーウェア」の製菓グッズ。友人宅の押し入れから大量の在庫が発掘され、LINEのグループトークがざわめきました。

マルチは善意と好意を装い近づいてくる

クリスマスや忘年会、新年会に成人式。コロナ渦の静けさが懐かしくなるほどに、12月に入るとあちこちで集まりや消費が大活性化しているのを感じます。こうした季節は言うまでもなく、マルチ商法も新たな顧客(カモ)獲得に向けて精を出します。

これまでのいろいろな原稿でも触れていますが、マルチ商法ではメンバーや勧誘中の相手をケアするかのような親密さで、上手に心を操っていくのが特徴です。親しい友人のように、家族のように。一緒に楽しもう! あなたにぴったりな商品を選んだよ! そう言わんばかりの、善意と好意(に見える)の大バーゲン。そうしたテンションを、怖いと思う人は問題ないでしょうが、押し切られる人も珍しくありません。

先日、友人実家の押し入れから、昔懐かし「タッパーウェア※」の在庫が大量に発掘されました。そのレトロ可愛い製菓用品は、今なら100均で手軽に手に入るようなものばかりでしたが、当時の主婦にとっては、さぞかし魅力的なアイテムだったのでしょう。

※アメリカ風の「ホームパーティ商法」を取り入れて拡大していった、プラスチック容器を製造販売するマルチ企業。日本では1963年に販売が始まった(業績の悪化により、2025年1月末で日本での事業を終了すると発表されている)。

「これがあると、こんな簡単にお菓子が作れるんです!」
「かわいいお菓子で、お子さんのパーティも盛り上がりますよ」

こんなプレゼンでするっと会員になり、主婦たちが商品を購入していた光景が目に浮かびます(そして大量に抱え込んだ在庫が、今回の発掘品)。とある別の友人も、こんな話をしていました。

「母、お菓子作りもしないのに、なぜかうちにプラのめん棒とかシートとかクッキー型とかひととおりあるんだよな。でも後に確認したら、あれ全部タッパーのだったんだなって……。ほかにも急に変なシャンプーたくさん買わされたり、泡風呂マシンみたいなの導入したりしていたし」

大人になってから出会う、意外な親の一面。それは嬉しくない顔であることが多いが、マルチは輪をかけていやである。

友人宅で昭和の時代に購入され、今でも現役だという容器たち。
アムウェイでよく聞く「マルチだけどものはいい」は、タッパーウェアも同様だった。

マルチ系アロマの体内侵入を阻止せよ

ほかのマルチ企業が主戦商品としている鍋だの下着だの寝具だの。ド定番のマルチは今でも活躍中ですが、そうした「道具」と一線を画すのは、やはり直接口にする食品系でしょう。特に、健康食品や水と違って各所から「経口摂取はヤバい」と指摘されている、マルチ系アロマは抜群の存在感です。雑貨と違い、あの手この手で体内に侵入してくるのですから(本来アロマも雑貨カテゴリーなんだがな)。

以前、被災地の豚汁に、健康飲料が大量投入されている動画が炎上した出来事がありましたが、このパーティシーズンでは「おもてなし料理」にそうしたものが混ざっていないか、注意しておく必要がありそうです。

巷で紹介されている、マルチ系アロマのクリスマス料理には、こんなものがあります。植物性やヘルシーさを意識するからなのか、なぜか豆乳で作るプリンです。豆乳に、ゼラチンとアロマオイルを加えて固めるもよう。

ドリンクでは、ノンアルカクテルも見かけました。豚汁騒ぎで有名になったあの健康ドリンク(のマンゴー味)にアロマオイルをたらし、炭酸水を加えるそうな。

マルチ料理はとにかく消費してもらうのが目的ですから、味の完成度より、いかに手軽にたくさんの人に試してもらえるかが重要だろうと想像できます。しかし、個人的にはアロマが入っていることを横に置いておいても、料理としてもあまり魅力を感じず……というか、正直わざわざ食べたくない感じです。

一般にも、目の前に出された「善意のアレンジャー料理(しかも微妙なクオリティ)」ほど、困惑させるものはありません。マルチ系アロマでは、これまで聞いたきた体験談にも、そうしたものが山ほどありました。

同業者とのランチで「デトックスにいいから」と、レストランのお冷に精油をたらされ、それを飲むと即、急激な下痢を催しトイレから出られなくなった女性。不特定多数のママたちが集まる場所で、精油入りケーキと知らずに口にして強烈な風味に驚いた話。因果関係は不明ですが、ペットの餌に姉がマルチ系アロマ会社の販売するドリンクをせっせと混ぜ込みはじめた結果、急死してしまったという悲惨な話もありました。

ちなみにアロマの飲用によって湿疹や肌荒れを起こす例もよく耳にしますが、会員の間では「それまで体内に蓄積された化学物質がアロマの効果によって表面に出てきた」と解釈するケースも多く、「信じたいものを信じる」典型例のように思えます。

筆者は仕事柄、さまざまな不思議食品に出会うものの、口にしたくない食品のトップクラスの地位は、今年もマルチ食品(特にアロマ系)が不動のポジションとなりました。

その場の違和感には断固拒否を!

先日、遅ればせながら、2024年夏に公開されていた映画『胸騒ぎ』を、ネット配信で視聴しました。そこで出会った、既視感ありすぎるエピソードがこれです。

作中で、主人公一家がヴィーガンだと伝えているのに、ホスト側の夫婦が「絶対に食べてほしいんだ!」と肉料理を無理やり食べさせるんですよね。めっちゃ嫌だけど、相手の家にお邪魔しているうえ、一生懸命に作ってくれたとっておき料理を断るのもなぁ……という気まずさと息苦しさで、窒息しそうになりました。

そうそう、この善意でぐいぐいと領域を踏み越えてくるこの異様さが、マルチのそれととてもよく似ていたんです。胸糞すぎる結末には、違和感は拒否すべき!ということが、改めて強く心に刻まれました。

せっかくの楽しい時間だから。自分のためにしてくれたことだから。お祝いの気持ちだから。そんな心理で違和感を薄めてしまいそうなパーティシーズンには、マルチの侵入にご注意を。また、世間のキラキラで、より一層居場所のなさを感じている人も、つけこまれ率が高くなりそうですからこれまたご注意を。

某大学にて。学生さん、くれぐれもご注意を!

 

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