会員募集 ご寄付 お問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています

Vol.36 煮つめるほど体に入りやすくなる? 白湯の不思議言説をウォッチ【不思議食品・観察記】

コラム・マンガ

科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、沸かした水「白湯」。ここ数年、人気が高まっている飲み物ですが、それに伴い不思議な言説も目につくように……!?

「水商売」は今も昔もド定番

生命の源である「水」。生活、健康、環境、人権などなど、生きていくうえで、誰もが関わります。だからでしょうか。この上なく「物語」を添加しやすいブツだとも言えそうなのは。

詐欺や謎めいた新宗教が登場する物語でも、「奇跡の水」「特別な水」といった水商売エピソードは星の数。ニセ科学周辺では「水からの伝言」(通称「水伝」)や、かつての「波動水」なども有名物件。「水道水が不妊の原因⁉」と脅し、水素水のウォーターサーバーをおすすめ! みたいなろくでもない不安商法もよく見かけます。「物語」や「差別化」を強調するのは商売の定石なので仕方ありませんが、科学っぽい物言いで根拠のない健康効果を謡うことは、言わずもがなアウトです。

そうした前提を踏まえつつ、今回は「水」を温めた飲み物「白湯(さゆ)」についてのお話しです。筆をとったきっかけは、人気お笑いタレントの大島美幸さんのインタビュー記事でした。

大島美幸が語る「不思議な水」の理屈

妊活がきっかけで、白湯を飲み始めたという大島さん。白湯は体に優しいからというシンプルな動機を通り越し、白湯についての本を読んだり「水の重要性を学ぶ」セミナーへ行ったりと、熱心に向き合っているエピソードが語られていました。そして……インパクトのある、白湯解説がこちらです。

「二分の一の量になるまで煮詰めた白湯は便秘の薬、四分の一まで煮詰めた白湯は万能薬」

おそらくこれは、インド・スリランカの伝統的な代替医療であるアーユルヴェーダによる考え方でしょう。記事では出典に触れられていないので、突然こうした話が出てきたことで、驚く読者もいたのではないでしょうか(元ネタが推測できても、一瞬ギョッっとしましたし)。筆者がさらに驚いたのは、次のコメントです。

「煮詰めれば煮詰めるほど水の粒子が細かくなって体内に入りやすくなる」

これを驚きのままに感想をXでつぶやいたらプチバズし、その後Yahoo! 記事からはこの部分が削除されてしまいました(ちなみに他の転載記事ではそのまま残っている。2025年11月27日確認時点)。なんかケチをつけたみたいになってしまい、すみませんね。

さらに興味深かったのは、そこまで「体内に入りやすく」なるよう手をかけた白湯を、(多分普通の)水でうすめて温度調節をするという活用法。筆者のTLでは「煮つめるほどによい」と解釈できそうな文脈から、もしかしたら「さゆ(白湯)」ではなく鳥ガラからスープを作る「パイタン(白湯)」ではないかという推測まで飛び交い、ネット文化の醍醐味といった展開を見せる面白さでした。

やや調整不足だったと感じられる部分を置いておけば、「白湯が健康と向き合うきっかけになった」という程度の単純な記事でしょう。つまりこの記事そのものは大騒ぎするほどのものではありませんが、有名人がこうした発言をすることで、それに乗っかってくる冒頭のような水商売が存在しますので、そこは気を付けていただきたいところです。

アーユルヴェーダの考えに基づいているのであれば、マクロビなどと同様に、現代の科学・栄養学と比較しても仕方のないことではありますが、今の日本の生活に素直に取り入れるには無理があると感じます。白湯については、インド料理に油が多い理由のひとつに衛生面の問題があるように、水も生で飲むと危険だからよく沸かして殺菌するという、現地の環境が容易に想像できます。それをインフラが整った環境で実践するとなれば、完全に趣味の世界。”信じるか信じないかは、あなた次第”レベルだと感じます。

とある「白湯」健康本に書いてあること

アーユルヴェーダにおける白湯に関しては、日本では蓮村誠氏の書籍がよく知られています。筆者の手元にも『白湯毒出し健康法 体温を上げる魔法の飲みもの 』(PHP文庫)がありました。そこで解説されている白湯を、一部要約しながらご紹介しましょう。※カッコ内は山田の感想です。

  • アーユルヴェーダでは、白湯には特別な意味がある。ヴァータ(風)、ピッタ(火)、カパ(水)の要素を完璧に満たした飲み物。
  • 10分間よく沸かすことで、この3要素のバランスが整う。よってそれを飲むことで体のバランスが整う。再沸騰はエネルギーのバランスが崩れるからNG。保温ポットはOK。沸かすのは「火」を使うのが重要で、IHや電子レンジはNG。(ガチ勢は炭で沸かすと聞きますが、そこは妥協するのかと少し残念な気持ち)
  • 白湯は寝起きに、すするように少しずつ飲むといい。150㏄程度を、10~15分かけて飲む。
  • さらに食事をしながらも、1日3回飲む。一口食べたらひとすすりする(食事に時間がかかることで、ダイエット効果が期待できそう)
  • 1日に飲む量は700~800ml程度(常識的ですね)
  • 白湯をまずいと感じる人は体に毒素がたまっている(確かめようがないので言いたい放題や)
  • 白湯を飲み続ける生活を実践すると自然にやせるし健康になるし心も整い、妬み嫉みの心も消えてゆく。若返りも叶う(白湯に多くを求めすぎなこの考えが、怖い!)

白湯の効果というより、心の持ちようで体調を整えるべしという感じがしなくもありませんが、書籍のタイトルにもある「毒出し(デトックス)」のための推奨スケジュールを読み進めると、さらにのけぞります。

日の出前に起き、舌の掃除をして白湯を飲み、ヨガをしてから洗顔とオイルうがい、排便、全身のオイルマッサージ、シャワー、着替え、瞑想、朝食、散歩からの軽い運動……をすべしというのですから。盛りだくさんすぎて、自分だったらこの後1日寝込んでしまいそうです。「2時間半かけて朝食をとる」という俳優の片岡鶴太郎氏レベルから見れば、これでもまだまだ生ぬるいのでしょうけれど。

もはや白湯の効果というより、これを実践できる生活のゆとりによる健康効果なのでは。

飲んでも害なし故の言説拡大リスク

また、書籍掲載の体験談(定番!)では「からだがあたたまり、晴れて妊娠」だそうです。絶対白湯の効果じゃないと思う。うらやましく思った体験談は「酒の量が減った」です。無難な落としどころだと感じたのは「体と向き合うきっかけに」。要はただのお湯ですから、飲んでも害はなし。喜ばしい部分だけ、手柄を横取りする、よくあるつくりでしょう。

白湯は飲んでも害はないので、勧める側もさぞ気が楽なのでは。巷では「白湯が子宮や卵巣を温める」(そもそも冷えませんが)だの、「体の中にたまった毒素が洗い流される」だの好き放題発信されているのを見ても、明白です。

2022年に、ペットボトルの白湯が発売されたのは画期的でした。年々高まる世の中の健康志向が、さらに次元上昇した感じさえ覚えます。また「白湯専用マグ」などもあり(熱湯を適温に冷ます機能がある)利便性が高くなっていくのは消費者としてありがたい限りです。
ズボラ勢としては、お湯を飲むだけ(=努力がいらない)なのに、こんなにいいことがある! という点に魅力を感じるのも、共感できます。

しかし盛り上がるほどに、魔界が発生するのも事実。キャッチーさを優先して、うっかりおかしな言説を広めてしまわぬよう、気を付けたいものです。

  【不思議食品・観察記&沼物語】記事一覧

筆者

山田ノジル

 会員募集中! 会員募集中!

関連記事

記事検索
Facebook
ランキング(月間)
  1. 1

    農薬を落とすというナントカウォーターの勧誘を受けてみた(前編):63杯目【渕上桂樹のバーカウンター】

  2. 2

    Vol.6 養鶏農家が「国産鶏肉と外国産鶏肉」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

  3. 3

    渕上桂樹(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

  4. 4

    第3回 グリホサートの科学と開発秘話【ラウンドアップ「枯葉剤」説の虚構 “反農薬・反GMO・反資本主義”活動家が作った構造的デマ】

  5. 5

    参政党の事実を無視した食料・農業政策を検証する

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP
会員募集中
CLOSE
会員募集中