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キラキラじゃない、泥にまみれたリアルな農業体験で深まった相互理解:43杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

私は耕作放棄地を開拓して果樹園を作る事業をしており、先日、およそ1週間かけて果樹の苗木を植える作業をしました。めったにないことなので、イベントにして一般参加も募ってみたところ、交通の便がわるい辺鄙な場所であるにも関わらず、60名近い参加がありました。期間中は皆さんと一緒に農作業をしたり、農業の現場について話したりしたのですが、今回はその時に感じたことを述べたいと思います。

リアル農業体験イベント開催

私は前から思っていたことがあります。
農業に関係ない一般の人たちでも、関心を持ってくれる人にはリアルな情報や体験を提供した方が喜ばれるのではないか? ということ。
そして、それは農業にとって新しい価値の創造につながるのではないか? ということです。

植樹えいえいおー

もちろん、用意されたキラキラで楽しい体験や、喜んでもらうために演出された情報発信を否定するつもりはありません。
喜んでくれる人がいるなら、どちらも良いものだと思います。
ですが、それだけでは物足りないと思う人もいるはずです。
お客さんと話していると最近の消費者は皆さん賢いと感じます。
賢い方は知的好奇心が旺盛で、たとえ地味でもリアルな体験や発信に興味を持ってくれるのです。

実際、今回皆さんと一緒にやった作業は地味なものでした。
苗木を運ぶ、スコップで植穴を拡張する、苗木を植える、土をかける、水をかける、足で泥を踏み固める、支柱を立てる、といったものです。
地味で、力仕事で、しかも泥に汚れる仕事です。
すべてが用意された収穫体験ならもっと楽しいかもしれませんが、一緒にやったのは全然違いました。

植樹土踏み

家族を連れてリピートも

参加した方の多くは農作業になじみがない方で、割合も女性が多かったのですが、心配は要りませんでした。
どなたも作業を楽しんでくれて、「やってみたら楽しかったから」と家族を連れてリピートで参加してくれた人もいました。
植樹が終わってからも畑を見に来てくれた人もいました。
演出されたキラキラの体験ではありませんでしたが、それでも生産の現場には喜びも興奮も感動もあるのです。
参加した人は、リアルな体験の中から自分で楽しさを発見してくれました。

植樹苗木を運ぶ

農業トークに花が咲く

皆さんと話した内容も、素直なものでした。
「栽培では何が大変なんですか?」という質問には、病害虫や草との戦いの話を紹介しました。
農薬や除草剤が果たす役割についても話しました。

「こういう場所では草刈り機を使います。石がゴロゴロしていて、作物にかからない場所では除草剤が役立ちます」「カイガラムシはこんなに面白い生態をしているんですよ。でも厄介なんです。こんな薬剤で対抗します。病気は放っておくとこうなります……」などと言った感じです。
耕作放棄地の話題では、「開拓は自然を壊すこともあるし、野生動物が住む場所を奪うこともあります」「でも、対処しなければ逆に人間の暮らしが脅かされることもあるんです」という話もしました。

このように、情報発信もリアルに、正直に、丁寧に話しました。
良さげな雰囲気で飾ったりもしませんでした。
ですが、皆さん興味を持って聞いてくれました。

植樹説明

生産の現場にいる人と一般消費者の間には大小さまざまな認識ギャップがあります。
農薬や除草剤、食品安全について、耕作放棄地の課題、規格外野菜、自給率の問題など、挙げればキリがありません。
もちろん、認識ギャップ自体はあっても良いと思います。
むしろ、認識ギャップはそれ自体が面白いものです。
ですが、リアルな情報に触れてそのギャップが埋まるとき、知的好奇心旺盛な人は面白さを感じるです。
そして、認識ギャップが埋まることによって期待できることもあります。

たとえば、農業の不安を煽る誤情報に出会っても振り回されずに済むかもしれません。
また、生産側も一般消費者の認識をもっと知ることができたら、提供するサービスの価値が高まるかもしれません。

実際に、(今の野菜は不安なので)「給食をオーガニックにしてほしい」と言っていた人で、参加者の声をきっかけに応援のメッセージをくれた人もいました。
手伝いに来てくれた農家の仲間で、「なるほど~、町に住む人はこう思うのかあ~」と、他の参加者の話を熱心に聴いている人もいました。
リアルな農業体験と情報発信は、相互理解を深め、お互いのリスペクトを高めて、新しい価値を創るヒントになり得ると思ったのです。

ありのままの農業体験だからこそもらえた言葉

最後に、参加者の言葉でいちばん印象に残っているものを紹介します。
作業が終わった帰り道でのことです。
その人は、高台から景色を眺めてこう言いました。

「ここから見える畑にも全部、仕事の積み重ねがたくさんあるんだろうね」と。

一緒に汗をかいてくれて、同じ思いを抱いてくれた皆さん、ありがとうございました。

植樹完了

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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