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イノシシハンターに密着して、話を聞いて感じたこと:37杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

先日、イノシシハンターの仕事に同行して捕獲から食肉処理までの一部始終を見せてもらい、農村が抱える課題や現状などの話を聞く機会がありました。今回のコラムではその時に感じたことを述べたいと思います。

イノシシハンターに密着

同行させてもらったのは、長崎県波佐見町でイノシシハンターをしながら町議会議員を務める城後光さん。
私も同じ長崎県の雲仙市で農場開拓の仕事をしていますが、イノシシによる被害は共通の課題です。
何か情報が得られるかもしれないと思い、城後さんの元を訪ねました。
合流した私たちは、イノシシが捕獲されていると連絡があった現場に向かいました。

現場に着くと、箱罠の中でイノシシが暴れていました。
城後さんによると、イノシシは雌で子どもが産める年齢、体重は30キロ以上あるだろうということでした。
箱罠に激しくぶつかるイノシシを見て、私はすこし身がすくんでしまいましたが、城後さんが言うにはこれはまだ小さい方で、100キロ以上ある個体もいるとのことでした。
城後さんはじっくり観察したのち、「イノシシがけがをしないうちに」と槍で一気に仕留めました。


城後さんは「イノシシが必要以上に傷ついたり苦しんだりしないように速やかに終わらせるのが大事なんです」と話してくれました。
私が「それはイノシシのためにですか?」と尋ねると、「それもありますが、肉の品質のためでもあります。
うまく血が抜けないと肉に臭みが残りますし、傷があると無駄になってしまうので。
絞め方が良くないと肉が台無しになってしまうんです」と言って、イノシシを軽トラックに載せて、食肉処理場に案内してくれました。

簡単ではない食肉処理


私は移動中、「絞め方でお肉の品質が大きく変わるなら、イノシシ問題は『食べて解決!』という簡単な話ではないですね」と尋ねました。
城後さんは「そうですね。食肉処理までやるハンターばかりではないので、獲る専門のハンターだと難しい部分がありますね」と現状を話してくれました。
また、季節によっても食べたものによっても肉質が全くちがうという話を聞いて、飲食店を経営する私としてはメニュー化の難しさも感じました。
食べて解決! にはまだまだたくさんの課題があるようです。

食肉処理の現場では、まず75℃のお湯をかけながらイノシシの表面についたダニを落としていました。
イノシシに限らず野生動物は基本的にダニがついているので、死んだあとでもこうして人間の領域に入るときには十分な管理が必要なのです。

処理が終わり、皮を剥いだイノシシの内臓を取り出しながら「内臓に異常がないか見ています。イノシシは何を食べているか、どんな病気を持っているかもわからないので十分な注意が必要なんです。餌や病気をしっかり管理された状態で飼育された家畜と違うところですね。食べるときも十分に加熱する必要があります」と話してくれました。
こうして自然のものと闘う現場を見ると、自然界にもともとあるたくさんの危険から、私たちが普段いかに守られているのかを思い知らされるようでした。
城後さんは汗だくになりながら「この仕事は手早く済ませないといけないので、熱中症寸前になることもあります」と言いました。

私の目の前で絞められたイノシシは解体され、お肉になってチルド冷蔵庫に入れられました。
初めて見る現場に、私はショックを受けるかもしれないと思っていましたが、実際に感じたのはとにかく“大変だな”というものでした。
これだけ神経を使う重労働を目の当たりにすると、「みんなでイノシシを獲ればいいのに」とは到底思えません。

報奨金システムは逆効果の恐れも


処理を終えたあと、波佐見町役場に届け出を提出するということで同行しました。
町役場には建物の外に冷蔵庫が設置してあり、城後さんは切り取ってあったイノシシの尻尾をそこに入れ、書類に必要事項を記入していました。
「波佐見町ではイノシシを捕まえると報奨金が出るようになっています。今日のイノシシは成獣なので1万2千円になります。幼獣なら6千円です」と教えてくれました。
報奨金の仕組みは自治体によって異なるそうです。
私は「報奨金は良い仕組みだな。イノシシを捕獲する良いきっかけになるかもしれない」と思いました。
すると城後さんは「ちなみに今回のイノシシを捕まえるのに2週間かかりました」と付け加えました。
私が「うーん、割に合うのかな?」と考え込んでいると、城後さんは「高いのか、安いのか、どうなんでしょうね?」と笑いました。
「おカネだけのためではこんなことはできませんね。かといって地域のためという気持ちだけでも続かない」と話してくれました。
イノシシ問題に正面から立ち向かう原動力は、決して単純なものではないのです。
そして、解決策も単純ではありません。

私は「肉として商業利用や報奨金など、ハンターにおカネが入る仕組みが充実したとして、イノシシ被害の解決になると思いますか? もしくは、かえって逆効果になることは考えられますか?」と尋ねてみました。
城後さんは「逆効果も考えられますね。イノシシが増えることを望むハンターが出てくる恐れがあるからです。これはうわさ話ですが、報奨金目当てに繁殖目的でシカを連れてきたハンターの話を聞いたことがありますよ」と話してくれました。
私はそんな話を聞いて『コブラ効果』の話を思い出しました。
『コブラ効果』とは、イギリス統治時代のインドでコブラが増えすぎたため、捕獲に報奨金を与えることにしたところ、コブラの養殖業者が登場して逆に数が増えてしまったという事例で、問題を解決しようとして意図した結果とは逆の結果が出てしまう現象のことです。
城後さんは「ハンターの教育も大切です。町として仕組みを作りたいと思って取り組んでいます」と話してくれました。

農村の課題解決は一筋縄ではいかない

最後に私は飲食店として情報発信やメニュー開発に取り組む提案をして、今後お互いに協力していこうという話になりました。

私はたまに、農村の課題などに関して「こうすればいいんじゃない?」「こんな解決策はどうだろう?」とアイデアを持ちかけられることがあります。
ですが、このように1つの課題でも解決は複雑です。
単発で提案されるアイデアは素晴らしいですが、大抵どれも試されていて、そして大抵の場合それだけでは解決できないものなのです。
答えは簡単ではありません。
ですが、農村では誰もがあきらめているわけではありません。
複雑で多岐にわたる課題と向き合い、たじろぐことなく立ち向かう人がいるのです。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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