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25年以上前にラウンドアップを使った人は、がんになる可能性があるのでしょうか?
A それはありません。その理由は、第1にグリホサートに発がん性がないことは証明されています。第2に、以前使われていた界面活性剤の毒性はグリホサートより強かったのかもしれませんが、それは培養細胞に対する毒性を試験管内で調べたものであり、発がん性があるという試験結果はありません。
ラウンドアップ類似製品など農薬の安全性を確認するために、培養細胞や実験動物など多くの試験材料を使った約40項目の試験を行います。そして、その結果からヒトに対する毒性や発がん性などを推測します。そして、この試験に合格したものだけが農薬として使用することを許可されます。くわしい試験項目は農薬工業会のホームページを見てください。
そもそもラウンドアップなどの農薬は作物に散布しますが、作物を収穫する時期までに分解してほとんどなくなるように作られています。界面活性剤も同様で、作物に残留し、食品といっしょに私たちが摂取する量は、あったとしても極めて微量です。どんな化学物質も大量なら毒性があり、微量なら毒性はないという用量作用関係の法則があります。従って、昔のラウンドアップに使われていた界面活性剤の毒性が現在のものより高かったとしても、当時、ラウンドアップを使った農作物を食べた人に健康に被害が出ることは考えられません。
農薬の場合、健康被害が最も心配されるのは、高濃度の農薬の散布に従事する農業者です。そのような人たちの健康状態を継続的に調査した米国のAgricultural Health Study(AHS)の調査論文を紹介します。
G Andreotti, et al. Glyphosate Use and Cancer Incidence in the Agricultural Health Study. J Natl Cancer Inst (2018) 110(5) doi: 10.1093/jnci/djx233
米国ノースカロライナ州とアイオワ州でラウンドアップ類似製品を散布していた農業者4万5千人近くを1993年から2005年の間、調査した結果、そのうち5800人近くががんになったが、その割合はラウンドアップ類似製品を使わなかった人と変わらなかった。
要するに、高濃度のラウンドアップ類似製品の散布に従事する、最もリスクが高いと考えられる人たちでも、がんは増えていなかったのです。重要な事実は、「グリホサートにはおそらく発がん性がある」と判断した国際がん研究機関(IARC)のブレア委員長がこの重要なAHCの調査論文を無視したことです。そして、この調査論文があればIARCの判断は変わっていたことをブレア委員長自身が認めているのです。ということは、IARCはデータ不足のため間違った結論を出していたということになります。
A jury has awarded a man $289 million for allegedly contracting cancer from exposure to Roundup, but the science is not on their side.
このような事実を総合的に判断すると、ラウンドアップ類似製品の中にはグリホサートより細胞毒性が高い界面活性剤を含むものが過去にはあったのかもしれませんが、界面活性剤に発がん性があるという科学的事実はありません。そのため過去のラウンドアップ類似製品によって、がんが引き起こされるようなことはないと判断されます。
注:商品名『ラウンドアップ』の有効成分名は「グリホサート」と言い、Q&Aでは2つの名称をその都度使い分けていますが、実質的には同じものだとご理解ください。
回答者唐木英明(公益財団法人食の安全・安心財団理事長・東京大学名誉教授) 回答日2020年2月1日 |