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農薬に関するデマで打線組んでみた〈パート2〉【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】
「農薬に関するデマで打線組んでみた!」で農薬に関するデマを紹介しましたが、紹介しきれなかったデマはまだまだあります!
そこで今回は、「農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート2〉」ということで、農家の僕が前回の記事で書ききれなかった農薬のデマを集めて、もう一つ打線を組んでみました! 農薬に不安があるという消費者にこそ、読んでいただきたいです!
1.(左)自然由来の農薬なら安全だ!
「化学農薬はダメだけど、自然由来の農薬ならば問題ない!」という意見はあります。確かに「自然」と付くだけで体に良さそうなイメージですので、気持ちは分かります。
化学農薬でなく自然由来の農薬を代わりに使用している「自然派の農家」もいます。だけど、自然由来の農薬は必ずしも安全とは言い切れません。
理由は以下が挙げられます。
● 有効と見られる成分が多くそして安定していないため、農薬としての検査ができないから
● 農薬ではないので、回数無制限で利用できてしまうから。
化学農薬では特定の1、2種類の有効成分のものがほとんどです。なので農薬としての検査が徹底的に行われ、科学的に安全が担保されていますが、自然由来のものはそうではありません。
つまり自然由来の農薬代わりになるモノ=人間に悪影響が出るのか良く分からないけど、利用できてしまうものとも言えてしまうのです。
検査がされない自然由来の殺虫効果があるものと、徹底的に検査されて科学的な安全が担保された化学農薬。どちらを安全と見るかは人それぞれですが、自然だから100%安心安全とはならないということは知ってほしいです。
2.(二)無農薬表記であれば農薬はかかっていない!
「とにかく無農薬って表記があるものを選ぶんだ!」
無農薬は言葉ではよく耳にしますが、商品表示で「無農薬」と書いているのは実はNGです。畑に残留した農薬や周囲の畑から農薬飛散で、残留農薬が検出されることがあるからです。
そしてこれは農水省のガイドラインに抵触しています。
消費者にとってややこしい表現を避けるため、そもそも無農薬と表示してはいけないんです(ごく稀に例外はあるようですが)。
もし農薬を使用していないことをアピールしたいのであれば、「農薬不使用」が正しい表現。無農薬の他にも、「減農薬」「減化学肥料」などもNGです。
だって何を基準に、どこまで減らしたのかが分からないですよね?
大前提として知っておいてほしいことは農家は皆、農薬や肥料をなるべく減らす努力をしてるということです!
3.(一)ヨーロッパの有機栽培を見習え!
「ヨーロッパに比べて、日本は有機栽培後進国だ! ヨーロッパを見習え!」
とヨーロッパ(とくにEU)の有機栽培を持ち出して、批判している人もいます。
確かにヨーロッパは有機栽培が日本より進んでいます。
「みどりの食料戦略システム」でも、ヨーロッパの農業を参考にした数字がよく使われていて、日本はヨーロッパ式の有機栽培を目指しているようにも感じます。
しかし、一概にヨーロッパ式の有機栽培を広めようとするのは危険です!
理由としては、以下が挙げられます。
● 日本はヨーロッパに比べて高温多湿で、病害虫の被害が多く有機栽培には向かない環境であること
● ヨーロッパの農業は、低賃金の移民の労力を使っているケースがあること
● ヨーロッパの農業は、日本より補助金が多く出ている側面があること
このように、気候や経済、環境まで全てが異なる国々との比較は出来ません。真似すべき所は真似をして、日本式の有機栽培の普及を目指す方が現実的です。
4.(三)グリホサートは発がん性がある!
いまだに一番多いデマは、グリホサートについてのデマです。
● 「ラウンドアップは枯葉剤の原料のグリホサートが主成分!」
● 「グリホサートには発がん性がある!」
● 「世界中でグリホサートは禁止の方向だ!」
これらは全てデマです!
この記事で全てにツッコんでいると長くなってしまうので、割愛しますが、このAGRI FACTを見てください! グリホサートの安全性について科学的に説明した記事がたくさんあります。
グリホサートはデマ屋の典型的なネタです。特定の人の偏った情報だけを鵜呑みにせずに、論文やデータを元にした記事も必ず読みましょう。
5.(中)慣行栽培農家は怠けている! 有機栽培農家の真似をしろ!
「有機栽培が出来ている農家がいるなら、どの農家でも可能だろ!!」
「農家は全員有機栽培にしろ!」
という意見もよく聞きます。
言わんとすることは分からなくもないですが、これは極論すぎます。現在日本の農産物の99%は慣行栽培の農産物です。この慣行栽培の野菜が、全て有機栽培に置き換わったらどうなるでしょうか。
なるか。
①病害虫の被害が多くなるので野菜は出回らなくなり、野菜の価格は跳ね上がり庶民が手が届かない高級品になるでしょう。
②そして安定的に生産することが難しいので、国産の新鮮な野菜が手に入りにくくなることも大いに考えられます。
③安定的に生産することができなければ、当然農家の所得は減ります。
農家の所得が減れば離農する農家が増え、結果的に農業は衰退していくのではないでしょうか。
有機野菜がいいという個人の意見は、もちろん尊重されるべきですが、もっと農業全体を見て考えてほしいところです。
6.(遊)有機栽培を始めると、いやがらせされたり村八分になる!
「有機栽培を始めると、周りからいやがらせされる! ひどいと村八分になる!」という噂もあるようです。
これは正直、その人のケースごとに違います。
いき過ぎた慣行栽培農家が実際に文句を言うケースもありますし、有機栽培に失敗した人が当てつけに慣行栽培を叩いているケースもあります。そして噂に尾ひれがついて、農薬批判の材料になっているケースもあります。
おそらく一番多いのは、新規就農者の方が有機栽培を始めるケースでしょう。
その場合は、既に先に農業を始めている周りの慣行栽培農家に配慮する必要があります。具体的には、
● 畑の余白を多めに取ったり
● 物理的に離れた畑を使ったり
● 有機栽培が多い地域で就農したり
して既存の慣行栽培農家に敬意を持って農業をすれば恨みを買うことはないでしょう。農薬トラブルにならないようにお互いの農業を尊重すれば、地域での共存は可能です。
ちなみに僕の地域では有機栽培農家も慣行栽培農家もトラブルになっていません。むしろお互いに栽培方法を学びあうほど仲がいいです。
7.(捕)農薬を使った野菜は腐る! 自然本来の野菜は腐らずに枯れる!
「慣行栽培の野菜は農薬を使っているから腐る! 自然に育てた野菜は腐らない!」。これも以前からあるデマの一つです。
その内容は、
1. 慣行栽培や有機栽培の野菜は時間が経つと腐る! 自然栽培の野菜は腐らない!
2. 慣行栽培や有機栽培は農薬を使っているから腐る!
3. だから自然栽培の野菜が安全!
という論理で、自然栽培(農薬・肥料不使用)の優位性をアピールしているようです。しかし、この比較には穴があります。
慣行栽培と有機栽培の野菜は根を切って泥を落としている市販の野菜を使い、自然栽培の野菜は自分で育てて収穫したものを実験で使っています。
……これ、フェアではありませんよね?
どうしてもこの実験がしたいのであれば、自然栽培の野菜も市販で購入したものを使用するべきです!
市販の野菜は出荷調整の際にキズができるので、条件を市販の野菜に揃えた場合、もちろんどの野菜も腐ります! そもそもスタート時の鮮度/収穫から経過している日数も違いそうです。
だいたい腐る腐らないで優劣をつける意味が僕には分かりません……
全ての野菜は(農薬の有無に関わらず)有機物なんだから、腐ってもいいと思うんですが……
8.(右)農薬散布すると、農家は体調を崩す!
「農薬散布をした後に、体調が悪くなる農家もいるらしい! だから農薬は危険に決まってる!」という主張もSNSにはあります。
確かに、農薬散布で体調を崩す農家もいることは否定はしません。しかし、だからと言って「農薬=危険」と結びつけるには尚早です。農薬散布の作業をして体調を崩すのは、化学物質とは別の原因があると僕は考えています。具体的には、以下が挙げられます。
● マスクやカッパ着用による息苦しさや暑苦しさ
● 炎天下での作業をする熱中症のリスク
● 消毒ホースを引っ張るという重労働
上記の対策をせずに体調を崩したという人も含みます。
僕が現場で経験している限り、農薬の化学物質より、これらの方が大きな原因になり得ます! 農薬散布は、とにかくキツイ作業です。だから農家は、なるべく農薬を減らそうと常に努力していることもぜひ知ってほしいのです。
9.(投)化学的・科学的なモノは一切信じない!
「とにかく化学は信用できない! 後になって危険性が分かったらどうするんだ!」
「〇年後や世代を超えて影響が出る可能性があるかもしれない!」という心配をする方も多いです。
確かにそのとおりで、後になって分かることもあるかもしれません。しかし、100%安全な食べ物など存在しません。無農薬だからと言って100%安全ではないのはもちろん、水や塩ですら取りすぎは危険です!
● 科学技術の進歩
● ADIや農薬取締法などの厳しい安全基準
これらを満たした今の農薬は、化学的・科学的に安全が保証されているのは事実です。
根拠もなく不安を煽りまくる素人の意見よりも、よっぽど信用できると僕は考えています。あなたが信じている農薬の危険を語っている人は、本当に信用できますか?
まとめ
何度も断っておきますが、有機栽培やそれを選ぶ消費者を否定する意図は全くありません。消費者の全ての選択は尊重されるべきです。
しかし、根拠もないデマで不安を煽って農薬を叩くヤツはいなくなってほしいなと思っています。
正しくリスクを知って、正しく恐れること!
これが消費者が自らの身をデマから守る、一番効果的な方法です。
筆者 |