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第5回 グリホサートの発がん性は科学的知見により否定されている【IARCに食の安全を委ねてはいけない】
科学的知見にもとづく世界各国の規制機関によるリスク評価では、グリホサートの発がん性は一貫して否定されている。IARC(国際がん研究機関)による発がん性分類グループ2Aは唯一の例外だ。しかし2018年のジョンソン裁判では、被告の米モンサント社(現バイエル)に約3億ドル(320億円)の賠償を命じる評決が下された。陪審員は科学的知見ではないモノサシで評決を下した可能性が高い。
ジョンソン裁判とIARC分類
2018年8月、除草剤ラウンドアップ(有効成分グリホサート)が原因で悪性リンパ腫を発症したと元学校のグランド管理人の原告ジョンソン氏が主張する裁判でカリフォルニア州の裁判所は、被告の米モンサント社(現バイエル)に2億8900万ドルの賠償(約320億円のちに7850万ドルに減額)を命じる評決を下した。
原告初の勝訴となったジョンソン裁判の評決を受け、ラウンドアップ裁判が再び話題になっている。同社を訴える原告が急増中と報じられている。
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しかし評決を下した陪審員は発がん性の有無について科学的に判断したわけでもなければ、この裁判で新たな科学的データは何も出てきていない。グリホサートががんを引き起こすと考える人々は、「おそらくヒトに対して発がん性がある」と分類したIARC(国際がん研究機関)の2015年の専門書(モノグラフ)をよく引き合いに出す。
このIARCの結論は、他の専門家による論文や政府機関によるレビューよりも狭い範囲の証拠を用いて導き出されたものである。オーストラリアの規制当局であるオーストラリア農獣医薬局(APVMA)は、IARCの判断を受けてグリホサートの安全性を見直した。2016年の報告書では次のように結論づけている。
「現在のリスクアセスメントに基づき、すべてのグリホサート製品のラベルの指示に従えば、使用者は十分に保護される。」
米国で5万人以上を10年以上追跡調査した「農業研究調査」の結果が2018年に発表された。グリホサートへの曝露が最も多い集団を対象としたこの実地調査は、グリホサート製剤による発がんリスクがあるとしても、それは極めて小さいことを示し、また非ホジキンリンパ腫のリスクは無視できる程度であることが示された。*編集部註 IARCはこの最も包括的で信頼性の高い疫学研究を排除した。
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この研究がジョンソン裁判にどの程度利用されたかは不明である。
規制機関のリスク評価に反する
グリホサートは世界中で最も使用されている除草剤である。植物やバクテリアの一種には存在するが、動物(人間)には存在しない特定の経路(シキミ酸経路)を標的として雑草を枯らす。
短期間の曝露という点では、グリホサートは食卓塩よりも毒性は低い。しかし、論争を巻き起こしているのは、グリホサートの慢性的な、つまり長期的な曝露である。
農薬や除草剤は定期的に安全性が再評価され、グリホサートについても多数の研究が積み重ねられている。例えば、2015年にドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は、グリホサートは変異原性も発がん性もないことを示唆した。同じく2015年には欧州食品安全機関(EFSA) が行った審査で、グリホサートには発がん性の危険はないと結論づけられた。
ところが、その後にIARCの驚くべき分類が行われたのだ。IARCと他の報告書の主な違いは、検討された証拠の幅、ヒトでの研究の重み、生理学的妥当性の検討、そして最も重要なリスク評価に集約される。IARCはグリホサートとがんの関連性を確立するために、グリホサートへの曝露の程度を考慮しなかったが、他の報告書では考慮されている。
陪審員に影響を与えたのは科学か感情か
ある化学物質の発がん性の有無を確認するためには、そのメカニズムを明らかにする必要がある。典型的な調査は、化学物質がバクテリアの突然変異や哺乳類細胞のDNAに損傷を与えるかどうかを調べる遺伝毒性試験である。
IARCやその他の機関が検討した、グリホサートがバクテリアや哺乳類の細胞に突然変異を起こすかどうかを調べた研究は、否定的なものであった。また、証拠の重みから、グリホサートが重大なDNA損傷を引き起こす可能性は低いとされた。
動物実験は通常、ラットまたはマウスで行われる。ネズミは人間が曝露するよりもはるかに高い濃度のグリホサートを、寿命の89%まで経口投与される。
EFSAが調査した研究では、9つのラット研究でがんは見られなかった。5つのマウス研究のうち、3つでは最高用量でもがんは見られなかった。1つの研究では腫瘍が見られたが、これは用量依存的ではなく(因果関係ではなくランダムな変動を示唆)、1つの研究では腫瘍は男性のみで最も高い用量で見られた。
その結果、EFSAは、グリホサートはヒトに対する発がん性の危険性は低いという総合的な結論を出した。
IARCの評価には、6つのラット試験のみが含まれている。1つの研究では、がんが確認されたが、これは用量依存的ではなかった(これもランダムな変動を示唆)。また、マウスを使った研究は2つだけで、そのうち1つは発がん性がなく、男性で統計的に有意な「傾向」が見られた。
このため、IARCは動物における発がん性の十分な証拠があると結論づけたが、腫瘍の種類(マウスとラット)や部位に一貫性はなかった。
ヒト試験(疫学研究)は膨大な分野なので、簡潔に研究を要約する。EFSAは21のヒト試験を調査し、がんとグリホサート使用の関連性を示す証拠はないとした。IARCは19のヒト試験を調査したが、がんとの関連性を示す統計的に有意な証拠を見いだせなかった。しかし、非ホジキンリンパ腫との関連を示唆する3つの小規模な研究を発見した(統計的に有意ではない)。
先述したように、大規模な農業健康調査では、ヒトにおけるがんとグリホサートとの関連は認められなかった。そしてオーストラリアの規制当局による2016年のレビューでは、グリホサートは用法用量を守って使用すれば安全であると結論づけられている。
つまり、旧モンサント社や遺伝子組換え作物(GMO)に対する反感が、陪審員の判断に科学的知見よりもはるかに多くの影響を与えた可能性がある。
参照
*この記事は、ACSH(全米科学健康評議会)スタッフ アデレード大学薬理学上級講師 イアン・マスグレイブ氏 2018年10月9日公開 https://www.acsh.org/news/2018/10/09/if-you-accept-science-you-accept-roundup-does-not-cause-cancer-13490 をAGRI FACT編集部が翻訳編集した。
筆者AGRIFACT編集部 |